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世界最強の幼女ですが、怪異たちに過保護にされています  作者: ていふ嬢


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第一話:世界で一番恐れられる少女

世界には、知られていないものがある。


 人の目には映らないもの。


 人の理では測れないもの。


 人々はそれらをこう呼んだ。


――怪異。


 山を一歩で越える獣。


 影だけで街を支配する亡霊。


 千年を生き、人の記憶から消えない化け物。


 怪異とは、人間にとって恐怖そのものだった。


 ……しかし。


 そんな怪異たちが、唯一恐れる存在がいた。


「姫様、お目覚めの時間でございます」


 静かな声とともに、巨大な黒い影が部屋の扉を開く。


 その姿を見た人間なら、腰を抜かして逃げ出すだろう。


 顔はなく、体は霧のように揺らめき、無数の目が浮かんでいる。


 上位怪異《千眼の執事》。


 一国を滅ぼしかねない存在。


 だが――


「……あと五分」


 ベッドの中から聞こえた小さな声に、その怪異は動きを止めた。


「……かしこまりました」


 返事はあまりにも素直だった。


 世界中の怪異が恐れる存在が、一人の少女のお願いには逆らえない。


 なぜなら。


 彼女こそ――


「ルナ様。朝食の準備が整いました」


「今日のお菓子はある?」


「もちろんでございます。姫様がお好きな蜂蜜菓子を用意しております」


 白い髪。


 小さな身体。


 赤い瞳。


 見た目だけなら、どこにでもいる普通の少女。


 しかし彼女は違う。


 彼女は、世界で最初に生まれた怪異。


 全ての怪異の始まり。


 怪異たちが敬意と畏怖を込めて呼ぶ存在。


――《怪異姫》。


 ルナ。


「ねえ、今日も外に行っていい?」


 その言葉を聞いた瞬間。


 部屋にいた怪異たちの空気が変わった。


「……危険です」


「人間界へ行くなど、あまりにも無謀です」


「姫様に何かあれば、この世界は――」


「だめ」


 ルナが頬を膨らませる。


 たったそれだけ。


 それだけで、数千年生きた怪異たちが黙り込んだ。


「私は、人間を見てみたいの」


「……なぜでございますか?」


 執事が尋ねる。


 ルナは少し考えてから笑った。


「だって、みんな楽しそうだから」


 怪異たちは理解できなかった。


 自分たちは人間に恐れられる存在。


 人間とは、自分たちを拒絶する存在。


 なのに。


 この少女だけは違った。


「仲良くできたら、嬉しいな」


 その願いを聞いた瞬間。


 怪異たちは静かに頭を下げた。


「……承知いたしました」


「姫様の願いならば」


「我ら怪異一同、必ずお守りいたします」



 その日。


 人間界に、一人の少女が現れた。


 誰も知らない。


 その小さな少女が――


 世界を簡単に変えられる存在だということを。


 そして。


 彼女を守るためなら、世界最強の怪異たちが動き出すということを。

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