夢の美魔女は去って・・・リアルな恐怖
・・・く、苦しい・・・
息ができない。何かが僕の口を塞いでいる。鷹山さんの唇・・・?
「ぶはっ」
僕は何とか引き離したけど・・・また強引に引き寄せられ、口が塞がれる。
口だけというより、何だか顔全体が塞がれてる。息ができないことには変わりないけど。
ん?
何か隙間が出来て・・・少し息が出来る。でもぎゅーっと引き寄せられて、圧迫されて苦しい。
何とか引き離さないと。
僕は両手で押して引き離す。
ん?
何かムニュっていう感覚・・・。
これが唇ってもんなのか?
え? 唇ってこんな大きかった?
もみもみ。もみもみ。
柔らかい・・・こんな柔らかいもの、初めて触ったような・・・。
「あん」
え?
幻聴? 何だか艶かしい、色っぽい女性の声・・・
でも聞き覚えある。
何とか引き離し・・・
うっすら目を開ける。
何だか、巨大な丸い物体が二つ・・・
これ程恐ろしい・・・
巨大な物体は見たことない。
ん?
僕が触ってるのは、この巨大な丸い物体二つ・・・?
柔らかい・・・
もみもみ。もみもみ。
両手から・・・極上の感覚とでもいうか・・・
これ程素晴らしい感触を僕は今だかつて味わったことがない。
こうして触ってるだけで、素晴らしい甘美な世界に包まれる・・・
極上の世界・・・
こんな感覚は初めてだ。
何というか・・・
ざっくりいうとエロに包まれてるかのような・・・
これから死ぬって時に、やっぱり僕は変態だったのか・・・
悲しいけれど、こんな素晴らしい世界なら・・・
僕はこのまま死んでも良いかも。
もみもみ。もみもみ。
「あんっ。ダメ」
この色っぽい幻聴も相まって・・・
「はぁはぁ」
こんなに息が荒くなって・・・
僕はやはりこのまま死ぬのか・・・
こんな幸福に包まれたまま・・・
「ダメ」
「むおおぉぉぉおお! 僕は変態だああぁぁぁああ!」
「総純くん・・・」
「僕はこのまま死んでも良いいっ!」
「なら殺してあげる」
「え?」
僕はバチっと目を覚ました。
「うわああああぁぁぁぁあああっ!!」
この二つの巨大な物体はっ!
・・・え?目の前には・・・巨大な丸い二つの物体・・・
色っぽい何かに包まれている。
これは・・・確か雑誌か何かで見たことある。
そう、これはネグリジェってヤツだ。
え? ネグリジェ?
上を見上げると・・・
見覚えある、美人の顔・・・
「え? 鷹山さん?」
僕は・・・鷹山さんの胸を鷲掴みにしてる?
「ん・・・」
鷹山さんが目をこすりながら、目を開けようとする。
「わわっ」
僕は慌てて鷹山さんの胸から両手を離した。
「あ。総純くん。良かった・・・」
起きがけの声も色っぽく、寝ぼけ眼も艶かしい・・・。
微かな陽光差し込んでるから、朝が来てると分かる。
「え? 良かった・・・?」
「あなたがフェンスの側で倒れていたのを、私がこの家へ運んだの」
「ええっ?」
「随分うなされていたから、一緒に寝てあげたんだけど・・・」
そ、そんな・・・バカな!
あれ? 僕は・・・あの例の煎餅布団で、鷹山さんと一緒に寝てる!
あの一連の恐怖は・・・夢・・・?
そんな・・・あんなリアリティーある夢なんて・・・
「そうだ! 窓ガラスが割れてるはず!」
窓ガラスの破片が飛び散ってるはずの辺りに目を移すと・・・何も無い!
「あ、窓ガラス割れてたから、また直してあげたの」
窓に目を移すと、確かに板を貼ってあって、急ごしらえで直した跡。
「犬の化け物・・・」
「えっ?」
「犬の化け物が突き破って入って来たんです」
「窓が割れてたのがそうなの?」
「そうです!」
「昨晩は風が強かったから、突風が吹いて割れたと思ってたんだけど・・・」
「そんな・・・」
「それよりお風呂入らない?」
えっ? 何を言ってるんだ? こんなワケわかんない状況でお風呂なんて・・・
でも確かにお風呂入って気分を落ち着かせた方が良いのか?
「朝起きたら、まず何よりお風呂! これ大事!」
「そ、そうなんですか? 確かに昨日、お風呂の大事さ教わったけど・・・」
「早速沸かして来て!」
「あ、そういえば、お風呂、昨日鷹山さんが入った時のお湯がまだ入ったままだから、また薪くべて沸かせば・・・」
「よし! じゃあ今日入学式だから、さっぱりして臨みましょう」
「入学式・・・」
「さ、早く早く」
僕は外から薪をくべながら、いろいろ昨晩のことを思い返した。
絶対あれは夢なんかじゃない。現実に起こったことだ。
でも僕のアゴには確かに傷があるんだけど・・・
噛まれたはずの跡や、鷹山さんにメスをグリグリされたはずの傷は確かに全く無い。きれいさっぱり。そんな形跡は見当たらない。
ということはやっぱり夢だったんだろうか・・・。
「ちょうど良い湯加減・・・」
中で湯船に浸かっている鷹山さんの声、気持ち良さそうだ。
「でも何かお尻が・・・」
えっ? お尻?
鷹山さんのお尻が想像されて・・・
そういえばさっきの鷹山さんの巨大な胸も・・・
「はぁはぁ」
何か息が荒くなって来た。
「お尻が熱い」
「えっ? やっぱりお湯熱いですか?」
「じょーだん。ちょうど良い湯加減よ」
「良かった・・・」
「今から総純くんも来て、一緒に入る?」
「えっ?」
更にエロの追い討ちが・・・
でも、一緒に入りたいのはやまやまだけど・・・
心のモヤモヤが解けない限り、鷹山さんのまっぱをじっくり堪能できない・・・
って、僕は何考えてんだ! やっぱり変態・・・
「あ、そういえば僕が倒れていた側のフェンスなんですけど」
「フェンス?」
「何かへこんでませんでしたか? 犬の化け物が頭からぶつかって跡があるはずなんです」
「夜中で暗かったし、気付かなかったけど・・・学校へ行く時、確かめてみましょう」
よし。これではっきりするはずだ。必ず跡は残ってるはず。
そして・・・さっきから喉まで出かかってて出来ないでいる質問・・・
怖くて聞けないでいる質問。この質問の答えを聞いて何とかすっきりさせたい・・・
「あ、あのぉ。鷹山さん」
「何?」
「鷹山さんは医者ですか?」
「そうよ」
サーっと僕の全身、足元から頭のてっぺんまで氷が一気に駆け巡って、僕は冷凍人間になった。
目の前の炎すら凍った。