【第16話】妖精の翼
迷宮の最深部、静寂に包まれた聖域で、俺とルミナリアは二人きりで向き合っていた。
長い孤独から解き放たれ、俺という男に初めて触れた彼女の瞳は、潤んだ獣のようだった。
俺はゆっくりと彼女の背中の羽を撫で、その繊細な身体を抱き寄せる。
「ルミナリア。君が守り続けてきたこの力、今度は俺と一緒に、外の世界で輝かせてみないか」
俺の甘い誘いに、彼女は震える声で同意した。
唇が重なる瞬間、妖精種特有の純粋で膨大な魔力が、溶け合う身体を通じて俺の中へと流れ込んでくる。
それは、俺が今まで奪ってきたどの力よりも甘美で、どこまでも透明な力だった。
「あっ......。んっ......あぁ......」
彼女が喘ぐたび、俺の全身を駆け巡る魔力は純度を増し、感覚が研ぎ澄まされていく。
妖精の持つ「空間を支配する力」と「風を操る力」。
そのすべてが、愛撫と共に俺の身体へと刻み込まれていく。
愛の果て、ルミナリアは俺の胸に安らぎの表情で身を預け、俺は新たな「翼」を手に入れた。
これぞ、ホストとしての最高級の代価だ。
こうして迷宮を攻略し、妖精族のルミナリアを仲間に加えた俺たちはギルド支部への報告を済ませ一度王都へと戻る事になった。
馬車の列を率い、迷宮から持ち出した秘宝の輝きは、王都の住民たちの度肝を抜くには十分すぎるものだった。
王都の門をくぐると、街の空気は明らかに変わっていた。
俺の噂はすでに伝説の域に達し、街行く人々は俺たちが通るたびに足を止め、畏敬の念と好奇心に満ちた視線を送ってくる。
「……シオン。すごいわ。まるで英雄の帰還ね。まあ、あんたがやってきたことは、ただの冒険者という枠を遥かに超えているけれど」
リーナが俺の隣で、周囲の喧騒を眺めながら苦笑する。
エルザもまた、胸を張り、王女としての気品を纏いつつ、誇らしげに周囲を見渡している。
迷宮の守護者であったはずのルミナリアは、今や俺の専属の従者のように、一歩下がって静かに従っていた。
「英雄か。悪くない呼び名だ。だが、俺は英雄になりたいわけじゃない。俺は、俺自身が心地よく踊るための、最高の舞台を作りたいだけだ」
俺がそう答えると、横にいたアルベルトが馬車の手綱を握りながら、ひどく疲れた様子で溜息をついた。
「……英雄だろうが何だろうが、俺はもう驚かないぞ。シオン、お前は街を歩くだけで女たちの視線を釘付けにし、迷宮を歩けば敵まで味方にする。俺はただ、お前のその『女を落とすテクニック』が、どこまで通じるのかを見届ける観客に成り下がっちまったよ」
アルベルトの言葉には、かつての貴族としてのプライドは微塵も残っていない。
彼は今や、俺の支配下で、俺という男の生き様を最も近くで学ぶ「弟子」のような立場になっていた。
そんな彼に、俺は軽く笑いかける。
「観客か。それもいいな。だが、お前もただ見てるだけじゃ損をするぞ。俺が女を落とす時の仕草、視線、声のトーン……すべてを盗んで、自分のものにしろ。いつかお前にも、相応しい『客』が現れるはずだ」
俺たちはギルド本部の重たい扉を開いた。
「……よ、よう。……まさか、本当に帰ってくるとはな」
男が引きつった笑顔で声をかけてくる。
俺は彼らの前を堂々と横切り、ギルドマスターの執務室へと向かう。
「ギルドマスター。迷宮を攻略してきた。報酬は、俺が受け取るべき価値のあるものに代えてもらうぞ」
ギルドマスターは、俺の背後に控えるルミナリアや、秘宝の気配を感じ取り、冷や汗を流しながら頷いた。
この街の頂点に立つ彼でさえ、今の俺の前ではただのしがない管理者に過ぎない。
「……分かった。望むものを言え。お前たちの功績は、もはやこの国の歴史に刻まれるものだ」
報酬を受け取った俺たちは、王都で最も高級なラウンジを貸し切り、夜の祝宴を開いた。
そこには王都中の美女たちが集まり、俺の一言に耳を傾け、俺の微笑みに酔いしれていた。
リーナ、エルザ、ルミナリアもまた、俺の隣でその夜の「主役」として、光り輝いている。
俺はグラスを傾け、窓の外に広がる王都の夜景を見つめた。
この街の夜の空気は、以前よりもずっと甘く、俺のために用意されたもののように感じられる。
「アルベルト。見てろ。これが、俺の『営業』の結果だ」
アルベルトは、集まった美女たちの輪の中で、自分がまるで場違いな場所にいるかのように呆然としている。
だが、その瞳には、俺に対する尊敬と、自分もいつか……という熱い野心が灯っていた。
第 17話へ続く




