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どんよりとした暗い空の下、うす汚れた石畳の上をヴィーリオはカツカツと音を立てながら歩く。彼とすれ違うものは、狼男に小人、その中に時々人間も混じっている。そう、ここはおとぎの国。物語の登場人物と人間が共存する世界なのだ。
では、ヴィーリオは人間なのだろうか?いや、違う。黒いローブを羽織り、その手には大きな鎌が握られている。彼は死神だった。
今日は、彼の何億回目かの仕事の日。死期の近い者には特有の痣が現れる。その痣が現れた者の命を刈り取るのがヴィーリオの仕事だ。
(はぁー、めんどくせー)
彼はタメ息を吐きながら目的の場所まで向かう。めんどくさがりながらも彼が仕事に向かう理由、それは——
目的地までついた彼は行儀良く玄関でベルを鳴らす。出てきたのは女の獣人。ヴィーリオの姿を見た瞬間、なんとも言えない顔になる。受け止めたような諦めたような、はたまた怒っているような。彼にはその表情の意味がわからない。だって、「死」とは平等に訪れるものであろう。
女の獣人はヴィーリオを部屋の奥まで案内し、部屋を出た。中で眠っているのは痩せ細った男の獣人。彼の額には、あの特有の痣が現れている。彼が瞳を開いた時、ヴィーリオは「ほぅ」と唸った。彼の瞳はとても綺麗な青色をしている。
ヴィーリオは彼の手に触れ、鎌でその魂を体から引き剥がす。すると、空間には青いモヤが広がった。他の死神ならそのまま帰るところだが、ヴィーリオはそうしない。彼は杖を取り出し、呪文を唱え、そのモヤを結晶にした。結晶は青く輝き、まるで宝石のよう。
彼はその宝石を大切に胸ポケットにしまい、外に出た。
(今日はいい宝石ができた)
彼が仕事を続ける理由、それは死者から作られる宝石を集めるためだった。
彼のコレクションは彼の仕事の数と同じだけある。赤に青、ピンクに紫など宝石の色はさまざまであったが、それらは皆、死者の瞳と同じ色をしていた。見るたびにその死者のことを思い出すかと言うと、そうでもなく彼にとってこれはあくまでもコレクションでしかないのだ。
今日はもう一つ仕事があった。綺麗な屋敷の中に入る。出迎えてくれたのは人間の女で、メイドの服を着ているからきっと、メイドなのだろう。人間は群れて住む性質がある。賢い彼はそのことを知っていた。
「こちらでございます」
その人間はあくまで仕事のひとつだとも言うように彼を案内した。
大きなベッドに眠るのは、まだ若い少年。彼の腕に痣があることを確認すると、ヴィーリオは彼の瞳の色を確認しようとした。しかし、少年は熱にうなされているようでなかなか目を開かない。諦めて、手に触れようとした。その時、彼はようやくその瞳を露わにしてくれた。
彼の瞳は——
透明だった。
(これはきっと、いい色になる——)
そう確信して、ヴィーリオは彼の手を握った。少年も自らの手を見つめている。
しかし、魂が浮かび上がって来ない。
「なんでだよ!?」
ヴィーリオは叫んでしまう。少年はその様子に何かを確信した様子で口を開く。
「もしかして、殺せない?」
その一言に、ヴィーリオはカチンときてしまった。今度はさらに強く手を握る。
「僕、死んでないけど?」
少年は煽るように言葉を紡ぐ。彼はヴィーリオを揶揄うことを楽しんでいるみたいだ。
「明日、また来る」
ヴィーリオは違和感を感じなかったわけではない。しかし、彼には自信がなかったのだ。自分を信じきることが出来ないから、できなくても仕方が無いと思う。
彼らが交わした一番最初の会話はこれだった。この関係がどのくらいの長さになるか、それはヴィーリオ次第だろう。だって、死を決めるのは死神なのだから。




