二十七話 「蝉彼女」
お久しぶりです。
「それはそれは大きな問題があってだな...。」
「いきなりどうしたんだい?」
ここ最近いろいろなことがありすぎてすっかり忘れていたことがあった。夏休みなら当然あるのが長期休暇課題だ。まだまだ夏休みはこれからだが、手つかずのままではいられない。
「というわけで、具体的なやりたいことがない以上今日は俺に付き合ってもらう。」
「ああ、なるほどね。課題を手伝ってもらいたいわけだ。私に。」
あきれ顔の時雨であるが、どうやら手伝ってくれるらしい。机の上の漫画を片し始めた。アニメ化までした有名なギャグマンガ。この間言ってたやつだ。人気漫画よりも面白いなら腕を折ったかいもあったわけだ。それよりもなによりも、もっと大事なことはあるけれど、厄介な自称美少女にであったとか、友達になったとか、思い出作りを手伝わされたとか。
「小学校すら曖昧にしか受けていないこの私に君の宿題を手伝えと?」
「勉強は自分でしてたんだろう?トランプをした時の記憶力があの場だけだったなんて言わせねぇからな。」
「ええ、まぁそう。聖の夏休みの課題程度なら秒だよ、秒。」
「それは頼もしいな。」
ふと気づくとまともに時間を共にできるのは今日で最後なのだ。時雨は明日ここを去る。時雨と会ったあの日からもう一週間が過ぎようとしていた。
徐に課題へと目を落とす。
「君と初めて会った日のことを思い出していた。」
「...聖?」
「思い返して見ると数多の音がその空間を演出していた。窓の外からわずかに聞こえる蝉の声、ひどく心地よくそよ風のような君の声音、車椅子のタイヤが床と擦れる際の耳障りな音さえもあの一瞬にて完璧であったのだ。そして、それら全てが彼女の為だけに世界が用意したものなのだと、私はそう思えてならなかった。その言葉に一切の偽りはない。」
視線は変わらず下へ向けたまま、言葉だけなぞるようにつらつらと流れ出して行く。まるで初めから用意されていたかのように。
「聖...それって、」
「って言う部分の『君』に対する『私』の抱いている感情を六十文字以内で簡潔に答えなさい。」
「はぁ!?」
今は勉強の時間。言いたい事、聞きたい事、全部忘れて今は集中。まずは国語の小説から。
「聖!絶対!許さない!」
「ははは!勉強モードの俺はひと味違うのだ!」
笑ってはいたが答えが出ない。君ならなんて書くだろうか。私ならなんて書くだろうか。なんにも、なんにもわからない。所詮は空想の物語。信憑性も真実味も現実味もない筆者の独善的な押し付けがましい妄想の押し売り。文末に記載されたノンフィクション。
ただ、その言葉に一切の偽りはない。
毎回のようにお久しぶりと言ってる気がします...。




