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第三十話

 王都にある一際大きなお屋敷。それがレオンハルト様の本邸であった。

 さすがに別荘である辺境のお屋敷ほどではないが、それでも十分に大きい。


 王族の次に権力のある公爵家の屋敷なのだから当然かもしれないが、普段のレオンハルト様の柔らかな物腰からそんなに偉い人という雰囲気がないのでそれを思い出してちょっと驚く。


「お帰りなさないませ、旦那様」

「ええ、長く留守にしておいて申し訳ありません。……さっそくですが客人が予定より増えてしまいました。追加で二人分の客室の準備をお願いします」

「はっ! かしこまりました」


 長く屋敷を空けているとはいえ、これも当然かもしれないが使用人は住み込みでいるみたいだ。

 主人不在のお屋敷を守っているのはゼルナーさんよりもずっと若い執事だった。


 これだけ広いお屋敷に一人しか置かないところをみるとレオンハルト様は本当にこの家には住むつもりがないのだろう。


(客人か……。シェリアとエルドラド殿下がまさかこちらに来ているとは思わなかった)


 なぜ二人がこちらの国にいるのか詳しい経緯はまだ聞いていない。

 多分、シェリアから闇の魔力が溢れたことが原因だと察してはいるが、それについても質問するのは落ち着いてからだとレオンハルト様は判断した。 


「さて、自己紹介がまだでしたね。僕はレオンハルト・オーレンハイム。リルアさんの身元引受人です」


 部屋の準備が済むまで、お茶でもということで私たちは食堂に通される。

 レオンハルト様は得意の紅茶を私たちに振る舞い、ようやく自己紹介した。


「リルアお姉様がお世話になっております。私はシェリア・エルマイヤー。この度は多大なご迷惑をおかけして、なんとお詫びを申し上げればよいか……」


「シェリアさんですね。あなたが気に病むことはありません。ご無事でなによりでした」


 シェリアは丁寧に騒動を謝罪する。私よりもずっと繊細な彼女はあんなことになって平気なはずがない。


 レオンハルト様もそれを察してかいつも以上に穏やかに優しく言葉をかけた。


「レオンハルト・オーレンハイム……確かアルゲニアの錬金公爵と呼ばれた英雄か。戦争では随分と我がフェネキス軍に損害を与えたと聞いている」


 気絶から目を覚ましてからというもの、ずっと不機嫌そうな顔をしていたエルドラド殿下。

 レオンハルト様の名前を聞いて、いきなり喧嘩腰のセリフを吐く。


 この人、なにをしにやってきたんだろうか。本当に謎である……。


「あなたはエルドラド・フェネキス王子殿下、とリルアさんから聞いております。殿下がよく思われていないのは理解しました。僕がかの軍隊に大きな損害を与えたのは事実ですから弁解するつもりはありません」


 いきなり悪態をつかれてもレオンハルト様は涼しい顔をして受け流した。

 エルドラド殿下は英雄というものにある種、異様な執着をしている。


 アルゲニア王国において国家的な英雄と言われているレオンハルト様のことが気に食わないのだろう。

 あの戦争はフェネキス王国がアルゲニア王国に不平等な条約を強引に結ばせようとしたことが原因で起きたと聞く。


 押し寄せてくる軍隊を素通りさせるなどレオンハルト様が許すはずはなく、強力な魔道具によって何度も兵士たちを撤退に追い込んだのは彼の立場からすると当たり前の行動だっただろう。


「ちっ、気に食わないな。和平の条約は確かに結んだが、我がフェネキス軍がその気になれば今度は手加減なしでこの国を壊滅させることもできるんだからな」


「それは恐ろしいですね。魔王の後継者であるリルアさんをこちらに送られたのはそのため、というわけですか」


「うっ……! な、なぜ貴様、それを!? それに知っていてなぜこの女を自由にさせている!?」


 フェネキス王国の陰謀についてレオンハルト様が言及すると、エルドラド殿下はしらばっくれるどころか正直なリアクションを見せる。

 いや、なんでこんなにわかりやすいの? この人、嘘が苦手なのかもしれない。


「リルアさんの件についてはこちらとしても考えがありますので、おいおい追及するつもりです。それよりも今はシェリアさん。あなたのお話を聞かせてくれると助かります」


「私の――? そうですね。リルアお姉様のことは気になっていましたが元気そうで安心しました。私がここにきたのは――」


 シェリアはレオンハルト様に促されてここにきた経緯を話した。

 ある日突然シェリアからもドス黒い蒸気のような闇の魔力が発せられたこと。


 その日から胸のうちになにか得体の知れないものがいるような……そんな感覚に苛まれて聖女として動けなくなったこと。


 エルドラド殿下とフェネキス国王陛下の陰謀を耳にして私が心配になり、いてもたってもいられなくなったこと。

 王都にきて再び闇の魔力が吹き出して理性を失ったこと。


(やっぱり、ゲームのシナリオとまったく違うわ)


 この話を聞いて私は確信した。ゲームのシナリオとは大きく乖離して話が進んでいるということを。

 こうなるとこの先の展開はとても読めない。私が魔王となるまであと五ヶ月はあると思っていたがそれも変わっている可能性すらある。


「レオンハルト様、どういうことだと思いますか? ……いえ、すみません。このような事態になった原因などわかりようがありませんよね」


 なにを私は言っているのだろうか。

 ゲームのシナリオと別の展開になった原因などレオンハルト様でも知りようがない話に決まっているのに……。


 そもそもゲームの世界などという普通なら異常者の戯言として捉えられる話を理解してもらったことすら奇跡みたいなものなのだ。


 そこからさらにイレギュラーが起こってその原因を突き止めるなど誰にもできることではない。


「答えはさすがに僕でもわかりません」

「ですよね。すみません、無理を言ってしまって……」

「ですが一応の推測はできます」

「へっ? できるんですか?」


 なんてことだ。私としては現状を把握するので精一杯なのに彼はすでに原因を推測しているらしい。


 よく考えたら初対面で私が転生者であることまで躙りよって考察した彼だ。

 どんなことでも答えに近づこうとするのは彼にとって自然なことなのかもしれない。

 そして、レオンハルト様は自らの持論を展開した……。

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