三十二話 いつか逢うだろう君へ
六日目最終日です。今作にて一番書きたかったシーンです。
「いっぱい話したいことがあったの。」
時雨はその言葉で会話の口火を切った。
「そっか、言いたいことがあるなら言って欲しい。」
「ちゃんと聞いてくれる?」
「あぁ、もちろん。そのために来たから。」
重ねた手に力がこもった。病院のベッドの窓側に並んで腰掛け肩が時折触れるほど近い。互いの息遣いすらも手に取るように感じられるほどだ。
「とはいえ、今更何を言って良いのやら、私には想いを言葉にする意志さえ欠けてしまったのか、てね。長いことそんなことしてなかったから忘れちゃったのかな。」
月明かりでかろうじて見える彼女の顔がくしゃっと歪んだ。涙を流さないまでも軽く触れるだけで崩壊しそうなほど潤んだその瞳が、溜め込んだ何かを明確に形容しているのだ。
「ずっと...私は一人で。」
さらに手に力が加わる。震えて、熱くなって、伝わって。
「もう一人じゃないだろ?」
「ふふ、そうだったね。」
ずっと一人だった。孤独だった。少女の悲しみを理解できる者などいはしなかった。そこに一つの例外もない。それでも少年は受け入れることを決めたのだ。自分のできないことを、少女の全てを。
「言わなくったってちゃんと伝わってるさ。それでも俺は言葉が欲しいけどな。だから、言って欲しい事は言って欲しいっていう事にするよ。時雨が言いたい想いをうまく言葉にすることができないなら、俺が今知りたい時雨の気持ちを訊ねるからさ、それに答えてくれないか?」
「...はい!」
いつか君にたくさんの伝えたいことができて。
「もっと生きたいですか?」
「はい、もっと生きたいです!」
いつか君がそれをはっきりと言えるようになって。
「もっと一緒にいたいですか?」
「はい、もっと一緒にいたいです!」
いつかもう一度逢えたなら。
「また、俺とデートしてくれますか?」
「はい、また何度でも!喜んで!」
その時はもっと聴かせてください。
「好きだ。時雨に会えて良かった。」
「好き!大好き!聖に会えて...私幸せだよ。」
君の想いを君の声で、そして君なり言葉で。
書いてて楽しかったです。




