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第十四話

「おやおや、お早いお帰りでしたね。遠慮などせずにゆっくり遊んできてよかったんですよ」


 想定よりも早く戻ってきた私たちを見て、レオンハルト様は首を傾げる。


 少なくとも空飛ぶ方舟“ノア”で街を一周する、と思っていたのだろう。


 私としては錬金都市の一端を見ることができて十分リラックスできた。


 そんな中、観光よりも気になったことがあったのだ。それを放置することは性格的に無理だった。


「レオンハルト様にお聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」


「構いませんよ。ちょうどいい、紅茶でも淹れましょう。クラリスさん、なにか甘いものを用意してください」


「は~い! 承知いたしました~!」


 さっきのことをレオンハルト様に話そうとしたら、またもやティータイムを取ることとなった。 


 昨日もだけどレオンハルト様は甘いものは用意してもらうが、紅茶はご自分で淹れるらしい。紅茶が好きなのかな……。



「どうぞ。魔封じのハーブは使っていませんのでご安心ください」


「ありがとうございます。んん~、ほのかにりんごの香りがしますね。アップルティーですか?」 


「ええ、クラリスさんがアップルパイを焼いてくださるみたいですので、りんごで合わせてみようかと」


 広々とした食堂で二人きり。私とレオンハルト様は紅茶に口をつける。


 やっぱり格別に美味しいな。スーッと染み込んで、ふわっと包み込むような香りが優しい。


 後味もよくて、なんだか豊かな気持ちになれるような気がした。


「それで改まって話というのは? デイブラットでなにかありましたか?」


「ええ、少し気になることがありまして。……あの、レオンハルト様は生体を巨大化させる因子の研究などをされていますか?」


 さっそく本題に入る。もちろんデイブラットで見た白衣の男性の話だ。


 クラリスさんの話によればレオンハルト様も同じような研究をされていたみたいだし、手紙をもらったのならあの人のことを覚えているかもしれない。


「生体の巨大化因子……。ええ、二年ほど前でしょうか。魔物たちの生体について調査する一環で少しだけ。あまり役に立つとは思えませんでしたので、程々にして止めましたが」


 ええーっ、止めちゃったんだ。役に立ちそうな研究だと思っていたから意外だった。


 魔物たちの生体……確かに異常に大きな動物が巨大化して凶暴化しているようなものが多いけど、きっかけはそこだったんだ。


(あの白衣の男性とは随分と動機が違うのね)


 あの人は田舎の食糧難をなんとかしたいから研究を開始したと言っていた。  


 魔物などという言葉も一切なかったからこちらも意外だった。


「その巨大化因子が、なにか?」

「いえ、デイブラットで出会った錬金術師さんがその研究をしていると言っていまして、その――」


 私は先ほどの経緯を話してみた。


 白衣の男性がレオンハルト様に憧れていることや、別れ際の大きな音と地響きが気になったこと。それらをできるだけ細かく伝えられるように説明する。


「……なるほど。そういうことでしたか。確かに半年ほど前にその方からだと思しきお手紙はいただきましたよ。名前は確か……ルースくんと言いましたか。僕の弟子になって勉強をしたいと熱烈なアピールが綴られていたのを覚えています」


 さすがはレオンハルト様だ。きっちり手紙の内容を覚えているみたい。


 しかしお弟子さんになりたいとは本当に彼に憧れているんだな。


(でもその夢は叶わなかった。つまりレオンハルト様はそれを拒否したってこと)


 熱烈なアピールも空振りに終わったのか、事実として彼は白衣の男性もといルースさんとやらを弟子にしなかった。


 だからこそ彼はあの真っ白な建物で研究をしている。


 それにはなにか事情があるのか、私はそれも気になった。


「その手紙の内容がなにかレオンハルト様にとって、なにかお気に障ることでも?」


「おや? どうしてそう感じられましたか?」


「だってレオンハルト様はそのルースさんという方をお弟子さんにしなかったんですよね? 手紙の内容が良くなかったんじゃ……」


「いえ、手紙は関係ありませんよ。僕は弟子を取らない主義なんです」


 なるほど、実にシンプルな答えだ。

 よく考えたら大陸一の天才錬金術師と名高いレオンハルト様だ。弟子志望者がルースさんの他にいないはずがない。


 それでもこの広いお屋敷には彼と僅かな数の使用人しかいなかった。


 それはつまり彼が弟子という存在を不要なものだと感じているからに他ならない……。


 もしかしたら錬金術でも教えてもらえるかも、などと思っていたがそれは難しそうだ。彼は孤高の存在なのだから……。

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