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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第26話】銀の月の誓約


 氷雪(ひょうせつ)の街(まち)『フロスト・ヘイム』のギルドホールは、歓喜(かんき)の咆哮(ほうこう)と祝杯(しゅくはい)の音(おと)で揺(ゆ)れていた。


 オークの軍団(ぐんだん)を壊滅(かいめつ)させ、伝説(でんせつ)の守(まも)り神(がみ)たるフェンリルを救(すく)ったシオンたちの武勇(ぶゆう)は、街中(まちなか)の冒険者(ぼうけんしゃ)や住民(じゅうみん)たちの間(あいだ)で神話的(しんわてき)な伝説(でんせつ)として語(かた)り継(つ)がれようとしていた。


 ギルドマスターが手配(てはい)した祝宴(しゅくえん)は最高級(さいこうきゅう)の酒(さけ)と料理(りょうり)で埋(う)め尽(つ)くされ、シオンを中心(ちゅうしん)とした宴(うたげ)は深夜(しんや)まで途切(とぎ)れることなく続(つづ)いた。


 吟遊詩人(ぎんゆうしじん)の優雅(ゆうが)な調(しら)べがホールに響(ひび)き、リーナはルミナリアと一緒(いっしょ)にシオンの隣(となり)で楽(たの)しげに杯(さかずき)を空(あ)け、アルベルトとエルザ、そしてイリスの三人(さんにん)はシオンたちが無事(ぶじ)に帰(かえ)ってこられたことを心(こころ)から喜(よろこ)び祝杯(しゅくはい)をあげ。


 ルナリスは、救(すく)われた守(まも)り神(がみ)に対(たい)する信仰心(しんこうしん)と、シオンに対(たい)する抑(おさ)えきれない恋慕(れんぼ)の狭間(はざま)で、どこか夢見心地(ゆめみごこち)な様子(ようす)で祝杯(しゅくはい)を手(て)にしている。


 宴(うたげ)が最高潮(さいこうちょう)に達(たっ)し、街(まち)が静寂(せいじゃく)を纏(まと)い始(はじ)める頃(ころ)、シオンは一行(いっこう)を伴(ともな)ってギルド併設(へいせつ)の最高級(さいこうきゅう)宿泊施設(しゅくはくしせつ)へと戻(もど)った。


 暖炉(だんろ)の火(ひ)が静(しず)かに爆(は)ぜるスイートルーム。


 シオンはひとり、広々(ひろびろ)とした寝台(しんだい)に腰(こし)を下(お)ろし、窓(まど)の外(そと)に広(ひろ)がる銀世界(ぎんせかい)の静寂(せいじゃく)を眺(なが)めていた。


 フェンリルは、寝室(しんしつ)の端(はし)にある絨毯(じゅうたん)の上(うえ)で、丸(まる)まって静(しず)かな寝息(ねいき)を立(た)てている。


 その銀色(ぎんいろ)の毛並(けな)みは、月明(つきあ)かりを吸(す)い込(こ)んで淡(あわ)く発光(はっこう)しているように見(み)えた。


「……伝説(でんせつ)の守(まも)り神(がみ)、か。お前(まえ)もまた、長(なが)い時(とき)を孤独(こどく)の中(なか)で生(い)きてきたのだろう」


 シオンが呟(つぶや)きながら毛布(もうふ)に身(み)を沈(しず)め、瞼(まぶた)を閉(と)じようとしたその時(とき)だった。


 暖炉(だんろ)の火影(ほかげ)がゆらりと揺(ゆ)れ、室内(しつない)の空気(くうき)が一変(いっぺん)した。


 獣(けもの)としての気配(けはい)が消(き)え去(さ)り、そこには人(ひと)の形(かたち)をした濃密(のうみつ)な魔力(まりょく)――野生(やせい)の気高(けだか)さと、獲物(えもの)を狙(ねら)う雌(めす)特有(とくゆう)の情熱(じょうねつ)を秘(ひ)めた、この世(よ)のものとは思(おも)えないほど美(うつく)しい女性(じょせい)の影(かげ)が立(た)っていた。


 透(す)き通(とお)るような銀髪(ぎんぱつ)は夜(よる)の闇(やみ)に溶(と)け込(こ)み、琥珀色(こはくいろ)の瞳(ひとみ)はシオンを射抜(いぬ)くように強(つよ)く見(み)つめている。


 彼女(かのじょ)の纏(まと)う魔力(まりょく)は冬(ふゆ)の冷気(れいき)を孕(はら)みながらも、内側(うちがわ)には煮(に)えたぎるような情欲(じょうよく)を宿(やど)していた。


「驚(おどろ)いたな。……獣(けもの)の姿(すがた)も威厳(いげん)があったが、これほどの美女(びじょ)だとは思(おも)わなかった」


 シオンが寝台(しんだい)に座(すわ)ったまま冷静(れいせい)に問(と)いかけると、彼女(かのじょ)は妖艶(ようえん)に微笑(ほほえ)み、迷(まよ)いのない足取(あしど)りでシオンの寝台(しんだい)へと歩(ある)み寄(よ)った。


 彼女(かのじょ)の動(うご)きは優雅(ゆうが)そのものでありながら、どこか獲物(えもの)を追(お)い詰(つ)める捕食者(ほしょくしゃ)のしなやかさを備(そな)えていた。


 彼女(かのじょ)はシオンの視線(しせん)を真(ま)っ直(す)ぐに受(う)け止(と)め、その上(うえ)に重(かさ)なるようにして覆(おお)いかぶさる。


 彼女(かのじょ)の身体(からだ)からは、冬(ふゆ)の空(そら)のような清涼(せいりょう)な香(かお)りと、獣(けもの)としての濃密(のうみつ)で熱(あつ)い体温(たいおん)が伝(つた)わってきた。


「驚(おどろ)くことはない。お前(まえ)が私(わたし)の呪(のろ)いを解(と)き、私(わたし)の深淵(しんえん)を浄化(じょうか)したその時(とき)、私(わたし)の魂(たましい)の半分(はんぶん)はすでに貴方(あなた)のものになっていたのだから」


 彼女(かのじょ)の指先(ゆびさき)が、シオンの鎖骨(さこつ)をゆっくりとなぞる。


 彼女(かのじょ)はフェンリルとして生(い)きてきた千年(せんねん)の記憶(きおく)の中(なか)で、シオンという男(おとこ)が持(も)つ能力(のうりょく)――魂(たましい)の奥底(おくそこ)にある渇望(かつぼう)を吸(す)い上(あ)げ、愛(あい)によって支配(しはい)し、その身(み)を情欲(じょうよく)の糧(かて)とする「性(せい)の捕食者(ほしょくしゃ)」としての本質(ほんしつ)を、理解(りかい)していた。


「貴方(あなた)の力(ちから)、貴方(あなた)の悦(よろこ)び。すべてをこの身(み)に受(う)け入(い)れる準備(じゅんび)はできている。お前(まえ)が私(わたし)を救(すく)ったように、今度(こんど)は私(わたし)が、貴方(あなた)という支配者(しはいしゃ)の器(うつわ)を、私(わたし)のすべてで満(み)たしてやろう」


 彼女(かのじょ)はシオンの耳元(みみもと)で熱(あつ)い吐息(といき)を漏(も)らし、確信(かくしん)に満(み)ちた声(こえ)で囁(ささや)いた。


 彼女(かのじょ)の琥珀色(こはくいろ)の瞳(ひとみ)は、シオンへの服従(ふくじゅう)と、支配者(しはいしゃ)に対(たい)する情欲(じょうよく)で濁(にご)り始(はじ)めている。


「さあ、私(わたし)を抱(だ)け。そして私(わたし)の魂(たましい)に刻(きざ)まれている、この古(いにしえ)の力(ちから)を受(う)け取(と)るがいい!」


 シオンの真紅(しんく)の瞳(ひとみ)が、彼女(かのじょ)の獣(けもの)じみた情欲(じょうよく)を映(うつ)し出(だ)し、妖(あや)しく輝(かがや)く。


 もはや言葉(ことば)は不要(ふよう)だった。


 シオンは彼女(かのじょ)の細(ほそ)い腰(こし)を引(ひ)き寄(よ)せ、唇(くちびる)を深(ふか)く重(かさ)ねた。


 それは契約(けいやく)であり、支配(しはい)の儀式(ぎしき)であった。


 フェンリルは獣(けもの)のような獰猛(どうもう)さでシオンの首筋(くびすじ)に食(く)いつき、互(たが)いの魔力(まりょく)が溶(と)け合(あ)うように昂(たかぶ)っていく。


 シオンの指先(ゆびさき)が彼女(かのじょ)の滑(なめ)らかな肌(はだ)を愛(め)で、彼女(かのじょ)が喉(のど)の奥(おく)から獣(けもの)のような悦(よろこ)びの声(こえ)を漏(も)らすと、寝室(しんしつ)の空気(くうき)は甘(あま)く、ねっとりと濃厚(のうこう)に塗(ぬ)り替(か)えられた。


 シオンの支配的(しはいてき)な愛撫(あいぶ)と、フェンリルの野生的(やせいてき)なまでの執着(しゅうちゃく)が激(はげ)しくぶつかり合(あ)う。


 シオンが彼女(かのじょ)の深淵(しんえん)へと深(ふか)く突(つ)き刺(さ)すたびに、彼女(かのじょ)の銀髪(ぎんぱつ)が激(はげ)しく揺(ゆ)れ、極上(ごくじょう)の快楽(かいらく)が二人(ふたり)を飲(の)み込(こ)んでいく。


 それは、ただの肉体(にくたい)の交(まじ)わりではなかった。


 神聖(しんせい)な魔力(まりょく)と、人(ひと)の底(そこ)なしの欲望(よくぼう)が混(ま)ざり合(あ)い、シオンという存在(そんざい)が、伝説(でんせつ)そのものを我(わ)がものにしていく崇高(すうこう)なる儀式(ぎしき)だった。


「あぁっ……! シオン、もっと……魂(たましい)まで、貴方(あなた)の色(いろ)に染(そ)め上(あ)げて……! 私(わたし)の中(なか)のすべてを、貴方(あなた)のものにして……!」


 獣(けもの)としての本能(ほんのう)をさらけ出(だ)したフェンリルは、シオンの強引(ごういん)な支配(しはい)に身(み)を任(まか)せ、快楽(かいらく)の奔流(ほんりゅう)に飲(の)まれていく。


 シオンが突(つ)き上(あ)げるたびに、彼女(かのじょ)の魔力(まりょく)は極上(ごくじょう)の甘美(かんび)さを帯(お)び、二人(ふたり)を包(つつ)み込(こ)む結界(けっかい)のように高(たか)まっていく。


 何度(なんど)も何度(なんど)も繰(く)り返(かえ)される情事(じょうじ)の果(は)てに、フェンリルはシオンの胸(むね)の中(なか)で、初(はじ)めて「守(まも)り神(がみ)」ではない一人(ひとり)の女(おんな)としての安(やす)らぎを知(し)り、その瞳(ひとみ)に甘美(かんび)な忠誠(ちゅうせい)を宿(やど)した。


 夜(よる)が明(あ)け、淡(あわ)い光(ひかり)がフロスト・ヘイムの街(まち)を照(て)らす頃(ころ)には、彼女(かのじょ)はシオンという支配者(しはいしゃ)の、最(もっと)も強大(きょうだい)で、最(もっと)も狂(くる)おしいほどの愛(あい)を手(て)に入(い)れていた。


 


第(だい)27話(わ)へ続(つづ)く






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