氷雪の街『フロスト・ヘイム』のギルドホールは、歓喜の咆哮と祝杯の音で揺れていた。
オークの軍団を壊滅させ、伝説の守り神たるフェンリルを救ったシオンたちの武勇は、街中の冒険者や住民たちの間で神話的な伝説として語り継がれようとしていた。
ギルドマスターが手配した祝宴は最高級の酒と料理で埋め尽くされ、シオンを中心とした宴は深夜まで途切れることなく続いた。
吟遊詩人の優雅な調べがホールに響き、リーナはルミナリアと一緒にシオンの隣で楽しげに杯を空け、アルベルトとエルザ、そしてイリスの三人はシオンたちが無事に帰ってこられたことを心から喜び祝杯をあげ。
ルナリスは、救われた守り神に対する信仰心と、シオンに対する抑えきれない恋慕の狭間で、どこか夢見心地な様子で祝杯を手にしている。
宴が最高潮に達し、街が静寂を纏い始める頃、シオンは一行を伴ってギルド併設の最高級宿泊施設へと戻った。
暖炉の火が静かに爆ぜるスイートルーム。
シオンはひとり、広々とした寝台に腰を下ろし、窓の外に広がる銀世界の静寂を眺めていた。
フェンリルは、寝室の端にある絨毯の上で、丸まって静かな寝息を立てている。
その銀色の毛並みは、月明かりを吸い込んで淡く発光しているように見えた。
「……伝説の守り神、か。お前もまた、長い時を孤独の中で生きてきたのだろう」
シオンが呟きながら毛布に身を沈め、瞼を閉じようとしたその時だった。
暖炉の火影がゆらりと揺れ、室内の空気が一変した。
獣としての気配が消え去り、そこには人の形をした濃密な魔力――野生の気高さと、獲物を狙う雌特有の情熱を秘めた、この世のものとは思えないほど美しい女性の影が立っていた。
透き通るような銀髪は夜の闇に溶け込み、琥珀色の瞳はシオンを射抜くように強く見つめている。
彼女の纏う魔力は冬の冷気を孕みながらも、内側には煮えたぎるような情欲を宿していた。
「驚いたな。……獣の姿も威厳があったが、これほどの美女だとは思わなかった」
シオンが寝台に座ったまま冷静に問いかけると、彼女は妖艶に微笑み、迷いのない足取りでシオンの寝台へと歩み寄った。
彼女の動きは優雅そのものでありながら、どこか獲物を追い詰める捕食者のしなやかさを備えていた。
彼女はシオンの視線を真っ直ぐに受け止め、その上に重なるようにして覆いかぶさる。
彼女の身体からは、冬の空のような清涼な香りと、獣としての濃密で熱い体温が伝わってきた。
「驚くことはない。お前が私の呪いを解き、私の深淵を浄化したその時、私の魂の半分はすでに貴方のものになっていたのだから」
彼女の指先が、シオンの鎖骨をゆっくりとなぞる。
彼女はフェンリルとして生きてきた千年の記憶の中で、シオンという男が持つ能力――魂の奥底にある渇望を吸い上げ、愛によって支配し、その身を情欲の糧とする「性の捕食者」としての本質を、理解していた。
「貴方の力、貴方の悦び。すべてをこの身に受け入れる準備はできている。お前が私を救ったように、今度は私が、貴方という支配者の器を、私のすべてで満たしてやろう」
彼女はシオンの耳元で熱い吐息を漏らし、確信に満ちた声で囁いた。
彼女の琥珀色の瞳は、シオンへの服従と、支配者に対する情欲で濁り始めている。
「さあ、私を抱け。そして私の魂に刻まれている、この古の力を受け取るがいい!」
シオンの真紅の瞳が、彼女の獣じみた情欲を映し出し、妖しく輝く。
もはや言葉は不要だった。
シオンは彼女の細い腰を引き寄せ、唇を深く重ねた。
それは契約であり、支配の儀式であった。
フェンリルは獣のような獰猛さでシオンの首筋に食いつき、互いの魔力が溶け合うように昂っていく。
シオンの指先が彼女の滑らかな肌を愛で、彼女が喉の奥から獣のような悦びの声を漏らすと、寝室の空気は甘く、ねっとりと濃厚に塗り替えられた。
シオンの支配的な愛撫と、フェンリルの野生的なまでの執着が激しくぶつかり合う。
シオンが彼女の深淵へと深く突き刺すたびに、彼女の銀髪が激しく揺れ、極上の快楽が二人を飲み込んでいく。
それは、ただの肉体の交わりではなかった。
神聖な魔力と、人の底なしの欲望が混ざり合い、シオンという存在が、伝説そのものを我がものにしていく崇高なる儀式だった。
「あぁっ……! シオン、もっと……魂まで、貴方の色に染め上げて……! 私の中のすべてを、貴方のものにして……!」
獣としての本能をさらけ出したフェンリルは、シオンの強引な支配に身を任せ、快楽の奔流に飲まれていく。
シオンが突き上げるたびに、彼女の魔力は極上の甘美さを帯び、二人を包み込む結界のように高まっていく。
何度も何度も繰り返される情事の果てに、フェンリルはシオンの胸の中で、初めて「守り神」ではない一人の女としての安らぎを知り、その瞳に甘美な忠誠を宿した。
夜が明け、淡い光がフロスト・ヘイムの街を照らす頃には、彼女はシオンという支配者の、最も強大で、最も狂おしいほどの愛を手に入れていた。
第27話へ続く