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第十三章 碧きジュラ紀の舞姫(まいひめ)と深海の暴君

「……なんて、透き通った青なんだ」

 そーすけは、思わず操縦席(そうじゅうせき)の窓に顔をくっつけた。三畳紀末(まつ)の、あの煮えくり返るような赤い海が(うそ)のようだ。潜水艇のライトを消しても、海面から差し込む陽光(ようこう)が百メートル以上の深さまで届き、揺らめく光の(あみ)を海底に映し出している。

「計器、正常。外部水温は二十三度。酸性度(さんせいど)も安定してる。ここは、生命にとって最高の楽園だね」

 窓の外を、弾丸(だんがん)のような形をしたベレムナイトの大群が、キラキラと銀色の体を光らせて通り過ぎていく。

「あ! いた、いたぞ! プレシオサウルスだ!」

 そーすけの指差す先に、三体の影が現れた。体長は三メートルほど。図鑑で何度も見た、あの有名な「首長竜」だ。(へび)のような首に、ひし形の大きな四つのヒレを、まるで鳥が羽ばたくように動かして、水中を優雅(ゆうが)()っている。

「すごい……。本当に、水の中を飛んでるみたいだ。あの小回りの良さはすごいぞ。まるで水中バレリーナだ!」

 プレシオサウルスたちは、長い首をムチのようにしならせ、岩陰に隠れた小魚を次々と捕らえていく。その姿は平和そのもので、そーすけは時間を忘れて見入ってしまった。

 しかし、その静寂(せいじゃく)は、海の底から響く不気味な低周波(ていしゅうは)によって打ち破られた。プレシオサウルスたちが一斉に首をもたげ、何かに怯えるようにヒレを激しく動かし始めた。

「……何かが来る。それも、とてつもなく大きくて、速いヤツだ!」

 後方の暗闇(くらやみ)から巨大な反応が急速に近づいていた。次の瞬間、プレシオサウルスの一体が、文字通り「消えた」。

 視界に飛び込んできたのは、体長七メートルを超える巨体。短い首に、体全体の四分の一を占めるほど巨大な頭部を持つ「首短竜」、リオプレウロドンだ。

「ジュラ紀最強の捕食者……『海の暴君(ぼうくん)』だ!」

 リオプレウロドンは、強靭(きょうじん)な顎でプレシオサウルスを丸呑みにせんばかりの勢いで食らいついていた。バシャアッ! と、水中で激しい乱流が巻き起こる。リオプレウロドンが巨大なヒレで水を(ひと)()きするたびに、潜水艇の機体が木の葉のように揺れる。その顎には、現代のホオジロザメの数倍という、凄まじい破壊力が秘められているのだ。

「……強すぎる。でも、あれがこの海の『王』なんだね」

 プレシオサウルスは美しく、リオプレウロドンは圧倒的に強い。どちらも三畳紀の荒波(あらなみ)を乗り越え、この豊かなジュラ紀の海でそれぞれの「生きる形」を(きわ)めた者たちだ。

「三畳紀の終わりには、あんなに何もいなくなっちゃったのに。たった数百万年で、海はこんなに多様で、力強い場所に戻るんだ。地球の再生能力って、本当にすごいな」

 そーすけは、深海へと去りゆくリオプレウロドンの巨大な尾びれを見送りながら、自らの冒険日誌(にっし)にこう記した。

『ジュラ紀の海は、命の競争が最も美しく輝く場所だ。』

「よし。海の世界は満喫(まんきつ)した。次は……あの巨大な首長竜たちの親戚(しんせき)が、陸上でどんなふうに進化してるのか見に行こう。目指すは、地球史上最大の巨大恐竜たちが歩く、ジュラ紀の大地だ!」

 そーすけは潜水艇の浮上(ふじょう)バラストを解放(かいほう)し、(まばゆ)い太陽が待つ海面へと一気に突き進んだ。

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