第一話 パンをくわえて曲がり角を曲がる
てきとうに書いてます。
ジャムが塗られた食パンをはむっと口にくわえたまま私は靴を履いた。
「行ってきまーす」
元気よく声を出して家を飛び出す。空は快晴だった。太陽の光を浴びながら、私は道路の白線に沿って走り出す。たったたった、と身体が上下する。くわえた食パンもそれに合わせてぐわんぐわんと上下する。セーラー服の内側に収まった胸がブラジャーの中で少し揺れているのが分かる。乳首が摩擦している。
すぐそこに、曲がり角があった。それを視認した私は息を大きく吸い込んだ。
「遅刻遅刻ぅ~~~‼‼」
道路の反対側を歩く人がぎょっとこちらを振りかえった。そんなことはお構いなしだ。
「遅刻遅刻ぅ~‼‼」
私は曲がり角を勢いよく曲がった。
普通に誰もいなくて、そのまま走り続ける。
失敗。
私はもう一度大きく息を吸った。
「遅刻遅刻ぅ~~‼‼」
壊れたロボットのように、何度もそうやって繰り返す。そして曲がり角を曲がる。
今日も今日とて私はひた走る。次の曲がり角はすぐそこだ。私は勢いを緩めずそのまま一気に踏み込んだ。
「遅刻ちこっ……‼」
どん!という衝撃が体に走り、私は倒れた。目をつぶり、後ろにしりもちをつく形だ。
キタ! ついに! これを待っていた。
私はこれで目を開ければ何かしらの決着がついてしまうことに躊躇して、でも、思い切って目を開けた。
「遅刻ちこく……」
ぎろり、と私を睨み落とす目つきがあった。うねりあがった筋肉で編まれた首筋をつたって口から放たれた恐ろしい声が、降り落ちて来た。
「なんや、お前」
オワタ。堅気じゃなかった。
「……いやぁ、その、ごめんなさい」
「どうしてくれんの、これ」
彼は目線を自分の胸元あたりに向けた。ジャムを接着剤として張り付いた食パンが、ジャムを塗り広げるようにして服の表面をずり落ちていくところだった。胸からお腹、そして下腹部にかけて、銃撃戦もかくやといった量の血が流れ落ち、そして食パンはぼとっと地面に落ちた。
(……苺ジャム‼)
「ごめんなさい、その、」
「これさぁ、買ったばっかのスーツなんよね」
確かに虎の(ダサい)金の刺繍はキラキラと輝いていて、いかにも新品ですと言った感じだ。
「どう落とし前つけてくれんの?」
次回は今日の夜19時更新。