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第十五話

「しかし気になりますねぇ」


「ルースさんの話ですか? そうなんですよ。あの大きな地響き、なにをされているのか気になりますよね」


「いえ、それではありません。僕が気になっているのは何故ルースくんがリルアさんに嘘をついたのか、です」


「嘘を、ですか?」


 あれ? 思っていたリアクションと違う。

 なんだろうな。私、ルースさんになにか嘘をつかれていたって。


 全然、思い当たる節がなくて私は首を傾げる。 


「錬金術師でないリルアさんがわからないのは無理なからぬことですよ。ルースくんもそれゆえ嘘をついたのだと思います。……彼がついた嘘、それはつまり食糧難のために研究をしているということです」


「えっ? それ、嘘なんですか?」


 これには素直にびっくりした。


 だって、あんなもっともらしい理由言われたら信じるに決まっているじゃないか。


 困っている人のために頑張っているのかと感心もしたのに、本当に嘘ならばちょっと残念だ。


「巨大化因子を使えば、家畜や農作物を大きくできる。つまり生産量を増やすことができ、食糧難を回避できる。理にかなっているように見えますが、この理屈には落とし穴があります」


「落とし穴?」


「巨大化因子を精製するのには多大な生体エネルギーが必要なんですよ。大雑把に説明しますと、一頭の家畜を二倍にするのに十頭の家畜を犠牲にするくらい膨大なエネルギーが必要です」


「そ、そんなに……?」


 なんてこった。それでは割に合わないじゃないか。


 二倍に増やすために十を犠牲にするなんて、子供でも非生産的だとわかる。


 じゃあ、なぜ私にそんな嘘をついたのだろう。


 ――思い当たる理由は一つしかない。


「ルースさんはなにか後ろ暗い研究をしていたということでしょうか?」


 人には言えないような研究をしていたから、嘘をついた。


 安直かもしれないがそれしか考えられない。


「そう考えるのが自然でしょうね。なんにせよ、リルアさんが深く関わらないでよかったです。ルースくんに関しては僕が探りを入れますからご心配なく」


 紅茶に口をつけながら私の言葉を肯定するレオンハルト様。


 しかし関わらないで正解、というのは本当にそうなんだろうか?


 もしもルースさんが良くない研究をしているのであれば、すぐにでもそれを止めるべきでないか。


 レオンハルト様はご自分で調査すると言っているが、そんなに悠長なことで大丈夫なのかな……。


「レオンハルト様、やはりあの――」

「お待たせしました~! クラリス特製のアップルパイをお持ちしました~!」


 私が口を開いたとき、クラリスさんが焼きたてのアップルパイを持って食堂の中に入ってきた。


 ああ、香ばしい匂いと爽やかなりんごの香りが食欲をそそる。なんて美味しそうなんだろう。


「さすがはクラリスさん。いい出来です。あなたのぶんも紅茶を入れますからお座りなさい」


「は~い。それでは私もご相伴に預からせていただきます~」


 ということでクラリスさんも食卓に加わって彼女の作ったアップルパイを食べさせてもらうことにした。


「んっ? お、美味しい~。サクッとしたパイの歯ざわりが小気味よく、中はジュワッとりんごの酸味がパイの甘さとマッチして最高のハーモニーを演出していますね! これ、お店よりも美味しいですよ!」


 信じられないくらいクラリスさんのアップルパイが美味しくて私はつい早口で感想を述べてしまう。


 これ、絶対にシェリアも好きな味だろうなー。


 彼女にも食べさせてあげたい。そう思えるほどの絶品である。


「くすっ、リルアさんの食レポは一級品ですね。僕がどう頭をひねってもあなた以上の感想は思いつきません」


「そ、そんな……。すみません、はしたない真似をして」


「いえいえ、とんでもない。正直者のあなたの感想を誰が咎めますか」


「リルア様~! そこまで褒めていただき、このクラリスはメイド冥利につきます~! また作らさせていただきますね~」


 クラリスさんは涙目になって嬉しそうな顔を見せる。


 そんなにいい食レポだったかなぁ。前世だと美味しいお店のレビューとかはりきって書いちゃうタイプだったけど……。


「ところでリルアさんは結局、“ノア”には乗らずじまいだったんですね?」


「はい、ルースさんのことが気になってしまって」


「それなら~、明日こそ乗りましょうよ~。きっと楽しいですよ~」


「いえ、さすがに連日遊びに出かけるのは憚れます」


 クラリスさんの提案は嬉しいものだったけど、遊んでばかりというのは人質としての立場を考えると抵抗がある。


 もっともダラダラして紅茶と菓子を食べている時点で人質としての立場もなにもあったもんじゃないかもしれないが……。


「構いませんよ。“ノア”は僕の創ったものの中でも最高傑作。リルアさんの感想が聞けると嬉しいです」


「……ですが私は」


「言ったでしょう? できるだけあなたに不自由はさせないと。これくらいなんでもありません」


 うーん。自由すぎる気がするけど、ここまで言ってくれているのに意固地になるのも失礼だよね。


 それにやっぱり“ノア”には乗りたい。それが素直な気持ちだ。


「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」


「やった~! 明日もリルア様とおでかけです~!」


 そんな経緯もあって、今度こそ空飛ぶ方舟“ノア”に乗ろうと翌日私とクラリスさんと一緒に再び錬金都市デイブラットに行くこととなった。

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