第29話 僕はお金で承認を買う
次に目を開けた時、隣のチェアで横向きに寝ている佐々木さんと目が合った。
まるで私がいつ起きるかずっと待っていたみたいだ。
「おはよ。莉緒さん」
優し気な声が耳をくすぐる。
彼はいつもと違うやけに甘ったるい目で微笑んだ。
大切なものを見るみたいな目。
「せっかくメイクしたのに取れちゃったね」
「ごめんね。一番優しい化粧品だとすぐ取れちゃうの」
「化粧品のレシピ出た?」
だからトライアルセットを何種類も?
「出た。嬉しい」
「ちょっとずつレシピ増やしてこ。今日連れ回して疲れさせてごめんね」
「ううん。沢山お金使わせてごめん」
こんなにも貢いでくれる彼の目的は本当に善意なの?
係長は私をいじめから守るといって誘ってきた。
『莉緒さん。彼が求める対価は承認です。彼は今、彼自身の価値と、莉緒さんに捨てられない保証を求めている。彼にとって、お金はそれを買うためのチケットにすぎません』
私の承認?
『彼が必死に貢ぐのは、あなたの価値が彼の支払い能力を遥かに超えているからです。あなたは価値のある人間です。対価を払う側ではなく、受け取る側です』
……受け取る側。
思考に沈みかけた私を佐々木さんの声が引き戻す。
「僕今は親の七光だけどさ、自立したい。だからもう少しここにいさせてよ。なるべく君の自立も手伝うから。邪魔してごめんね」
佐々木さんは縋るような目をしていた。
そっか。彼はきっと不器用なんだ。信じないと。せっかく仲間になったんだから。
「邪魔じゃないよ。ありがとう」
『報酬 着衣水泳訓練 たこ焼き器
報酬 二人でおひるね ポーションレシピ』
え?ここで?
変なタイミングのクリア報酬。
私は笑って言った。
「あー。次クラーケンくるやつ?」
「え、そっち何なの?こっちはね、スキレットと毒消しレシピ」
「私たこ焼き器とポーションレシピ」
二人で毒消しとポーションを作る。HPは無限ではないから。
「漁村行く前に一つ魔法作らせて。めっちゃイメージ沸きづらくてさ。絵にできなくて。どうしても水晶みたいになっちゃう。不可視のものってどうやって表現できるのかな」
「可視化して描いて、それを不可視にするイメージで手動で発動すればいいんじゃないかな」
ウインドカッターは風だけど可視化してる。でもそよ風は不可視だ。
「なるほど!」
彼はパソコンではなくタブレットを出し、錬金術で画面にアニメーションを描いていく。黒とピンクのジャージを着た私に似たキャラクター。私が魔法をイメージしやすい様にかな?
「これ、どうだろ」
「やってみるよ」
私は頭の中でイメージする。これはアニメだから可視化されてるけど、本来透明なものだ。
それを表現するために、石礫がぶつかった時だけ可視化される。でもそれはアニメだから表現上そう描かれているだけ。本当は、何がぶつかっても可視化しないし、光らない。
すぅと息を吐く。
「結界」
私は自分が生み出した透明の壁に触れようとしたけどすり抜ける。
「ここにあるの?僕が触って良い?」
「うん。防ぐだけ。跳ね返らない」
佐々木さんがパントマイムみたいに透明の壁に触れた。
「うわあああ!できたあああ!!」
佐々木さんが見えない結界をぎゅうっと抱きしめた。
私は彼のスマホの魔法図鑑に私の魔法図鑑の結界を送った。結界は無属性に分類されていた。
「佐々木さんに言い忘れていたんだけど」
「ん?なに?」
「缶や瓶のゴミ、不自然にならない程度に譲って欲しい」
「あそっか。要るね。了解。何とか考える」
「所有者の許可があれば、目視で収納できるけど、所有者は誰?」
「収集来るまでは親父だけど、僕にも権限ある。君に許可するよ」
「ありがとう」
その時。
『イベント 漁村で海老を買おう』
「出たね。行く?」
「うん。行く」
私は腰まである長い髪を高くポニーテールする。
「僕長い黒髪好き。君はポニテが似合うね」
「よく言われる」
皆は良いっていうけど、野暮ったくて重くてほんとは嫌い。
だけどまた、切れない理由が一個できた。
私達は漁村に向かうドアを開けた。




