第56話 「僕が皆を守るから」涙の夜に誓う、勇者アオの覚悟と愛情
"僕帰ったら関屋さんにプロポーズするんだ!"
"やめて!シャレにならないから!"
"絶対生きて帰る!てかHP8000だよ?!グレイウルフHP180しかないから!"
"ええ!やばすぎ!村民の3倍とか!絶対に村にやっちゃダメじゃん!!"
私は魔法名も何も言わずに竜巻を放つ。
『ボーナス報酬 村民器用20アップ』
愛陽の天の声。村の方で歓声が。
「あっ!抜けた!!」
私が周りに配慮しすぎて竜巻を避けた狼が村へ。10匹は居る!
グレイウルフに混ざってウインドウルフというのが居た。奴らは風魔法で素早く駆け、ハイジャンプで罠を飛び越える。あのジャンプ力、馬房柵を超えてしまう!
『イベント ウルフ討伐(0/10)』
『突発イベント アトソーヌ防衛戦!』
ドドーンバリバリ!!!
『ボーナス報酬 村民MP150アップ』
「は?!」
物凄い雷が落ちた。
雷が落ちた方を見ると佐々木さん!!!
"環境破壊!"
"環境より村民の命!莉緒は村を守って!!ここやっつけたら僕も防衛行く!環境はリセット効く!"
佐々木さんは農地を背に地面に降り立つ。
"あ!ちょ!危ないよ!"
「フロストノヴァ!!!!」
アニメで見た様に佐々木さんを起点に目の前の地面がモンスターもろとも凍っていく。
ちょ!!!やめてその魔法!!!気温が!!!作物が!!!
『ボーナス報酬 村民HP150アップ』
「よしこれで僕も水聖級だ!師匠に感謝!」
よしじゃねーわ!!その師匠は佐々木さんの師匠じゃねー!!
"りおー!てつだってー!"
やばい!ノッテからヘルプだ!
私は風を纏って一気に飛ぶ。
「ノッテ!!」
カリクは外に出て貰えば良かった!彼は広範囲魔法が得意だから防衛戦は苦手なのだ。
ノッテとカリクは怪我した村民を守るのに必死で攻める事ができない。狼は8匹。倒したのはたったの3匹。守る村民の数が多すぎるのだ。
「うみゃあ!!あっちいけー!うみゃあ!!」
ノッテはもうパニック状態だ。
「全員退避して!!私がやる!!結界ぃ!」
私は狼を結界でくるんでその結界の中に竜巻を発生させた。
「えぇ。りおりお!えぐいスプラッタなんですけど!」
追いついてきた佐々木さんが8個の結界を見て引いている。
『報酬 村民敏捷20アップ 適正鑑定』
「みゃあ!けがさせちゃったのぉ!!!ふみゃあー。まもれなかったのぉ。みゃうー。しんじゃうう。やだあ。」
ノッテが村民の怪我にパニックになって泣き始めた。
彼女は仲間の怪我を見るのが初めてで冷静に判断できていない。カリクがノッテを舐めて宥める。幸い死ぬほどの怪我をしてる人は居ない。
『お疲れ様でした。本日の防衛戦は終了しました。互いで治癒をかけ合いその後はゆっくり休んでください。』
愛陽は天の声で言う。村人から安堵の声と歓声。本来の防衛戦だったらこんな天の声は聞こえないからきっと愛陽の大サービスなのだ。
私はノッテに声をかける。
「戦いは終わったから大丈夫。落ち着いて!治癒しようね!ノッテもカリクも立派に皆を守ったよ!ありがとうね!!」
ギャン泣きのノッテをカリクに任せて怪我人を集めて女性達と一緒に治癒をして回る。何とか死人は出なかった。
今回は作戦ミスだ。ノッテとカリクだけに防衛させた事で指示の更新ができなかった。従魔にはかならずマスターが付いて臨機応変に指示しなくてはいけない。
そして、作物を優先して本気で攻めなかった事。作物は命の源たげれど無くなってもまた作れる。命は、無くなればそれで終わりなのだ。
しかも、あんな魔法を使ったのに農作物に被害は無い。
ノッテは伏せたカリクにしがみついて泣き疲れて寝ている。心のダメージは深刻。モンスターだから大丈夫だと勝手に思っていたけどノッテはきっとまだ子供なのだ。
『ノッテは子供ではありません。ですが単独行動の期間が長すぎて自分基準でしか考える事ができません。根気よく話す事が必要です。』
ノッテは単独行動をしていたので守る戦いには慣れていないという。自分が強いので村人が弱いという想像ができていなかったらしい。ノッテが 完全に感情を爆発させ られるのは、強くて揺るがないカリクに寄りかかれるからだ。 彼らの間には強さと 甘えの絶対的な信頼関係が成り立っている。
「時間経つのは痛いけど今日はここで寝よ。起きたら村の皆が元気だって見せてあげなきゃノッテが立ち直れない。」
佐々木さんが眠るノッテを見て苦しそうに言った。
「そうだね。ノッテに難しすぎる指示を出した私のミスだよ。立ち直れるかな…」
ノッテに大きな期待をかけすぎた。
「信じるしかないよ。けど次は曖昧な指示はだめだ。」
「そうだね。色々想定して具体的に教えないと。」
「怪我したらすぐ治癒って教えないといつか取り返しつかなくなる。日本で平和に暮らしてて僕ら戦いに対する心構え足りなかった。これはゲームじゃないって、僕らまだ分かってなかったんだ。」
彼は僕らと言ったけど、分かってなかったのは私だ。この人は人に気を遣いすぎる。彼はカリクには叱るし難しい指示をするけど、私やノッテには厳しい事は絶対に言わない。
「とにかく今日は休もう。関屋さんもゆっくり体休めて。」
並べられていた布団を佐々木さんはインベントリに入れ、離れた場所に敷き直して布団に入った。
私のミスで村民がもし死んでいたらと思うと、急に恐怖が押し寄せて来て胸が締め付けられる様に苦しくなった。冷たい汗が背中に流れ、チート能力では消せない命を扱う責任の重さを初めて痛感した。
「皆が怪我してるの見て私怖かった。誰も死んでほしくないよ。」
涙が溢れ出す。
離れたところで寝ていた佐々木さんが寝返りを打つと私を見て驚いた顔で飛び起きた。
「ごめん、君も傷付いてたのに気が付かなくて。きつい事言ってごめんね。」
そして私の横に来て手を握る。
「泣かないで。大丈夫。ひとまず終わったからもう誰も死なないよ。今日はこのまま寝な。僕がずっとついてるから。」
彼は握った手を布団にしまい、私の肩まで布団をかけた。
『アオ 愛情アップ』
「うぅ。アオ…。」
私の頭を撫でる手が思ったよりも大きくて暖かい。
「もう大丈夫。大丈夫だよりお。僕が皆を守るから誰も死なない。僕は勇者だからね。大丈夫。安心して。」
「アオ…」
『アオ 愛情アップ』
佐々木さんはにっこり笑って私に言う。
「僕ちゃんと頼れる大人の男になるから。安心して寝な。おやすみ、りお。君を守るよ。」
『アオ 愛情アップ』




