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第二十話

「一応、私なりに勘を働かせてみたんですけどいかがでしょうか?」


 テーブルにおいたのは山菜やキノコの数々。

 レオンハルト様のお屋敷の裏山に生えているものを一時間ほどかけて採取してきた。


 ――なぜ、こんなことをしているのか?


 レオンハルト様曰く、どうやらこれが錬金術の修行らしい。

 採ってきた山菜やキノコがすべて食べられるものならば合格。もちろん図鑑などを使うことは許されない。


 ちなみに私はそういう植物や菌類などの知識はほとんどない。だから完全に勘を頼りにするしかないのだ。


「これは毒草、こちらは毒キノコ、こちらも毒キノコですが……さらに猛毒ですなぁ。こちらの山菜は食べられますので後で私がサラダにいたしましょう」


 ゼルナーさんが図鑑を手にしながら毒のあるものを識別してくれている。

 私の勘は残念ながら全然当たってないみたいだ。


 うーん。色艶だけじゃやっぱりわからないか……。


「ふふふ、毒だらけですね~」

「クラリスさん、一応これでも真面目に考えてみたんですよ」


 半分以上が毒草か毒キノコでクラリスさんに笑われてしまう。

 これは思ったよりも難しい。知識も勘も使えないとなるとどうしたらいいのか雲を掴むような話でまったくわからない。


「「ミュー、ミュー」」

「ダメですよ。これらを食べちゃ」


 パタパタと羽ばたいてテーブルの上の毒草を興味深そうに眺めるペガサスとグリフォン。

 ルースさんが捕まってしまったので、レオンハルト様は行き場を失ったこの子たちを連れて帰ってくれた。


 野生に返そうにもこの子たちには仲間がいない。厳しい自然の中で生きられるかどうかわからない。

 だからこそレオンハルト様は自分のところで飼育することを選択したのである。


「ふーむ。やはり最初はこんな感じですかねぇ」

「レオンハルト様、これ難しすぎますよ。それにこれが錬金術の勉強とは思えないんですが」


 私の摘んできた毒草や毒キノコを手にしながら、レオンハルト様は頷く。

 安直だが、錬金術ってなんかこうもっと座学とかそういうお固い勉強をするイメージだった。


 魔法の勉強は術式の構造などを覚えて魔力を介してそれを構成する特訓が主で、あとはひたすら瞑想や祈りを捧げる時間だったので、それとは随分違う。


「錬金術は“理解”を第一段階とする学問です。それはすなわち、自然の摂理を知ることと同義」


「自然の摂理……」


「自然界で毒を生み出すメカニズムはそれを理解するにあたって非常に有効なんですよ。我々の体を害するものを自然の中で生きる上で創り出す。その過程や構造を理解すれば、このように……毒や薬を新たに創り出すことが可能になります」


 レオンハルト様の手の中にある毒キノコと毒草が紫色の光を放つ。

 そしてそれらは一瞬にしてシャボン玉のような球体になり、彼の手のひらの上でプカプカと浮かんだ。


「それは……、なんですか?」


「キノコと野草の毒のみを抽出してブレンドしたボールとでもいいましょうか。そしてこの毒の中にある風邪の原因にのみ効く成分をさらに抽出して凝縮します」


 またもや発光して、今度は豆粒くらいの大きさの錠剤みたいなものが彼の手のひらに残る。

 えっ? まさかこんなハイスピードで薬を錬成したっていうの?


 というか、私が適当に摘んできた毒キノコやら毒草やらで薬を作っちゃうなんて……、信じられない。


「す、すごいです。風邪薬をこうも簡単に作れるなんて」


「もちろん、ここまでできるようになるのは簡単ではありません。とりあえず毒の有無を触れて判別できるようになれば、自然の摂理の一端を知ることができるはずですよ」


 とりあえずと言われても……、それすら難しいというかできる気がしないんだけどな。


 完全に甘くみていたなー、錬金術。魔法はそれなりに修得が早かったから、こんなにわからないとは思わなかったよ……。


「もっとも僕からすれば風邪だけを治す薬を作るより、リルアさんのようにすべてを治してしまう癒やしの魔法のほうがよほどすごいと思ってるんですけどね」

「えっ? そうでしょうかね?」


 そういえばこの前、クラリスさんにも似たようなこと言われたな。


 確かに聖女による癒やしの魔法は大雑把だ。悪いところを全部治す。そんな感じで怪我も病気も治してしまう。


 かつては奇跡の技と呼ばれていた魔法。その中でも聖女の使う光属性の魔法はその特色を色濃く残している。


「私、錬金術というのは魔法と似たようなものだと思っていました。やり方が少し異なるだけで根っこのところは同じようなものだと」


 この世界の魔術師の家系に生れて十八年。そしてゲームの知識を以てしても私は錬金術について大きく誤解をしていたのだと実感した。


 これは覚えるの大変かも。なまじ魔法をかじっているのはプラスにはならないかもしれない。


「そうですねぇ。魔法と錬金術の違いですか……。それではリルアさんの癒やしの魔法を例にして少しだけお話しましょう」


「はい。お願いします」


「癒やしの魔法ですが……体内の悪いところをなんとなく見つけて治す。大雑把に言えばそんな術式なんですね。それは錬金術の観点から見ると不完全な術と言わざるを得ません」


 レオンハルト様による魔法と錬金術の違いに関する講義。


 私の魔法がなんとなくと言われればそのとおりだ。もちろん、正しい術式の構造を覚えて発動させているが、どのようにして治しているのか……それは知らない。


 確かに不完全と言われればそんな気もする。


「しかし不完全というのはあくまでも錬金術師という観点に立った上での見解です。どこをどうやって治すかという過程があやふやなのに多大な魔力を利用して自然の摂理を飛び越え求める結果を実現させる理不尽な力。錬金術師である僕から見た癒やしの魔法はそんなイメージなんですよ」


 うーん。自然の摂理を飛び越える、とかそんな大仰なことをしているつもりはないんだけどなぁ。


 魔法というのはそういうものだと思っていたからそこに違和感を覚えたことはなかった。

 魔力さえ使えば不思議なことを理屈抜きで行うことができる……それが魔法ということか。


「例えば錬金術師が同じことをするならば、まずは体内の悪い部分を感じ取り、その原因を理解した上で処理をします。ですから効率や早さは魔法よりも劣るのです」


「確かにそれを聞くと魔法のほうが便利な気がしますね。ですが錬金術ならではの利点もあるのではないですか……?」


 レオンハルト様は魔法が錬金術よりも優れている点を話しているが、私はそれだけではないことを知っている。


 なんせこの国は錬金術で国力差をひっくり返したのだ。

 その力が魔法に劣るとは思えない……。


「もちろんです。利点は魔力の消費が少ない上に応用できる範囲が非常に広いことでしょうか。覚えれば誰でもできますし、このように携帯できる薬や武器などのアイテムを作ることができます」


「確かに便利な魔道具多いですよね。聖女がいなくても癒やしの手段が数多くあるのも、先ほどレオンハルト様がされたように薬などを作るのに錬金術が活かされているからなんですね」


 そうだ。この国は魔道具から結界まで錬金術によって作られたもので発達している。


 魔法が生まれ持った魔力量の多い限られた術者にしか使えないのに対して、魔道具は誰でも使えるし、錬金術も勉強すれば魔法ほどハードルは高くないらしい。


 そして本質を理解しているからこそ組み合わせて応用を利かせるのも容易であることも魔法と大きく違う点だろう。


 魔法は結果だけが明らかになっていて、それを魔力で理屈を無視してゴールへと導く力。

 例えば二つの魔法があったとて、それを組み合わせてまったく別の魔法を作り上げるのは無理だろう……。


「さて魔法と錬金術は別物というお話、理解できましたでしょうか?」


「はい。両方とも魔力をエネルギー源にしている点では共通しますが結果を導くプロセスがまるで違うんですね」


「正解です。リルアさんは非常に理解が早くて助かります」


 レオンハルト様による錬金術の講義は夜まで続いた。

 まずは自然の摂理を理解することから始める。それが錬金術師への第一歩。


 うん。少しだけなにか掴めたような気がする。

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