第二十二話 決着
遠雷が轟いた。
図太い稲妻が宇宙空間を驀進する。
操縦席に深く腰掛け、私はレバーを押した。
体が重力で押しつぶされそうなほどの急降下。
「うっっっっっ」
体中の骨が軋んだ。
頭がよろめいて、眩暈がする。
極太のレーザービームが頭上を通過しきったことが分かった。
機体の姿勢を持ち直すと、ぷか、ぷか、と不安定に機体が浮かんで、ピタッと止まらない。
先ほどまでは綺麗に静止していたはずが、だんだんと心もとない動きをするようになっていた。
(操縦が効きにくくなってる……)
機体の損傷がなかなか酷い。
操縦に対しての反応が悪く、あまり激しい駆動をするべきではない。
それに身体も痛む。
ふさがっていた傷跡から血が漏れ出していた。
ふとももに血が滲んで内側に垂れてきていた。
レバーを握る白く細い腕に刻まれた裂傷も悲鳴を上げている。
機体の激しい動きによってかかる重力が私の身体に間違いなくダメージを与えていた。
「はぁ、やるしかないか」
何本か放たれるレーザーをかろうじで避けながら私は覚悟を決めた。
機体も私の身体もジリ貧だ。何度もよけ続けているうちにガタが来る。
前進あるのみ。
私は意を決して、レーザーの流れに対して機体を逆行させた。
迫りくる流星に歯向かって昇る龍のように立ち向かっていく。
前方から襲い掛かる何本もの光がどんどんと後ろに流れて行って、
そのたびに視界が明滅する。
弾幕が増えた。
視界が稲妻で埋め尽くされる。
私はビームの群れに突っ込んだ。
途方もない衝撃が機体を襲った。
鉄の骨組みが軋み、装甲が剥がれ、
機内の温度が急激に上昇して、肌が焼かれた。
歯を食いしばる。
コックピットを覆う強化ガラスにひびが入り、
頭がかち割れるほど五月蠅い警告音が鳴り響いた。
しかし視界を覆っていた激しい光は消え、
私はレーザーの弾幕を突破していた。
相手の戦闘機が十分に目視できる距離まで迫っていた。
いける。
まだ、前進。
勢いを緩めない。
握るレバーが汗で滑る。
息が粗くなる。
喉がかすれる。
体が座席に押さえつけられて身動きが取れなくなるほどの超加速をもって、私は相手の戦闘機に迫った。
もう避けない。というかこの速度では避けれない。
操縦の仕方も教えてもらっていない戦闘機で上手く戦おうなんて甘い考えだ。
倒して、そのあとどうするかはそれから考える。
思考も何もかも振り切って私は突進した。
もうすぐそこに迫っている相手の戦闘機からぴかっと光が放たれた。
着弾。
「っっっ!」
コックピットを覆うガラスが割れた。
船内の空気が外の宇宙空間に一気に溶けだして、喉が締め付けられた。
息ができない。
次の瞬間に極寒が身体を襲った。
肌の繊維の一本一本がすべて引っ張られて全身の皮膚が締め付けられて凍えつき、
まともに体が動かない。
内臓が全て破裂しそうなほど膨れ上がっていることを感じた。
強化ガラスが消し飛んで広がる真っ黒な宇宙空間は綺麗で、
そして目の前まで迫る相手の戦闘機があった。
ガラスが割れて操縦を怠ったこの数秒間の間にも、空気抵抗のないこの宇宙空間では機体は前に進み続けていたのだ。
でも、どうすることもできない。
いや、
もう、突っ込め。
特攻だ。
宇宙空間では10秒で意識が失われるそうだ。
私なら30秒は耐えられる。
私は凍える手でレバーを前に進めた。
歯を食いしばる。
全身の血が沸騰する。
ぐっと機体同士が急接近する。
うなるような二つの鉄塊が互いの熱気をぶつけ合うようにして、正面から衝突した。
天地が揺れた。
ドぉおおおおおおおおおおおおおおん‼と機体が破裂したようだった。
全身が座席に打ちつけられ、体の中に残った息が全部出た。
頭が揺れて意識が飛びそうになる中、
私は目を見開いた。
そして、コックピットから飛び出した。
戦闘機の鼻っ面を踏みつけて、宇宙空間に跳躍した。
衝突を受けた相手の戦闘機は横っ腹がへこんで、ぐらりと傾いていた。
私はその機体のコックピットを覆う強化ガラスに飛び掛かる。
びたん、と着地した。
表面が滑らかなガラスに皺を集めるようにして左手でつかむ。
空いた右手を振り上げた。
無窮の星々がちりばめられた黒い天空に向かって突き上げた右手をぎゅっと握り、
振り下ろした。
「おらぁあああああああああああああ」
バリィィィン。
とガラスが割れた。
操縦席に座る宇宙人は驚愕で目を見開いていた。
狭いコックピットの中に私は舞い降りた。
相手の宇宙人と正対する。
私は彼をばんっっと横殴りにした。
すると彼は意識を失った。
私は彼を宇宙空間に捨てて、操縦席に座り込んだ。
そしてたくさんのスイッチを色々押した。
すると、わたしが拳で割った強化ガラスが張りなおされて、
真空状態になっていたコックピットにぷしゅーーーっという音が鳴り響き、空気が戻った。
気道を通って酸素が全身に染みわたっていく。
極寒の状態から気温も徐々に上がっていった。
賭けに勝った。
私はこの機能があるとふんで相手の戦闘機に飛び掛かったのだ。
勝機はこれしかなかった。
私の乗っていた戦闘機はもう壊れていて使い物にならなかった。
いずれにせよ乗り換える必要があったのだ。
私は強化ガラスを砕いた自分の拳を見下ろす。
骨が変な方向に曲がっていて、もう使い物にならなさそうだ。
腕をだらん、と下ろし、はぁと息を吐いた。
私はじんわりと温まっていく体に安心感を覚えながら、
シートに深く腰掛け
空に広がる星々をしばらく眺めていた。




