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第二十六話(エルドラド視点)

 まるで邪悪の化身になったかのごとくドス黒い蒸気を吹き出したシェリアはあまりの出来事に動揺して俺の執務室から出てしまった。


「待ってくれ! 待つんだ! シェリア!」

「エルドラド様……! 私は、私は……!」


 彼女を追いかけた俺は王宮の階段でようやく追いついた。

 シェリアは涙を流しながら、震えており酷く動揺しているように見える。


 無理もあるまい。あんな状況に追い込まれて動揺しないほうがおかしいのだから。


「とりあえず落ち着け。今はなんともないのだろう? 大丈夫だ。なにかの間違いさ」

「……すみません。取り乱してしまって。なにかの間違いとは思えませんが落ち着きました」


 さすがは聖女シェリア。

 一時は動揺して涙を見せたが俺の一言で冷静さを取り戻してくれたらしい。


 なにかの間違いというのは確かに気休めだ。俺もなんとなくまずいような気がしている。

 この感じは司教殿から聞いた魔王の後継者として目覚めたときのリルアの状況と似ているからだ。


 もしもシェリアが魔王の後継者なら俺は――。

 惚れた最愛の人が魔王であるなら俺はとんだ悲劇の王子だ。


 そうであるならば選択せねばならないだろう。正義を取るか、愛を取るか。


(いやいやそんなはずがない。魔王の後継者はリルアだ。リルアに間違いないんだ)


 俺は嫌な想像を振り払うようにブンブンと首を振った。

 とにかく今はシェリアを支えることだけを考えよう。そうだ、まだなにもわからないじゃないか……。


「大丈夫か?」

「ええ、おそらく。なんともないはずです」


 だが、彼女に与えられたショックというのは思った以上だった。

 この日からシェリアは日に日にやつれてしまい、ついに聖女としての務めの最中に倒れてしまったのだ。


 ◇


「ちっ、聖女リルアが使い物にならなくなって今度は聖女シェリアが病気になっただと!? 一体どうなっておる!?」


 シェリアを半ば療養という名目で休ませるように俺は教会に指示を出した。

 こんな状態で癒やしの魔法をかけたり、魔物の討伐をしたりなど無理に決まっているからだ。


 父である陛下はそれが気に食わないらしい。

 妹のアルビナスが一人いれば結界などはなんとかなっているみたいだが、短期間に二人の聖女が実質いなくなったも同然という状況は嫌でも国民を不安にさせているからだ。


「シェリアはただの病気ですから、時間が経てば治ります」


「聖女が病気になどなるか! 神託を受けておるのだぞ! それにアルビナスの治療を拒否したと聞いている! あの娘は聖女としての務めを面倒だと思ってサボっているだけではないのか!?」


「心の病だけは癒やしの魔法でも治せません! 仕方ないではありませんか! 最愛の姉が人質として隣国に送られたのですから!」


 まったく人の心がない鬼畜陛下め。

 とりあえず、俺はシェリアが精神的な病気ということにした。


 そうでなくては、アルビナスというかシェリア自身の癒やしの魔法で治せてしまうからだ。


「それでお前はシェリアを辺境で療養させたいと申すのか!? 貴様、どれだけあの女を甘やかすか!?」


「お言葉ですが、無理に動かすよりも回復する見込みがある選択をするほうが生産的かと思われます!」


 俺はシェリアを辺境の田舎で療養させることを提案した。

 それはこの王都から出たいと望んだ彼女の希望でもある。 


 だから俺は愛する彼女のためにその希望を陛下に伝えた。 


「ぬううう! 仕方あるまい! その代わり、治ったあかつきには休ませてやった分、きっちりと働いてもらうぞ!」


 まったく、我が父親ながらなんて言い草をするのか。

 シェリアが大変だというのに、彼女の身を全然案じないなんて……。


 だがこれでシェリアを休ませることができる。俺も彼女と辺境に行って二人きりで……ふふふふ。


「国力もこのままだと落ちるばかり。早うリルアには魔王に覚醒してもらいたいものだな。さすればアルゲニアを今度こそ我が手中に」


「ええ、そう祈っております。その際には僕は念願のアルゲニア軍の総司令官になれますから」


「うむ。期待しておるぞ」


 シェリアの話は心配だが俺もリルアが魔王としてさっさと目覚めてくれることを期待している。

 そうなればシェリアが魔王の後継者だという疑いは完全に晴れるし、治癒しやすいのだから。


「それでは下がってよいぞ」

「はっ! 療養する旨、シェリアに伝えてまいります」


 頭を下げて俺は陛下の執務室から出ていく。

 なんせ聖女の病気という内緒話にしなくてはならないからな。

 だからこの会話は誰にも――。


「リルアお姉様が魔王として覚醒してほしいとは、どういうことですか? エルドラド様!」

「ぷえっ?」


 えっ? えっ? えっ? ええーーーっ!?

 なんでこんなところにシェリアがいるんだ? 階段を降りようとするところで俺は彼女に声をかけられて死ぬほど驚いた。


 酷いな、これは……。シェリアは見違えるほど目つきが悪くなり、頬がこけてやつれている。


「どういうことだと聞いています! エルドラド・フェネキス……! まさかリルアお姉様を人質として送られた理由は両国の平和でなく――」

「ひぃっ!」

「あちらの国で魔王として覚醒させて、それに乗じて戦争を起こそうと企んでいるからですか!?」


 怖い、怖い、怖い、怖いいいいい!!

 あんなに花のように可愛かったシェリアがこんな殺気を放つとは思わなかった。


 その迫力に圧されて俺は腰が抜けそうになってしまった……。

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