第十四章 碧き海からの飛翔、巨人の森へ
「浮上開始! メインバラスト排水!」
そーすけが叫ぶと、潜水艇は一気に海面へと突き進んだ。ザパーン! という豪快な音とともに、窓の外にジュラ紀の眩しい太陽が飛び込んでくる。波に揺られながら、そーすけは次の操作に指をかけた。
「飛行モードに切り替え。全翼展開、エンジン点火!」
潜水艇の側面から水中用のフィンが引き込まれ、代わりにチタン合金製の頑丈な主翼が勢いよく突き出した。機体後方のジェットノズルが青白い炎を吹き上げ、水面を蹴って潜水艇が空へと舞い上がる。高度計の針がみるみる上昇し、五百メートル付近で水平飛行に移った。
「うわぁ……すごい! 海もきれいだったけど、空からの眺めは別世界だ!」
窓の外には、地平線の果てまで続く深い緑のジャングルが広がっていた。現代の杉や松に近い針葉樹や、巨大なシダ植物が密生し、森全体が呼吸しているかのようにゆらゆらと揺れている。空気は三畳紀よりも潤いを含み、どこか清々しい。
「ピーッ、ギャアアアッ!」
甲高い鳴き声とともに、機体のすぐ横を奇妙な影が横切った。
「ランフォリンクスだ! 長い尻尾の先に、ひし形の舵がついているぞ」
体長一メートルほどの翼竜が、編隊を組んで風に乗っている。彼らの鋭い嘴には小さな歯が並び、その大きな目は眼下の森を見据えていた。そーすけは、翼竜たちの視線を追うようにして、地上の景色に目を凝らした。
森の開けた場所──そこには巨大な影が動いていた。
「ディプロドクスだ! 二十メートル以上はあるぞ。あんなに長い首を動かして、木のてっぺんの葉っぱを食べているんだ」
数頭の巨竜が、悠然と大地を歩いている。その一歩ごとに地響きが起き、鳥のような小型恐竜たちが一斉に飛び立つ。しかし、その平和な食事風景に、不穏な影が忍び寄っていた。
森の陰から、二頭のアロサウルスが姿を現したのだ。
「くるぞ、捕食者の奇襲だ!」
アロサウルスは体長九メートル、ジュラ紀を代表する大型肉食恐竜だ。狙われたのは、群れから少し遅れた若い個体だった。アロサウルスが凄まじい力で地面を蹴り、巨大な口を開けて襲いかかる。
だが、そこへ別の巨大な影が割って入った。背中に互い違いの板を並べた、ステゴサウルスだ。
「守るつもりだ! ステゴサウルスの『サゴマイザー』が火を吹くぞ!」
ステゴサウルスは戦車のような体を低く構え、尾の先端にある四本の鋭い棘を激しく振り回した。アロサウルスの一頭が、その一撃を避けきれず、脇腹を深く抉られる。鈍い衝撃音と叫び声が、高度五百メートルの飛行潜水艇にまで響いてきた。
力と力が激突し、乾いた咆哮がジュラ紀の空を震わせる。翼竜たちはその様子を上空から冷ややかに見下ろし、戦いでこぼれ落ちる肉片を狙って旋回を続けている。
「上から見ると、全部が繋がっているんだね。大きな草食恐竜が森を作り、それを肉食恐竜が狙い、空からは翼竜が見張っている。この時代は、食物連鎖のスケールが桁違いだ……」
そーすけは、手に持ったスケッチブックを握りしめた。三畳紀の「プロトタイプ」たちの争いとは違う、豪快な生態系の力強さがそこにはあった。
「地球が命で溢れてる。この黄金時代が、もっとずっと長く続けばいいのに」
そーすけは操縦桿を握り直し、夕日に染まり始めたジュラ紀の空をさらに高く舞い上がった。




