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二十九の掟 地下道では騒いではいけません

 予想してた結界もなく、ワタシたちは無事地下道まで一直線に降りられました。

 あとは、居間の扉が開かないことに気がついて、ジェーンとジーンが騒ぎ出すまでの時間がどれぐらいあるか、にかかっています。

 ワタシたちが部屋にいないことが知られれば、あの爺のことです。抜け道を使ったとすぐ気がつくでしょう。そうなったら、出口をことごとく抑えられてしまいます。

 だから、時間との勝負なのです。

 塔の位置を確認しながら、地下道を小走りに走ります。途中で王城の中庭に出られる場所をフィリップさんに教えて、彼とは別れました。

 時間の余裕がなかったから、居間でおしゃべりしてるようなカモフラージュもできませんでしたし、やっぱり十分から十五分が限度だと思うのです。

 ワタシの閉じ込められていた塔からマリオン殿下の塔までは、ほぼ王城の端から端までと同じです。地下道はまっすぐ走ってませんから、その中をうねうねと迷路のように走る通路を間違いなく進まないといけません。

 前は、王城の外に出るルートでしたから、こんなに長く走らずに済んだのですが、流石に疲れます。


「あ、あきちゃん、なんでこんな通路を、知ってるんですのっ?」


 キャリーさんが息も絶え絶えに聞いてきます。


「それなんですけど、わからないんです。ぱっと頭の中に地図が出てきたみたいな感じで。あ、そこ右です」


 地下道は普段は使われないから明かりなんか全然ないんです。ただ、人がいるとその前後の道に明かりがぱーっと光るんですね。全部に明かりがつかないので、ちょっと怖いんですけど、慣れると先読みができるようになりますから、便利です。


「頭の中に……」


 その上、どこに行きたいかを思い描くと、ぱぱっと道がわかるんですね。この脳内地図、すっごい便利です。普段から使えるといいのに、なぜかクロさんに呼ばれた時だけ使えるんです。不思議です。

 ああ、これも魔法なのかもしれません。

 クロさん、すごいですー。


「あ、どうも護衛の人が気がついたみたい」


 キャリーさんが知らせてくれます。


「あ、分かるような術、かけてたんですか?」

「ううん、宮廷魔術師全員にアッシュネイト姫の追跡命令が出たから。……ってずいぶんとっちらかってるみたいね。その場にわたくしも兄様もいましたのに、わたくし達二人にも通知が来るなんて」

「あと十分ぐらいは余裕ありそうですね。あ、こっちです。マリオン殿下の塔の入り口」


 ワタシが監禁されてた塔とほぼ同じ作りですね、やっぱり。結界も地中までは食い込んでませんし。


「ここから浮遊の術で上がります。本当はどこかに階段があるはずなんですけど……」


 脳内地図をぐるぐる回して見てみても、どこかまではわかりません。この地図を作った人、魔法が使えるんですね。魔法前提の逃走経路みたいですから。


「うーん、わかりません。キャリーさん、魔法お願いしていいですか?」

「はい、もちろん」


 キャリーさんが呪文を紡ぎ始めました。歌うみたいに聞こえるんですよね、魔法の呪文って。

 体がふわっと浮きました。びっくりしてキャリーさんに手を伸ばすと、キャリーさんも手を握ってくれました。

 いきなり浮くんですねえ、慌てちゃいました。


「このままゆっくり上げてくださいー。上に何も乗っかってないといいんですけど」

「それはきっと大丈夫です。クロード様のことですから、カーペットもめくってくれていると思いますよ」

「そうですね。あ、フィリップさんは無事外に出られたんでしょうか? キャリーさん、わかりませんか?」


 ワタシは別れたままのフィリップさんを思い出します。マリオン殿下の部屋で会おうとはおっしゃってたので、きっとここを登りきればフィリップさんも来てるはずなんですよね。


「ええ、大丈夫みたいです。兄上の魔力を上から感じますから」


 まだ地下道で別れて二十分も経ってない気がするんですが、さすがはフィリップさんです。


「そろそろ一番上に到着します。……まだ蓋は開いてないみたいですね」


 キャリーさんの言葉に顔を上げてみます。蓋が開いていれば明るいはずなんですが、まだ開いてませんね……。


「これ、内側から開けることってできるんですか?」

「もちろんです。少し待ってくださいね」


 一番上に到着したみたいです。手を握って引っ張ってもらっているので、キャリーさんは右手しか、ワタシは左手しか使えません。


「とりあえず、ノックしましょうか」


 軽く二回、間を置いて三回。確かこれが合図のはずです。ゴソゴソ音が聞こえて、いきなり四角い窓が開きました。

 と同時にすごく嫌な気配が流れ込んできて、ワタシは顔をそむけます。なんだろう、この嫌なの。胸の奥がムカムカしてきます。キャリーさんを見ると、キャリーさんも同じ気分のようです。


「そのままちょっと待ってて」


 クロさんの声に続いて呪文を唱える声。ふっと体が軽くなりました。


「気分はもう大丈夫?」

「はい……」


 本当はあまり大丈夫じゃありません。でも、最初の気持ち悪さは消えていました。

 手が差し伸べられて、キャリーさんと一緒にワタシも引っ張り上げられます。

 黒いすべすべの毛並みが、ピンと立った三角の耳が見えました。


「クロさぁん」

「あきちゃん、無事でよかった」


 お城の入り口で引き裂かれてから、ようやく会えました。泣きそうです。

 あまりに嬉しくてぺたっと座り込んでしまったワタシに、クロさんは膝をついて柔らかく抱きしめてくれます。柔らかいクロさんの毛並みが嬉しいです。ふかふか〜いいにおい。


「感動の再会はそれぐらいにしておいてくれないかな。もうあまり時間がない」


 あ、この声はフィリップさんですね。


「そうですね。……あきちゃん、よく聞いて。今から君の力を借りる。少し体が辛くなるかもしれない。だから……全てが終わるまで、眠っておいてくれ」


 抱きしめられたまま、耳の側でクロさんが囁いています。


「はい。……分かりました」


 クロさんのいうことは絶対です。


「ごめんね、あきちゃん。……終わったら、迎えに行くから」


 すりすりと頬ずりされました。うわーっ、嬉しいです。普段もやってくれたらもう、一日中ご機嫌なのに。

 チュッと音を立ててほっぺたにキスされました。直立猫のキスはどちらかというと鼻を押し付ける感じになるんですよね。ちょっと冷たいですけど、嬉しい。


「あきちゃん……『眠れ』」


 魔力のこもった言葉が耳に入ってきます。あっという間に睡魔が来ました。目が開けてられません。


「は……い」


 最後にクロさんの心配そうな顔が見えて、ワタシは眠りに落ちました。

 大丈夫ですよ、クロさん。ワタシなら大丈夫ですから、そんなに心配しないで――。

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