雨天快晴ー1ー
アフリカ大陸 砂漠帯
「水、水を...」
彷徨う中、一人の浪人は熱砂を裸足で歩いている。太陽は白く輝き乾き切った大地に降り注ぐ。喉の渇きは干上がり、肌は乾燥してひび割れた肌から血が滴る。
「神よ...信仰を...御加護を...娘と妻に...」
倒れると同時に男は息は絶え絶えのまま、死の淵へと足を踏み入れかけた。その時、黒い影が男を包んだ。
『依代としては不十分だが、進化のためにも必要な糧としようか』
「あな...たは...」
『私か?まぁ、君の言う神とでも思え』
その言葉の終わりに彼は安堵した表情のまま、黒い、およそ神とは言えない化け物は男を飲み込んだのだ。
高校 屋上にて
「雄星、お前最近変だぞ?」
「ん?そうかな、なんかきもいか?俺?」
「なんつうのかな、隠し事してんだろ?なんか明るくなってるけど、空元気って程でもないけど人に言えないことでもあんのかな?って」
「なんじゃそりゃ」
図星である。流石は俺の親友、和真修也だ。小学生の時から俺と一緒にイタズラやら学校を抜け出して遊び倒しただけある。そして、奏音の話を唯一したのもこの男だけだ。だからこそ、コイツには俺の心が見透かされてるんだろう。
「俺には言えねぇことなのか?」
「言えないよ、てか隠してることないし」
「本当かよ。ま、そこまで言いたくないなら聞かないでやるよ」
屋上には心地のいい風が吹き抜いている。修也は持っていたスマホを軽く叩きながら愚痴をこぼす。
「学校つまんねえよ、勉強も運動もそんな楽しくねぇし。おっさんらはうるせえしさ」
「おい、ここでタバコ吸おうとすんな。俺の服にも匂い移るだろ」
「あー!また二人して屋上入ってる!きんしされてるのに!」
「遥香も入ってんじゃん。キョーハンだぞ」
「お、遥香ちゃんだ。ちーす」
「不良生徒たちめ」
屋上の扉を蹴り破り、遥香は意気揚々と俺たちを注意する。俺はタバコなんて物は吸わないし、悪い事をするつもりもない。偶に先生が楽しみにしてるアイスを相談室から取って食べたりするけど。
「てか雄星、遅刻増えたでしょ?早退も増えたし、私知らないからね、先生になんか言われても」
「別に、言われたっていいですよーだ」
「あ、ゆうせーい!て修也まで!」
屋上の階段の手すりを飛び越え、一発で廊下に飛び降りる。修也は鼻をほじりながら持っていた缶ジュースをゴミ箱に投げ捨てた。
「ま、困ったことがあったら相談しろよ。友達として缶ジュースぐらいなら奢ってやる」
「お前、自分の好きなやつしか買わないじゃん。自分も飲みたいから」
「へへ」
教室への帰り道、他クラスの修也とは別れて、教室に入ろうとしたその時。
『悪寒だな。近くに同類の気配を感じるぜ』
「あの時みたいな怪物だったら、情報取れないな」
一旦教室に入ったのち、スカーは静かに雄星の耳元に影を這わせ、周りには気づかれないように会話をする。
『一度外に出て見るか。今回は異獣型や動物系統度はなさそうだ』
「授業始まるって」
『んなことよりこっちが先だ』
授業が始まる前に、廊下に出ようとしたその時。窓ガラスが割れて、生徒達の悲鳴が木霊する。廊下に飛び出す生徒達、他の教室からも出ているあたり範囲は甚大なようだ。
「アレは...」
『めんどくさいタイプだな。ありゃ人型だ』
これまでのとは格が違う。溢れ出るオーラから強敵だということがひしひしと伝わる。会話はできそうな雰囲気だ。
「おい!アンタ俺の言葉がわかるか?」
「?なんだ、お前も同僚か。ちょうどいい、ここらの人間の魂をあらかた集めたい。手伝え」
「いや、俺の話を...」
瞬間、ガラスの剣が飛び込んでくる。咄嗟で避けたが、体が変化する前の俺なら完全に串刺しだったな。よく見ればその生命体は、ガラスを高速で回転させ、翼の形状を作り出し、飛んでいた。
「賛同しないならお前も殺す」
「なるほどね。人の話は聞かないタイプか?なら、力尽くでも聞いてもらうぞ...」
『そら、いくぞ』
影を纏う。生徒達がいなくなった教室の中で、俺はただ目の前の敵に集中する。影を這わせ、机を引っ張り奴に投げつける。
「そーれ!」
「つまらん」
ガラスの破片は机を抉り、木片が辺りに飛び散る。さらに影を伸ばし、机を全て引っ張って投げ飛ばす。全方位から迫る机をガラスを円状に回転させ、球体状に空間を抉った。辺りに木粉が飛び散り、視界は悪化していた。
「これは...」
「どこ見てんの?」
「!?」
アンノウンを殴り飛ばし、影を足に集中させ、さらに蹴り飛ばそうとした時、ガラスの球体はさらに巨大化し、教室の一部が吹き飛んだ。
「やば、助かったスカー」
『まだ慣れてねぇなお前。下手くそなんだよ力の使い方が』
「あ!?」
「なるほど...お前は寄生型か」
ガラスの剣の嵐が飛び交う。影を盾にし、ガラスを弾き飛ばし、腕を巨大化させ振り回した風圧で凪飛ばす。
「なんつー物量だよ」
『人型は能力と基礎的スペックが異次元だ。正直、俺とお前が協力しても勝てる確率は少ねえ』
「じゃあ!どうす!るんだっ!よっ!!」
ガラスの破片の嵐と、剣の嵐が吹き荒れる中を防ぎ続ける中、俺とスカーは相談する。正直、俺はスカーが嫌いだ。こいつの滲み出る性格の悪さと俺を利用しようとする感じが鼻に着くし話したくもない。しかし、このままではジリ貧でこっちが先に底がつく。
『他の人間を壁にしながら、奴を削るぞ。隙ができればそこから攻撃すればいい。そうすりゃ奴に勝てる』
「は!?」
『それが一番だろ。逃げ遅れてる奴もいる。そいつら使って俺らの戦況を好転させるぞ』
「お前...」
コイツ、本気で言ってる。コイツも結局は理解できない存在のアンノウンなんだな。
「断る」
『は?死ぬかもなんだぞ?綺麗事並べて勝てるわけじゃねぇだろ』
「お前のその考えは確かに合ってるのかもしれない。でも、人を殺す手札は絶対に許さない」
ガラスの破片が影を裂く感覚が全身に駆け巡る中、ある事に気づいた。これなら、奴を倒せる。
「おい、スカー。一つ策がある。ついて来れるか?」
『影だからピッタリくっつくしかねえだろ』
影を伸ばし、学校の中を移動しながら奴を誘う。ガラスを飛ばし続けるアンノウンは狭い廊下を抉り壊しながらついてくる。
「何を狙って...」
家庭科室の中に誘うと、影を伸ばし続け蜘蛛の巣のように張り巡らせる。そこにガラスが触れれば、影がアンノウンを捕縛する。
「ちぃ!くだらん真似を!」
「そうだ、そうやって教室を壊せ」
怒りに任せて奴が教室を破壊した瞬間、ホースからガスが噴き出る。更に、天井を突き抜けたその上から油や薬品が垂れ流れる。
「ガスと薬品まみれ、おまけにテメーは自分でガラスの球体を作って密閉空間を作ってんだから爆破の余波くらいのダメージは喰らうよな?」
「貴様...!」
「一応死ぬなよ?」
窓から出るのと同時にマッチ棒を擦り、火種を投げ込む。瞬間、反応したガスと薬品達は火花を鳴らして爆発する。
「やりすぎか?」
『いや、アレくらいで死ぬんなら情報も大して持ってねぇよ。こっからだ』
校舎から降りて、グラウンドを確認する。逃げ遅れていた生徒達も合流したらしく、今から全員で避難をする状況のようだ。
「よかった...みんな無事で」
『おい、来るぞ』
瞬間、黒煙の中から、火傷で半身が焼け焦げ、血走った目でこちらを見やるアンノウンが飛来する。ガラスには少量の薬品が付着しているが、高速回転して吹き払うだろう。
「貴様らぁ!俺の、私の邪魔をしやがってぇぇ?!?」
「うっせぇよ、髭面。頭は冷えたか?そろそろ名前とテメーが何者なのかぐらい教えろタコ」
舌打ちをしながら、アンノウンは体を癒しつつ答えた。
「我が名はベネチアン。王の復活のために魂を集める存在」
「王の復活?なんだよそれ」
「そのアンノウンから聞いていないのか?というか貴様ら同居しているのか?」
『王...懐かしい響きだな』
「貴様か...いったいお前は何者だ!?」
スカーは興味津々に、ニタニタといつもの薄気味の悪い嗤いをしながら、ベネチアンに近づいていく。
『俺のことを知らないのか?俺には記憶がなくてね、この姿に見覚えは本当にないのか?』
「ない。貴様のような矮小な寄生型など」
『そうかい、もういいや。てか、おめーも、元は寄生型だろ?進化してその姿になったらしいな。依代がいいのは羨ましいぜ』
「おい、スカーテメコノヤロウ」
ベネチアンは青筋をたてながら、また翼を展開し、空へと滑空する。振り返り様にこちらに睨みを聞かせ捨て台詞を吐いた。
「次に会ったときは私も本気で殺しに行く。楽しみにしてろ」
「ちょ、逃すか!」
次の瞬間、巨大なガラスの剣の大群がグラウンドの集団に向けられる。ベネチアンはひどく怒り狂ってるようで、何か気に触るようなことを言えばすぐに振り下ろしそうなまでに限界だった。
「置き土産だ。守ってみろ?ヒーロー」
「クソが!」
奴はすでに限界だったようだ。すぐさま影を伸ばし、なんとか集団の前に飛び出る。影を前方に集中させ、硬化と範囲を広げる事に集中する。ガラスの剣は砕けるのと一緒に破片が飛び散るため、できる限り弧を描く形で盾を広げる。嵐は止んだが、グラウンドは歩けば血の海になるほどにガラスの破片で覆われていた。
「逃げやがったか」
「なんだあの黒い奴?」
「あの怪物の仲間かもしんねえ」
「さっさとどっか行けよ!化け物!」
生徒達が騒ぎ始める。それもそのはず、いつもなら何気なく進んでいた日常が突然時を止めたように終わってしまったのだから。俺は影を伸ばし校舎の裏へと姿を消した。
耐えられなかった。助けた人々から糾弾されたのは。でも、それでも助けれたことが俺は嬉しかった。遠回りしてなんとか静かに集団の中に入り、修也の隣に駆け込んだ。
「あれ?雄星、お前今までどこいたんだよ」
「逸れちゃったみたいでさ!すごかったなあの黒い奴」
「あぁ、みんなあんなこと言ってるけど、俺は感謝してる」
「え?」
修也はひどく興奮して俺の方を掴み語った。
「だってあんなガラスのバケモンを追い払っただけじゃなくて、俺らも助けたんだぜ!?感謝しかねぇだろ?」
「...お前はホントいい奴だよな」
「あ?」
困惑する修也を投げ飛ばし、遥香が抱きついてきた。半ベソかいていて、鼻水は服につくわ、涙目になってるわでせっかくのメイクも顔も台無しだ。
「どこ行ってたのよ!ほんとーに心配したんだからね!!バカ!」
「分かったから、離れてよ遥香」
「は!?ち、違うんだよ雄星!これはその...」
「ほらハンカチ、せっかく美人なんだから涙は拭いとけよ」
そう言ってハンカチを渡す。修也から天然クソやろーと言われた気がするが、まぁそれはどうでもいい。この子を、修也を、みんなを守れてホントよかった。胸を撫で下ろし、俺は空を見上げた。
「チっ、まだこの体が馴染んでいないな」
ベネチアンは近くの廃工場で体を休めていた。次の標的は人の行き交う街中、そしてあの黒いアンノウン。
「必ず殺す。馴染んだその時、お前達の最後だ!」




