プロローグ
僕が前に書いた作品、『誰も知らないけれど、本当にあった話』をリメイクというか、戌井総純視点で新たに書き直した作品ですが、よろしくお願いいたします。
僕の住んでる村は奇妙だ。
いろいろ奇妙な点があって、何から話せば良いのやら・・・。
まず僕の村は、日本じゃないみたいなんだ。いやむしろ、より日本っぽいと言った方が良いんだろうか。
日本であって日本でない、というか。日本からは独立している国家みたいな。世間からは隔絶されてる村なんだ。物理的に・・・。
まず場所。東北地方の深い森林が生い茂る山・・・。そう、山なんだ。
普通、そういった所だと、山あいとか谷とかにひっそり村があるもんだけど、僕の村はそうじゃなくて、山の中にある。
森林の中に村がある、とも言えるし、暗闇の中に村がある、とも言える。
せいぜい標高500メートルくらいの山。その中腹あたりに村がある。
しかも・・・フェンスに囲まれてるんだ。村全体が。
1メートルくらいの高さの石垣があって、その上にさらに2メートルくらいのフェンスがある。
石垣は、野面積みっていうらしいけど、大小様々な石が、とにかく積み上げられてるって感じ。全然整然としてないんだ。それがかえって荒々しいというのか、不気味さを増しているような。
そういった囲いで村全体が囲まれている。
村全体は山城のような感じで、曲輪っていうらしいけど、なるべく平らにして人が住めるスペース作って、そこに小さい集落がある。
そういうスペースが所々にあるんだけど、周りは深い森林に覆われている。
村全体も深い森林に覆われているから、村の全体像は外からは全く見えない。
僕が生まれた時からその村は深い森林、そしてフェンスに囲まれてた。
なんでわざわざフェンスに囲まれているのかというと、外部との接触を一切遮断するため。
取材も許されず、村の様子がどうなっているのか?世間的には謎。
そして奇妙なことに、村の真上にはほぼずっーと、黒雲が漂っている。村全体は黒い霧で覆われている。
この村には魔物が棲んでいるから、とも言われているらしい。
だからなのか、村の中はいつも真っ暗。昼間でも。
夜の山に入ったことがあるだろうか?
夜中の山に、ヘッドライトとか懐中電灯とか、そういった光源も持たずに入るのは危険らしい。
つい夢中になって、あともうちょっと、あともうちょっとと・・・。
気づいたら辺りは真っ暗で、右も左も分からず、来た道戻ったつもりなのに、崖に出くわしたりして。
どうしようもない絶望感。何で日が明るいうちに下山しなかったんだろうという後悔。
がさがさって音がすると、熊かっ?とビビる。
バタバタッっていう、鳥が飛び立つ音にもビビる。
二つの光る目にもビビる。真っ暗闇に猫に出くわすと、猫の目が光って見えて、何かの怪物か?と、一瞬恐怖する。
もし熊に襲われて、死の恐怖を味わうことになったら・・・
崖に落っこちたら・・・
恐怖が恐怖を呼ぶ、恐怖の連鎖・・・
冷静な人なら大丈夫なのかも知れないけど、僕みたいな子どもは恐怖で気が変になる。
だけど僕が住んでるこの村は、どんな冷静な人であろうと子どもと化してしまうような・・・
何かの怪物がいるかも知れない、と思わせる。しかも圧倒的な現実感を持って。
そのくらいの恐怖の連鎖を起こさせる程、禍々しいオーラを発していると思う。
よく山とか深い森林とか、何か棲んでいるんじゃないか?ってオーラがあって、神々しいっていうのかな?
富士山しかり、恐山だったり。
ネス湖は明らかに何か潜んでそうな雰囲気醸し出してたり、霊能力者が嫌な感じがする場所とか・・・
でも僕の住んでるこの山、村はそういったものを遥かに凌駕した、恐怖のオーラを発してるんじゃないだろうか。
そういった恐怖の棲む村。
それが僕の住む村──水力村。
僕の精神は恐怖に侵されまくり、全身余すことなく恐怖が染み渡り、もう何をする気力も無い。もう何が何だかわからない。気が変になって、死んでしまいそう・・・。
僕──戌井総純──は一体どうなってしまうんだろう・・・。