第二十七話(エルドラド視点)
「光の精霊よ……裁きの卍を刻め!」
「な、なにをする? シェリア! あ、頭が痛い……!」
シェリアが俺の額に指を当て、なにやら詠唱を唱えると……頭が焼けるように熱くなり激痛が走る。
な、なにが起こった? シェリアは今、俺になんの魔法を使ったんだ?
「エルドラド様、あなたの額に私は呪印を刻みました。私は好きなときにその呪印を爆発させることができます……。ほら、こんなふうに」
「ひいっ!?」
彼女は懐から卍模様の紋章が刻まれているナイフを取り出して、それを爆発により粉々に吹き飛ばす。
どうやら俺は完全に彼女に命を握られてしまったようだ。
「嘘を感じれば爆発させます。さぁ、本当の話をしなさい」
「ほ、本当の話?」
「そうです。お姉様が人質になった経緯、あなたがそのときに行ったこと、すべて話すのです」
くっ……、本当のことを話せば俺はシェリアに幻滅されて怒られる。
――だが嘘をつけば確実に殺される!
つまりどちらに転ぼうと地獄確定……というわけだ!!
「リルアは……、アルゲニアを滅ぼすための先遣隊として送られた……! 魔王として覚醒すればかの国の国力は間違いなく衰える。そのとき魔王討伐の大義名分とともにアルゲニアに攻め込めば、我がフェネキスの勝利は揺るぎないと陛下が……、そう陛下が仰ったのだ!」
こうなったら「全部陛下が悪い作戦」だ!
というか本当に全部陛下が悪いし……。俺はそんな悪辣な戦略考えてもみなかった。
これで同情を引いて、まずはシェリアに機嫌を直してもらおう。
「なるほど、すべては国王陛下の陰謀だと仰るのですね。……それではエルドラド様はリルアお姉様を助けようとされましたか?」
「お、俺? 俺はアルゲニアに送るより、きっちりとリルアを殺しておいたほうがいいって、引導を渡そうとしたさ! あっ!?」
「リルアお姉様を殺そうとされたですって……?」
この俺のバカ~!! 嘘をついたらころすって脅されたから全部本当のことを言ってしまったじゃないか……!
なんという大マヌケ。なんという失態……!
これじゃ、どっちみちシェリアを怒らせて俺は、俺は――。
ダメだ……、怖くて立っていられない。
気づけば俺はヘナヘナと腰が抜けて尻もちをついていた。
「エルドラド様、私は今すぐにでもあなたの頭を爆発させたい気分です」
「はぁ……、はぁ……」
ギンっとその紫水晶のように輝く瞳で睨まれた俺は、その明らかな殺意に死を覚悟する。
愛する者に殺される運命か……、ふっ、それもいい。
――やっぱり良くない! 死にたくない!
「リルアお姉様に会わせなさい」
「えっ!? いや、なにを言っているんだ? リルアはアルゲニアに――」
「リルアお姉様に会わせなさい」
「ま、任せてくれ。俺がなんとかしよう」
俺は生き残るために出国をせざる得ない状況に追い込まれた。
しかし普通に考えて王子たる俺や聖女である彼女が、人質であるリルアに会うなど不可能に近い。
どうする……? 無理だって言ったら確実に殺されるぞ……。
うーん。幸か不幸かシェリアは療養として辺境に向かうことになっているし……、俺はそれに付き添って王都から出て、関所では賄賂を掴ませて密入国させてもらうか。
◇
「なぜアルゲニア王国のどちらにお姉様がいるのかご存じないのですか?」
「いや、その。アルゲニア側がそのへんの情報をすべて規制していて、だな。……だが任せろ。王子たる俺の勘ではリルアはおそらくこの王都にいる」
リルアがどこにいるのか、これは俺も真面目に調べたがまったくわからなかった。
平和のために送られた人質を隠すとは、アルゲニア王国も無粋なことをする。
まさかこっちの狙いがバレている、とか? いや、それはないか。
例えばリルアが魔王の後継者だとバレたとして、生かしておく理由もないし、フェネキスは猛抗議に遭っているだろう。
狙いはよくわからんが、王都にいる可能性は極めて高い。
王都には国王をはじめとして有力な貴族どもがほとんど住居を構えているからだ。
もちろん、辺境に住んでいる者もいるが聖女の身元を預けるなら最も人口の多い王都だろう……。
「まさかお姉様、牢獄に囚われているのでは?」
「それはないだろう。念願の聖女が来たのだ。逃げられぬように監視はつけるだろうが、手厚く歓迎するはずだ」
「そうですか……、早くお姉様に……、お姉様に会いたい……」
穏やかな表情を見せるようになったシェリアを見て俺は少しだけ安心する。
いや、ブツブツとお姉様と呟く彼女は怖いのだが、それでも前に見せたあのドス黒い蒸気を放つなどといったことはないし……。
――俺はあの日見たのはすべて夢だとさえ思うようになっていた。
まぁ、リルアの件でちょっとばかり気を病んでいるみたいだが、一度会ってあの女に説得してもらえば――。
「エルドラド様、寒気がしませんか? なんだかいきなり寒くなってきたのですが……」
「なにを言っているんだ? 今日は暑いくらいではないか」
「そ、そうですか……、ううう……胸が苦しい……!! あああああああっ!!!」
シェリアはガシッと腕を掴んで苦しそうな声を出し、そして絶叫する。
腕が痛い、痛い、痛い……! シェリアは聖女で魔力は強力だが腕力自体は常人よりも弱いくらいなのに……。
「……ぐぐぐ、この身体は真の我が依代に非ず。感じるぞ……、近くに我の依代が!」
「シェリア? 君はなにを言っているんだ? うわっ!」
またもやシェリアからあのドス黒い蒸気が噴出される。
その凄まじさはこの前の比ではない。周りの粉塵を巻き上げて、周囲の建物もグラグラと揺れ、出店などは商品が吹き飛ばされた。
こういうとき、どうすべきか。
確か、おとぎ話だが……王子のキスで呪いから助かる姫の話があったな。よーし!
「シェリア、俺の愛を――」
「離せ! 下賤なる人間よ!」
「ぶえっ……!!」
俺は彼女の肩を抱いて口づけしようとするも、思いきりビンタされてしまう。
ううう、痛すぎる……。首が取れる……、うう、意識が、遠のく……。
※第三章までお読みくださってありがとうございます!
ここで、第三章は完結です!次はいよいよ最終章!
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