【裏話4】香坂流星の欲望と絶叫。チートへの渇望と、佐々木君の逆ハック
坂本隆二(香坂流星)
俺が自転車を拭いていたら、今上がったばかりの関屋さんがまた出てきた。
はあ?!
少し話したら、彼女は慌てた様子でスマホを見た。
そうか。時間が止められていたのか。今度は何時間過ごしたんだろうか。俺は彼女の自転車を見た。ん?!サイコン?!あんなの付いていたか?もしかしてイベントとやらで手に入れた?
「家にいたくなくて。」
彼女はそう言ったけど、ファミレスですら躊躇する子だ。データはすぐにでも欲しいけど彼女がおごりは嫌だと言う以上出掛けさせるのは危険だろう。やはり明日まで待つしかない。
だが彼女は本当に危機感が無い。どうしても出掛けると言うのだ。
もしかして自分が女性だということを忘れているのだろうか。そうか、モンスターと戦う様な子だから自分が強いと過信しているのか。
まあ…結界が張れるらしいから大丈夫か。
ネットカフェに行くという彼女を送り出した。
だが大丈夫か?そういう時女性は恐怖のあまり固まってしまうと聞く。まさか俺から危ない時は結界を張ってなんて言える訳もない。
エントランスに入ろうとガラス越しに中を見ると佐々木君が居た。どうする?彼に言うか。また押し付けられるか?
だが彼は俺に気付かず非常階段へ向かう。そうか!彼と異世界に行っていたなら…
まずい!!盗撮がバレた!!
佐々木君は彼女の頭脳的ポジションなのか。
俺はすぐに関屋さんを追いかけた。これを逃したらデータも信用も全て失う!!
俺はこっそりと彼女の後をつけ、彼女が受付に上がるのを待って即座にレコーダーを回収した。だが俺はハンドルを見て驚愕した。
彼女はあろう事かサイコンを自転車に付けっぱなしなのだ。しかもきちんと教えた地球ロックをしていない。
「いや、ちょ。意味不明。」
うそだろ。まさかここまで迂闊だとは。
くそ。彼女の電話番号を聞いておけばよかった。俺はマンションに連絡して佐々木君に繋いでもらおうと考えた。何時間もここにいる訳にはいかない。
一旦送り出したものの様子がおかしかったので心配で追った。店内に入ったので大丈夫かと帰ろうとしたら高価なサイコンを自転車に付けっぱなしだった。連絡先を知らないので佐々木君に電話をかけた。よし、これでいこう。
頭の中で俺が彼女をつけてきた事の言い訳を考えていると声がかけられた。
「なんなんです?ストーカーですか?」
彼女は苛立った顔で僕を見ていた。
「やっぱり心配で。」
慌てて弁明する。良かった。下手したらここで朝まで待つところだったと心底ホッとする。
紆余曲折あり、彼女が本当にポンコツだという事は分かった。心の底から心配だ。彼女は時々物凄い洞察力を発揮するのに基本的にポンコツなのだ。そのアンバランスさがほっとけなくてどんどん夢中になってしまう。彼らのまるで初恋の様な淡く純粋な関係を見ていて、もどかしさのあまり、もし俺だったらといつも考えてしまう。
俺まで疑似恋愛にやられてしまっている。
俺は自室に向かう。
佐々木君は少しの話を聞いただけで盗聴と盗撮を見抜いた。この先はもう盗聴はできない。これが最後の機会だ。
いつも違和感があるのだが、彼女らの会話は時々飛ぶ。盗聴できない何かが会話に加わっているのだ。カリクは分かる。ノッテは彼女の従魔だ。そしてマナビとトワ。
念話系の能力者かと思ったが、ナビ達という単語が出た事がある。恐らく俺が敬愛するラファエルさんの様な存在。彼女の洞察力の正体はナビゲーションシステム!!!
だが、愕然とした。俺が異世界に行くのは不可能だというのだ。彼女らの最大のチート、時間無限が使えないのだ!!!
だがっ!だが俺は領収書無双も欲しい!!何よりインベントリが欲しい!!!
だけど俺は警戒されている。シーフ適正が高いと言うだけで。何故だかハッカーや犯罪組織の一員だと思われているのだ。非常階段の盗撮しかバレていないのにだ。
俺も佐々木君も、横井さんも彼女のイベントキャラクターであるという。
おそらくは彼女が勇者で、彼が大魔導士。彼は魔法を動画作成で作る創造魔法が使える。
俺が彼のサポートキャラだと言うのだ。とするならば、彼が必要とするのは、彼が苦手とする魔法の設定とアイディア。俺のファンタジー小説家としての技能だ。
俺はアプローチする相手を間違えたのだ。
俺の素性を明かし、彼と友達になるか、彼に動画作成を発注し、ファンタジーの話で盛り上がるなどして懐に入れば、すんなり仲間になれる可能性があったのに、関屋さんに好意があると見抜かれて仲間になる前から裏切りを警戒されている。
いや、好意は確かにかなりあるが、というか既に夢中だが…だが!ファンタジーと天秤にかけたらファンタジー一択だろうが!
だから佐々木君もイベント発生で苦渋を飲んで彼女を俺に託したし、彼女も両思いであるにも関わらず佐々木君と別れ、危険を犯して海に付いてきたのだ。それは当たり前の優先順位だ!
しかも多分俺が好きなのは関屋さんじゃなくてナビのどちらかだ!!
くそっ!俺も欲しい!ナビゲーションシステムが欲しい!!!
まあ遊ぶ程度の女なんかその気になれば掃いて捨てるほど居るし、だいたいからして女は面倒臭いだろうが。期待通りのリアクションが得られなければこちらを責めてヒステリックに泣くし喚く。
定期的に構ってやらなきゃやれ愛情だやれ触れ合いだのとうるさい。おざなりにすればやりたいだけかとか言うし、あんな疲れる接待やりたくねーわ。非効率だろーが!
俺は盗聴からの疑似恋愛で十分だわ。なんにも労せず一銭も支払わず色んなタイプの女を知れて、楽しくて満たされ小説のネタまで手に入る。最高じゃないか。
それに俺は時間無限を諦めてはいない。闇魔法といえば精神系のイメージが強い。もしも消えるはずの記憶を何らかの方法で残せるならば、俺も一緒にループしているのと同じ事になる。
もしそうなるなら、俺は地球の人間と深い関わりを持つ事を避けなくてはいけない。俺自身のメンタルの為だ。
もう俺は知ってしまった。もし時間無限ができるのなら、一生独身も厭わない。それ程に俺は彼らの能力に焦がれているのだ。
盗聴を悟られずにどうやって信頼を勝ち取ればいい?異世界に行けなかったとしても、時間無限が使えなかったとしても、闇魔法は興味がある!!錬金術もしたい!したいったらしたい!
そして異世界を小説のネタに使いたい!なんなら彼らの冒険を取材させて欲しい!!それだけでも許可が欲しいのだ!!
今の状態で書けば、俺の盗聴がバレてしまうからな。
そして運命の花見の朝…
僕に通知が届いた。
パソコンに届いたメールを開くととんでもない動画が。彼の、動画作成のスキルはここまでだったとは!僕が非常階段にカメラを仕込んだ様子が捏造されていたのだ。まさか。あそこには監視カメラは無かったはずだ!
そして、俺のハッキングのログと、マンション前で俺が彼女のサドルにレコーダーを仕込む映像…こちらは本物だ…。だがこんなに鮮明に拡大できるものなのか?!
"盗撮は良くないな。
君監視カメラも下手なハッキングしてるよね?
監視カメラの死角に仕掛けられてた電波式盗聴器も全部君の仕業?
坂本さんさ、僕の職業知ってる?
僕結構怒ってるの。
ずっと関屋さんの事盗聴してたよね?
音声は全て回収したよ。返答次第では仲良しの横井さんに君がストーカーだって愚痴っちゃうかも。
関屋さんの事を諦めてくれるなら、君を仲間に入れてあげてもいいよ。僕ね、実は勇者なんだ。
彼女には内緒だけど、彼女が僕のイベントキャラクターでもあるんだ。君に関屋さんを頼んだのも、僕の方に出た君の好感度アップイベントだったんだよ?"
ぎ、逆ハックだと…
やばい!このままでは俺が社会的に死ぬ!
しかも彼がまさかの勇者!彼と関屋さんは二人とも主人公だったのか!!そして俺のポジションは噛ませ犬っていうかむしろ主人公の犬。
俺が唖然としていると、スマホにメッセージが。
今ならコインパス型マジックバックが付いて更にお得。ちなみに僕は裏切ったら全ての能力を取り上げることができまーす。花見までに返信よろしく
もちろん即返信した。
喜んでお手伝い致します!何なりとお申し付けください!関屋さんには決して手を出さないと誓います!
やっぱり盗聴は稼げる!!
なんとマンションを盗聴しただけで労せず俺の念願が叶ったのだ!!!ひゃっほう!




