2話 コッコの卵
朝起きてから、スマホを確認する。
「おお。ゴミ出しイベントだ。」
今日は一般ごみの日。私は自室のゴミをまとめ、リビングとキッチンのゴミ箱からゴミを集める。あとは、パパンの寝室なのだが。
まあ、後にするかと冷蔵庫を開ける。なんもないし。
動くとお腹が減るのだ。
「おはよう。」
振り向くとゴミ袋を持った父親が目を見開いている。
「お父さんおはよう。ゴミ出し行くから置いといて。」
「お、お前、昨日からどうしたんだ。大丈夫か?」
「何言ってんの。お父さん朝いっつも何食べてんの?パンが無いんだけど。」
「ああ。買い忘れたな。バナナがあるからそれを食べよう。」
「私部屋にプロテインバーあるから、お父さんそれ食べてよ。じゃ着替えてゴミ捨てて来る。」
キッチンのゴミ箱には既に新しい袋をセットしてあるのでバナナの皮は大丈夫だろう。私はエレベーターで誰にも会わなかった事を安堵しながらゴミ捨て場に。昨日と同じ服だが昨日は(も)外に出てはいないし、クリーンしたから綺麗だ。
うわ。最悪。井戸端会議に遭遇した。
「おはようございますー…。すみません、ゴミ捨てさせて下さい。」
立ち塞がる女ども。これは洗礼なのだ。
「あらー。関屋さんとこの。お久しぶりね。お元気?」
この井戸端会議のボス横井さんが満面の笑み。
おらどけよマジで。入り口で立ち塞がんなくそが。
「はいー。おかげ様で~。あのー。ゴミ捨てさせて下さい~。」
笑顔。笑顔だ。
「最近見ないからどうしたのかと思っていたのよ。」
横井さんがやけににこやかだ。
「次自治会役員でしょ?てっきり顔合わせあなたが来ると思ってたのよー。でもお父さんが来たからびっくりしちゃったわ。」
と川口さん。
「あなた家事手伝いなんでしょ?お父さんを助けてあげないと。」
そして江本さん。
針の筵である。
「あはは。そうですね。そうさせてもらいます。ゴミ捨てたいんですみません。」
そうだ。最初は買い物もゴミ捨ても行っていたのだ。
あまりに私の事を根掘り葉掘り聞いてくるので嫌になったんだった。
私はやっとの思いでゴミを捨てる。
何時に来ればこいつらは居ないのだろうか。
父親は毎回これの相手をしているのか?仕事前に?!
『報酬 鑑定 横井花恵好感度アップ』
ちょww何故に好感度アップwww
私は頭の中で鑑定を発動する。途端に目の前の景色にあるすべての物の名前が表示され目が回る。頭痛が酷い。
私はそのまま倒れた。
悲鳴が聞こえる。
「救急車!やだスマホ部屋に置いてきたわ!!」
くっそ!ゴミ捨て場井戸端会議女子どものギャアギャア声がうるさい。
『デバフ混乱解除のため鑑定を閉じます。安全のため鑑定はナビゲーターと統合します。』
ようやく頭痛が少し楽になる。
私は頭を押さえながら起き上がる。
「あ、いや大丈夫です。帰って寝ます。大丈夫なんで。」
困る。絶対病院とか嫌だし万が一入院とかになったらむしろ死ぬわ。ネットが無い環境でずっと寝てろとか耐えられない。あったとしても寝てるのはやだ!異世界が私を待っているのだ!
「だめよ!血が出てるわ!!」
ああ!横井花恵が大袈裟でうるさいっ!!
「莉緒!!どうした!!」
「立ち眩み。低血圧なの。大丈夫なんで。帰りますんで。ご迷惑おかけしました。」
私は父親が部屋まで来てくれるというのを断って自分で部屋に。
酷い目に遭った。
鑑定は対象を絞って発動の意思を持って発動とルール付け。ナビゲーターを通して安全に発動してくれるらしい。
スマホを見ると図鑑が。やつらのプロフが。知りたくなかったわー。
横井花恵(31)HP36MP0て何よ。私HP8000あるんだけど。
家に帰って頭の血をクリーン。まあ何とかなるでしょ。洗濯物にクリーンして畳むとアプリ起動。白い部屋を見ながらこの部屋のデータを教えてと念じる。
部屋の名前ははじまりの部屋。チュートリアルをクリアすると自由に使える様になる。安全地帯らしい。
勢いで設置してしまったプールも超えてずっと歩いた所に扉が。
「ここにいるとき時間経たないならここで寝た方が得なのかなとか。」
扉を鑑定するとミニゲームの部屋と書かれていた。
今日のクエストは身体強化を使ってコッコの卵を3つ集めること。報酬はマジックバッグ極小。
卵3個集めるのに身体強化っていうところに嫌な予感しかしないんだけど。
私は家から持ってきたスーパーの袋と卵ケースをボディーバッグにしまうと扉を開けた。
目の前にでかい木。
「はぁ?コッコって鶏よね?卵はどこなの?」
『木の上です。』
見上げると高いところに巣の様なものが見える気がする。あの鳥の巣を鑑定。
「あれかー。コッコの巣。」
よしんば登れたとしてよ?取れたとしてどうやって持って降りるのよ。ああ、その為の報酬か。マジックバッグ極小。極小かよ。しょぼ。
私はめっちゃジャンプしてあの枝に飛び乗ると念じる。
「一発かよ。あたまおかしいだろうが。」
私が枝に跨って卵を鑑定すると、無精卵が三個と、有精卵が二個。これは取るなという事ね。
無精卵だけを卵パックに入れた。
『報酬 木登り技能 マジックバッグ極小 ボディバッグに収納されました。』
ボディバッグを見ると、中にはマジックバッグが入っていた。
そこへ収納して試しに言ってみた。
「風空術。」
有名なアニメの技である。
「おお。飛べるわ。」
アニメの様に自在とはいかないが、ふわりふわりとゆっくり降りていけた。
とりあえず卵はクリーンして冷蔵庫に入れた。そして戻る。なんか、気になるのよね。
鳥の巣に鑑定を発動。
コッコの巣 卵5個
やっぱりか!!ゲーム仕様だこれ!!
隣の部屋との往復では復活せず地球との往復で復活するみたい。とりあえず21個集めた。
たまご…卵といえばあれしか思いつかないよ!
私は逡巡する。
炭水化物の誘惑。いいのか?
だがしかし…!
いや!やはり初異世界食材、素材をシンプルに味わうにはあれしかあり得ない!
よし!久々に米、米を炊くぞ!!
米を2合炊いて、150gずつくらいに分けて3つラップでくるみ、残りをお茶碗に入れた。
卵にクリーンして鑑定を発動。生食できますか?!
『できます!』
いやもっとこう、生食可とか出ると思ったやん。
『生食可』
いやいや、ええんやで。話しかけてくれた方が嬉しいんよ。こんごともよろしく。
いつもは頭の中に浮かぶ声が、スマホ画面に文字で出た。
『コンゴトモヨロシク』
ちょww何でそれなのwww
ナビさんのチョイスよwww
私は卵かけご飯は直接割らない派だ。別のお椀に卵を割って、しょうゆ、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムを混合した調味料ミイハーを入れてまーぜまーぜー。グルタミン酸だけの方が好きなんだけど、父親がミイハー派なのよ。ミイハーの方がちょっと甘い気しない?まあ自分で買うほどでもないしミイハーの方が多分高いし。
そしてご飯にかける!
混ぜて混ぜていよいよ食べるぞー!
ご飯は少なめでとろりとしてるのが好きなのだ。麺つゆや味醂を入れない派。
「おいしー。うまーい。なにこれー。」
語彙力。
ぺろりである。
やばうますぎ。
私は冷めたご飯を冷凍ストックした。
私は卵を三個出して、醤油とみりん小さじ1、顆粒だし少々を水で溶いた出し汁を大さじ3と塩少し入れた。
こんなレシピだった気がする!
キッチンペーパーは勿体無いのでティッシュで卵焼き器に油引いてあっ!巻けない!なんで!うわ!!最悪!
私は諦めてオムレツ仕様にして端にかため、お箸じゃ無理だったのでシリコンスパチュラでひっくり返し四角い形にしてラップに取り出した。くるくる巻いて何とか形になる。
「20歳にもなってだし巻き一つ作れないとは。」
冷まして切り分けて端っこ食べたら美味しい。
お皿に盛ってラップして、冷蔵庫に書き置きをマグネットで貼る。
「冷蔵庫にだし巻きあります。食べてね〜っと。ふはっww小学生か!www幼稚ww」
私は今までこんな事すらして来なかったのだ。
私はお父さんにメッセージを送った。
「町内会は何日の何時ですか?」
返信は無い。仕事中だからね。
『イベント卵焼き 先取り報酬 アイテムボックス』
「まじかー!アイテムボックスきたよ!!」
スマホを見るも何もない。
「え?どこ?」
『はじまりの部屋へ移動しますか?』
「しますします!」
来たら箱がありました。
アイテムボックスってそういう感じかー。それかー。しかも移動不可かあ。
え、容量無限時間停止機能付き。やばい。これすごくね?はわー。入れたものがリスト化するわあ。
その後卵を集めたのは言うまでもない。
地球と往復する必要があったので地味に時間食った。パパンの部屋に入ってベッドと部屋にクリーンをかけた。トイレも掃除。
何これもう、日常がゲームなんだけど。普通にゲームとかやってらんないわー。