恐怖の次に襲って来たのは・・・
ガチャーン!!
僕が独り暮らしする予定の家の、窓ガラスが割れた。
光る目は消えて、不気味な呼吸音も消え、何かがいた気配が無くなった。窓ガラスを突き破って外へ出たんだろうか?
“何かがいたような気配”だけだったら、僕の思い過ごし、気のせいで済むけど、窓ガラスが割れているのは紛れもない現実。
まさか本当に何かがいたんだろうか・・・。
僕は恐怖の余韻で、へたりこんだまま、はぁはぁと荒い息を吐いていた。
ガラッと引き戸が開いた。
監視している職員は家の中まではノータッチのはず。一体誰が開けたんだろう?
恐る恐る開いた引き戸の方へ目を向けると・・・
最初は何が何だか訳分からず、何かを思う余裕すらなかった。
この村は昼間なら微かに陽光はある。そして今まで暗い所に目が慣れていたからか、余計に引き戸の開いた部分から射し込む光が眩しく見えた。
誰かが・・・
誰か人が立ってたんだ。
しかも女性らしい。
僕はドキッとした。こんな経験は初めてだ。
人の顔を見てドキッとするなんて・・・
そこにあった顔は・・・
僕が今まで見たことのないような種類の顔だった。種類って言うと変だけど。
大人の女性の顔といえば、お母さんか近所のおばさん、小学校の時のおばさんの先生くらいしかいなかった。
整った顔立ちというか、美人オーラが発せられてるというか・・・
後ろ髪はお尻辺りまで伸びててかなりのロング。
更にびっくりしたのは、村人が着るような和服じゃなかったこと。
都会で流行っているらしい、ボディコンとかいうヤツ。電気通ってないからテレビは無いんだけど、雑誌とかで一応都会では何流行ってるかとか、何となくは知ってるんだ。
しかもこの村には似つかわしくなく、色鮮やかで、全身から発せられるオーラは、僕が今まで全く感じたことのないものだった。出るとこ出て、へこむとこはへこんで、みたいな艶かしいスタイルというか・・・射し込む光が後光のようにも見えて、いろんな意味で眩しかった。
「何かあったの?」
「・・・・・・」
美人オーラを発する何かが、なぜか僕に問いかけをした。
僕はボーっとして何も答えなかった。
恐怖の余韻があったからか、その人の顔に見とれていたからかは、分からないけど・・・。
「あ、ごめんなさい。私は鷹山なつき。村役場の職員です」
「は、はぁ・・・」
「先ほど男性職員と交代したんだけど、突然窓ガラスが割れる音がしたものだから」
「あっ・・・」
「何かあった?」
「えっ。いや、あの・・・」
「大丈夫よ。私は単に監視するだけのつもりはないから」
「えっ? どう・・・いうことですか?」
「まだ中学生になったばかりの子が、一人で生活なんて無理でしょ?」
「えっ・・・まぁそう・・・ですね」
「だから私は掟を破るのは承知で、何かしら、可能な限り手助けしてあげられないかと思ってるの」
「えっ?」
「もちろん、村長や他の職員には内緒」
『な・い・しょ』
実際そういう響きだったかわからないけど、何だかそういう、今までに経験したことのない、大人の女性フェロモンとでもいうのか・・・
ざっくり言えば“エロ”。
寂しさ、不安、恐怖・・・
次に襲って来たのは“エロ”。
何が何だか精神おかしくなって訳わかんなくなってる時に、予想の斜め上をいく言葉が襲ってきた。
「一緒にお風呂入らない?」
艶かしいとでもいうのか、艶やかというのか、大人の女性の魅惑的な笑顔があった。いや、笑み・・・微笑というべきか。
恐怖はまだ何となく残ってるけど、もやもやとした“エロ”がじわじわ広がって、恐怖を駆逐して・・・
くれることを祈る。