10話
僕の初恋は、唐突にを終わりを告げた。
僕の好きだった女の子、四戸流華さんは、自ら死を選んだ。
彼女が何を思って死んだのかはわからない。彼女の何かを知れないまま、そして、自分のこの初めての気持ちを伝えられぬまま、いきなり終わってしまったことで、僕は彼女に執着してしまった。
その日以来、僕の時間は止まった。
それからの僕の生は、夜にあった。
昼間は止まった心で、ただ生きていた。ただ勉強し、ただ大学に行き、ただ教師になった。
夜はずっと、オカルトにのめり込んでいた。どこかにあるはずだ、彼女に再び会える術が。どこかに。
そしてついに、悪魔との契約の方法を知った。
それには、いくつか必要な物があった。教師をやる傍らに、夜を彷徨い、様々な物を入手した。
近くの町に、山羊を飼っているお宅があると聞き、山羊の頭はそこから拝借した。
あとは、不審がられない場所。
そして何より、悪魔という概念も、必要だった。
僕には信仰が無く、悪魔というのは空想上の、興味の対象でしかなかった。それでは成功しないかもしれない。
調べた結果、おあつらえ向きの空き家を見つけた。
山羊を拝借した町にあるその家は、○×山の麓の辺りにあるらしい。その家は、町の連中から邪険に扱われていたらしく、その家がタブーとなったことから、町の連中は○×山の辺りには近付かないらしい。物を持ち込んで儀式をおこなっても、バレないだろう。
そして、タブーの理由は、そこの男が神さまを信じていたかららしい。その場所ならば相対概念として、悪魔もあるはずだ。
ついに、すべての条件をクリアした。
儀式は成功した。
僕は、現れた山羊頭の悪魔と契約を交わした。
契約の内容は、『僕が彼女へ告げたかった気持ちを伝えるまで、彼女をこの世の者とすること。代償は、僕の命』である。
「僕が誰だか、わかりますか?」
再会した彼女は、あの時のままだった。僕だけが少し老けてしまっているのが、不思議だと思ってしまうほどに。
「どうしてボクを呼び戻したりしたんだ、北山くん」
彼女は怒っていた。
今の彼女に僕の気持ちを伝えて、それで終わり、とすることは出来ないと思った僕は、彼女に東高へ通うことを薦めた。僕の勝手で蘇らせてしまったんだ、何か彼女にも楽しい思い出を作って欲しかった。
しかし、時間の猶予はあまりなかった。儀式の結果、契約の内容とは別に、僕の体は徐々に死に蝕まれているようだった。
彼女は僕の家に住み、東高へと通うことになった。
彼女は早速、廃部になっていたミステリー研を復活させ、入学式の日には、僕に新入部員を紹介してきた。 彼女に紹介されたミステリー研の新入部員は、みんな僕のクラスの子だった。どうやって勧誘したんだろう。
その中の一人、竜飛好夜くんは、僕と彼女の同級生でミステリー研部員でもあった竜飛くんの息子だ。彼女はそのことに気付いているんだろうか。
家では事務的な会話以外、ほとんど話さなかった彼女が、ミステリー研のこと以来、妙に明るい。きっと、学校生活を楽しんでくれているんだろう。
そうすると、僕も何だか楽しかった頃のことを思い出してしまって、授業中もついついオカルトを語ってしまうようになった。
でも、そういう話が好きな生徒も居るようで、隣のクラスの吉田さんや、僕のクラスの木村くんなんかには、色々とオカルト知識を披露してしまった。
いつの間にか、家での彼女も饒舌になっていた。
会話の中心はほとんど、ミステリー研のことだった。
そして、ある秋の日。台風の過ぎ去った次の日だった。
僕は彼女を乗せて、○×山へと車を走らせている。
ここまで何も理由を話してくれなかった彼女だが、麓の例の家に着くと、ゆっくりと話しはじめた。
「昨日ね、ボクが幽霊だということを、好夜くんに知られたんだ。それで、好夜くんのお父さんとも話したよ」
そうだったのか、と相づちを打ち、話を続けさせる。
「これから、山の上の方へ行って、ミステリー研のみんなに、お別れを言うつもりなんだ」
お別れ、か。
車でゆっくり、ゆっくりと山道を登りだす。ついに、この時が来たんだ。
「僕の勝手で生き返らせてしまって、迷惑だったかい?」
僕の問いかけに、彼女が静かに答える。
「最初は、とってもね。ボクは生きていたくなくて死んだんだし。それに、君の支払う物も大きいだろうから、気持ちがとっても重かったよ」
だけどね、と彼女が続ける。
「だけど、楽しかった。無かったはずの三年生も体験できたし、色んな物を手に入れた。今は、感謝してるよ」
開けた場所へ出た。駐車場があったので、そこに車を停める。
駐車場の柵の向こう、広く星が見渡せるような場所に、三つの人影が見えた。
車を出ようとする彼女に、僕はずっと告げたかった気持ちを告げる。
「ずっと、君のことが好きでした」
彼女は、微笑みながら答えた。
「ありがとう」
彼女が車を出て、人影の方へ歩いて行くのを見ていると、次第に意識が遠くなってきた。
やっと、本当に初恋が終わったんだな、という気持ちとともに、僕は静かに目を閉じた。




