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第十六話

「昨日は帰ってしまいましたが、“ノア”に乗るのが楽しみです」

「びっくりしましたよ~。リルア様ったら、突然帰りたいと仰るので~」


 本当に昨日の気まぐれとも言える行動は反省しなきゃ……。

 せっかくクラリスさんがノリノリで案内してくれていたのにその親切を無下に扱ってしまった。


『くれぐれもルースくんのところに近づいてはなりませんよ。今のリルアさんは十全に力を発揮できないのですからなにかあったとき危険です』


 私の考えは読まれていたらしくレオンハルト様には近づくなと念押しされてしまう。

 そこまで言われて忠告を無視する私ではないので、今日は素直にクラリスさんとともに“ノア”に乗ることにした。


 今は長い長い階段を登って船着き場を目指しているところだ。

 もっとも登るといっても足を動かしているわけではない。なんとここにはエスカレーターのような動く階段があるのだ。


『リルア様~、動く階段に驚きませんでしたね~。私なんて始めて見たときはびっくりしすぎて腰を抜かしそうになりましたよ~。さすがは聖女様です~』

『お、驚いていますよ。リアクションが顔に出にくいだけで』


 前世の記憶のせいでエスカレーターには驚けなかった。

 転生の話はレオンハルト様曰く要らぬ混乱を招く可能性があるので彼以外には内緒にしている。


「ほら来ましたよ~。あれが空飛ぶ方舟“ノア”です」

「まぁ、すごい! ――近くで見ると思ったよりも大きいですね!」


 宙に浮きながら近づく大きな方舟に私は素直に感動する。

 レオンハルト様はとんでもないものを作った……。


 今、私は人質とか魔王の後継者とかそういったことを忘れて子供のように興奮している。


「早く乗りましょう!」

「わわ、リルア様~。待ってくださ~い」


 目の前に止まった“ノア”にいてもたったもいられなくなった私は走って乗船した。

 本当にすごい。見た目はよくある木造の帆船という感じなのに確かに浮いている。


 客の乗り降りが終わったところで“ノア”は出発した。


「どうですか~? 上からの景色は」

「街を一望できて良いですね。それに風が気持ちいい」


 まるで自由な鳥になったかのように風を全身に受けながら空中を移動する“ノア”。

 今はこの街しか動くことができないがいつか国中を空飛ぶ方舟が闊歩する時代がくるのだろうか。


「ずっと景色を見ていられますね」

「そうなんですよ~。気づいたら街を一周し終わってます~」

「確かに意外と早く次の船着き場につきそうです。もう見えてきました」


 十七箇所ある船着き場。それらは環状になっており、一周したら最初の船着き場に戻る。

 ここは昨日、あのルースさんという人と出会ったあたりの場所だ。

 おそらく近々レオンハルト様が――。


「きゃああああああっ!! なにあれ!?」

「な、なんだ!? ぶ、ぶつかる!!」

「「――っ!?」」


 ドンッという鈍い音とともに方舟“ノア”が揺れる。


 ――空を飛んでいるのにぶつかるって、そんなバカな。


 そう思って、音のする方向を見ると信じられない光景が広がっていた。


「あ、あれってまさか……」

「変ですね~、魔物は結界によって街には入れないはずですが~」

「魔物? いいえ違います。それらとはまったく異色の生物です……」


 目の前にいるのは翼を広げた白馬や獅子の体に鷲の頭と翼のある幻獣たち――。


 なんとペガサスやグリフォンといったファンタジーな生き物たちが真正面から“ノア”にぶつかってきたのだ。


「グオオオオン!」

「ガアアアアアア!」

「「――っ!?」」


 ガツンともう一度、鈍い音がして“ノア”は揺れる。

 参ったな。あの目は普通じゃない。明らかに錯乱している動物のそれである。


 どうやらこの“ノア”のことを敵視しているみたいだ。

 大方空を飛ぶ不気味な生き物だと思っているのだろう。


「に、逃げよう!」

「バカ! 逃げるって言ってもどこに逃げるんだよ! 空の上だぞ!」


 乗客たちもパニックになっている。

 それはそうだろう。船着き場までまだ距離のあるここは空中。飛び降りたらそれこそ自殺行為という場所であった。


「仕方ありません。拘束します……!」

「リルア様~!? 危険です~!」


 私は走ってペガサスとグリフォンに近づく。

 相手は二体でしかも大きさは人間の軽く十倍を超えるサイズ。


 魔力はかなり消費するがこのまま乗客たちを危険に晒せない。


「破邪の力よ! 連鎖の光に宿れ!」

「「――ッ?」」


 魔法で光の鎖を放ちペガサスとグリフォンを拘束する。

 聖女の務めは魔物たちの討伐も含まれていた。

 このくらいの大きさの魔物とは何度も戦った経験はある。


「うっ……、やはり重い! それならば……!」

「ええーっ!? リルア様、飛び降りるつもりですか~!?」


 私は“ノア”から地上へとダイブした。

 このまま空中で拘束し続けるとなるとかなり負担がかかる。


 それならば一緒に下に降りてもらう他ない。


「光翼よ! ひとときの奇跡を我に!」


 私は背中に光の翼を生やして、宙を舞う。

 聖女としての務めは国中のあらゆる場所で行わなくてはならない。長時間は無理だが空くらいは飛べるのだ。


(このままゆっくりと降りる)


 鎖につないだ二体の幻獣たちをひきつれて、私は地上を目指す。


(やっぱり負担が大きいわ)


 胸が熱くなってきた。どうやら魔法を連続して使っているがために闇の魔力が体を駆け巡り悪さをしているらしい。


「ううう、もう少し保って! もう少しだから……!」


 光の翼をはためかせて、私は自分の十倍以上の大きさの二体の幻獣を拘束しながらなんとかゆっくりと着地した。


 よかった。“ノア”もしっかり動いてくれているみたいだし、大惨事は免れた……。

 しかしいきなりペガサスとグリフォンって……一体なにが起こっているのだろう。

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