第十四話「薩摩の落日」
**第十四話「薩摩の落日」**
**第一章:九州全土の陥落**
至元十一年(1274年)十二月初旬。錦江湾の完敗を受け、薩摩の雄・島津久経はわずかな手勢とともに山中へ逃亡を余儀なくされ、根拠地であった東福寺城は静かに開城した。
博多湾の防塁破砕から始まり、筑紫平野を駆け抜け、熊本平野を穿ち、最後は薩摩の難所を海から突き崩す——。
平景明が描いた「九州縦断作戦」は、史実を完全に塗り替え、わずか二ヶ月足らずで完成をみたのである。
博多、肥後、薩摩を結ぶ南北の縦断ルートは完全に蒙古と平家の手に落ち、豊後(大友氏)や肥前(少弐氏)の残党も包囲され、動きを完全に封じられた。九州全土が、実質的に景明率いる平家一門と、元軍の完全なる支配下へと組み込まれた瞬間であった。
落ちゆく夕陽が、錦江湾の海面と桜島の雲煙を真っ赤に染め上げていく。城から見下ろすその景色は、かつて祖父が語った「壇ノ浦の赤き波」を思わせる凄絶な美しさであった。
**第二章:英霊への報告と大都の影**
城上の高台に登った景明は、背の唐櫃から重厚な布を取り払い、古鏡——三種の神器を夕陽にかざした。
光を浴びて怪しく輝く鏡面に向かい、景明は静かに膝をつき、深く頭を垂れた。
「祖父上、父上……そして壇ノ浦の深淵に沈みし平家一門の御霊よ。お聞きくださりませ。……いま、九州の全土に、再び平家の赤旗が翻りました」
波の音に混じり、亡き祖父・景春の「源氏に絶望をたたきつけよ」という声が、耳奥で響いた気がした。
八十年の長きにわたり、暗い孤島で煮詰められてきた情念。鎌倉幕府の九州における権威は完全に失墜し、復讐の第一歩は果たされたのだ。
「しかし、終わりではございません。真の戦いは……これからにございます」
景明が静かに呟いたその頃、海を遠く隔てた大都(北京)の宮殿では、九州完全制圧の報を受けたフビライ・ハーンが玉座で祝杯を挙げていた。
「見事だ! 平家の男が約束通り、九州を我らの手中に収めたぞ!」
歓喜に沸く側近たちの中で、フビライの鋭い瞳が一瞬、冷たく陰った。
「……だが、その平家の男(景明)は、九州の御家人や民をうまく抱き込み、急速に勢力を広げているというではないか。我が軍の火砲や兵を使い、自らの王国を築くつもりではあるまいな?」
覇者フビライの心に、狂おしいまでの「警戒」の種が芽生え始めていた。
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**次回(第十五話)のご案内**
第十五話「覇者フビライの真意」
九州を制圧した景明のもとへ、大都のフビライから「ある命」が届く。元の真の狙いと、景明を警戒し始めた大陸の動き。元軍と平家一門の間に、不穏な亀裂が走り始める!




