大魔王の転生
この物語はある男が波乱万丈な人生を歩む、少し不思議なストーリーです。初投稿ですので、暖かい目で見ていってください。
大魔王。
それはこの世界を掌握していた絶対的な存在。と同時にこの世界に飽き飽きとしていた存在だ。
俺は"異常"な魔族としてこの世に生まれ落ち、圧倒的な力を持って他の魔族を蹴散らしていった。
「な、なんなんだお前は」
「俺か?何者でもねえよ」
「そ、そんな訳がない。だってこの力は、将軍級だぞ!!」
「あ、そう興味無い。」
そして、俺はその魔族に一撃叩き込む。魔族の体は俺の拳に貫かれ大きな穴が腹に空いていた。
「まあ」
俺が何者か、か。
俺は灰になりかけている魔族に向かって言い放つ。
「強いて言えば、大魔王かな」
「なにを……言って……」
魔族はそこで完全に灰になっていった。
そう、俺は大魔王。
俺の圧倒的な力には本当の意味で誰も敵わなかった。いつしか、魔族の頂点として崇められ、敬われた。
だが、ある日事件が起きた。
この世界は大きくわけて3つの種族がいる。
天使族、魔物族、人類。
このうち天使と魔族がこの世界を二分割し、力で制圧していた。
魔族は人類と天使の両方を敵対視し、争っていた。
そして人類はその知恵を生かし、天使の味方をすることで力を持たずとも賢く生き残っている。
俺はこの世界のイメージをそう捉えていた。人類は知恵を持っていても力を持つことはできない。そういう存在だと。
そんな人類が『魔術』と言う新たな力を扱い始めた。
魔術、魔を討つ術。
ついに、人類も天使と魔族の両方と拮抗できるほどの力を手に入れた。
魔術という力を持った人類の快進撃は凄まじかった。
天使の力を借りずとも、持ち前の知恵と魔術を使うことで俺たち魔族を圧倒していった。
「はああ!」
女が手を上げて叫んだその瞬間、何も無いはずの手から氷が現れる。その氷は魔族たちを鋭く貫き、確実に一体一体倒していく。
女の扱う魔術は、風で吹き飛ばし、炎で焼き、地面を揺らす。それらの様々な魔術はいとも容易く魔族たちを翻弄していった。
魔族たちの上位存在の『将軍』と呼ばれる者たちでさえ彼女の魔術の前では無力と言えた。
女は、ついにこの俺にまで辿り着いた。
大きく広いホールの中に、その空間には不一致な二人が向かい合っていた。その1人は大魔王である俺。
そしてもう1人、俺の目の前にいる人間は人類の中でも最も強いと言われている人間。通称『勇者』。
「ようやく、会えましたね。大魔王」
「そうだな」
俺は目の前の女、今までであればひ弱に見えた人間に対して強く体が震えていた。
恐怖心からでは無い。この体の震えは武者震いからだ。
ようやく、ようやく俺と対等に戦える存在が現れたかもしれないのだ。興奮せずしてどうする。
「私たちの戦いに言葉は不要です。始めましょう」
「…ああ。くれぐれもガッカリさせてくれるなよ?」
足に力を込め、1歩踏み出す。それだけで俺の体は弾丸のようなスピードで飛んでいく。瞬間、ドゴォォンと言う地響きにも近い衝撃音が鳴り響く。それは俺の拳が勇者の体に直撃した音だった。
「ッハ。マジか」
「こんな程度、効きませんよ」
勇者の体は俺の拳をまともに受けたにもかかわらず、そこから1歩も動いていなかった。
勇者の周りにはすでに幾つもの魔法陣と呼ばれる模様が空中に浮かんでいた。それらは瞬時にいくつもの魔術を発動させ、俺に向かってとんでもないスピードで攻撃が放たれる。
「!」
だが、その魔術は俺の体に直撃したものの俺にダメージを与えることは全くなかった。
「さすがに大魔王ですね」
済ました顔で勇者は言った。
そこで俺は気になっていた事を言った。
「仲間を連れてこなくて良かったのか?」
「仲間なんて、私にとって邪魔なだけですので」
勇者がそう言い放ったと同時に俺は強烈な衝撃を感じる。俺は吹き飛ばされ、壁に激突する。
「ぐっ…」
「その程度ですか?大魔王」
勇者はさらにいくつもの魔法陣を展開させた。俺は回避行動をとるが追いつかず、その全ての攻撃が直撃する。
「ふう、このレベルの攻撃を連発させるのはさすがに疲れますね」
俺は座り込んでいた。
「ですがこの攻撃なら大魔王もひとたまりありませんか。ちょっと拍子抜けですがね」
「……逆にこの程度か?」
「…は?」
ドゴォォォン!!!と先程とは比べ物にならないほどの轟音が鳴り響いた。それは俺が"本気"で勇者を殴った音だった。
勇者の体はあまりの衝撃にとんでもないスピードで吹き飛んでいった。
「なあ、俺がどうして大魔王と呼ばれているか知っているか?」
俺は壁に激突して身動きが取れない勇者に向かって言い放つ。
「ごく単純なことだ。俺が強すぎた。それだけだ」
勇者は理解できないと言いたげな顔でこちらを睨みつけていた。そこには、恐怖と驚きが入り混じっていた。
「たとえ勇者であろうと俺には敵わない。次元が違うんだよ」
そこでついに勇者が口を開く。
「…あなたは何も知らない。人間の事など眼中に無い。だから、そんなことが言えるんです。あなただって私が何故、勇者と呼ばれているかなど知らない」
直後だった。勇者の姿が見えなくなる。
「……?どこに…」
「ここですよ」
至近距離で、瞬時に魔法陣が展開される。先程とは比べ物にならないほどの威力をもっていて俺にダメージを与える。
「ッハ!最高だな!まさか俺にダメージを与えるとは!」
俺は本気の力で足を踏み出し、音さえも置き去りにするスピードで勇者に拳を振るう。だが、それは当たることはなかった。
かわりに、勇者の攻撃が俺に直撃した。
「ぐっ……」
全く見えない。勇者は一体何をしたんだ?この俺が目で追えないほどのスピード?そんなことはありえない。
「まだ、分かっていないようですね」
勇者の声は後ろから聞こえていた。またしても、魔術が俺に当たる。その度にダメージを負う。
まずいこのままではジリ貧になる。見極めろ。恐らく何らかの魔術を使っている。
俺は勇者の動きのクセやどんな予備動作をしているか、完璧に見極めようとした。
そして、俺はある違和感を覚えた。と同時に勇者の姿も消える。
「…!」
俺は咄嗟の回避行動で魔術を避ける。
「……ふーん?たった三回使っただけで見抜くって流石ですね」
「…なるほど」
俺は一瞬だったが確実に感じ取った違和感を理解した。
こいつは動いていない。1歩も。
つまり、こいつは魔術を使って"瞬時"に移動した。
「そう、これこそ私の魔術の真骨頂です。名付けて瞬間移動魔術。さらに自分の体を強化してあなたのスピードに追いつけるようにするんですよ」
なんともまあ、卑怯な手だ。瞬間移動。つまり、光よりも早く移動できるわけだ。そんなの攻撃が当たるわけが無い。
「このまま、あなたにダメージを与え続ければわたしは勝てます」
勇者の姿は消え、やはり後ろから至近距離の魔法陣が発動される。何度も使ってきた手だが、俺に確実にあたる。なぜなら、俺が移動してもすぐ真後ろに瞬間移動するから。
「どうですか?そろそろきつくなってきたのではないですか?」
勇者の言う通り、何度も直撃していてダメージはかなり大きい。
「でもな」
勇者がまた消える。あのパターン。
だが、魔術は俺に当たることはなかった。
「な!?」
「俺は大魔王だぞ?」
勇者は俺に拘束されていた。俺は勇者の手を握り、もう片方の手で勇者の顔面を思いっきり殴り飛ばす。
「がっ!?」
弾丸のようなスピードで勇者は吹き飛ぶ。
「このくらいなら何回も見れば簡単に対処できる」
「バケモノ……」
「それはお互い様だろ」
それからは一進一退の攻防だった。
俺は勇者の瞬間移動を予測し、あらかじめ予測していれば簡単に一撃与えられる。だが、予測が外れれば俺には高威力の魔術が当たる。
まさしく、俺たちの実力は拮抗していた。どちらが勝ってもおかしくなかった。
だが巧妙に魔術を使う勇者に俺は1歩譲ってしまった。
それが勝敗を決した。
俺は勇者に負けた。つまり、戦闘不能の状態になってしまった。
「はあはあはあ……これで、終わり、です、大魔王」
「はは…」
乾いた笑いが出る。まさか、負けるなんて微塵も思っていなかった。
俺の体は少しずつ灰になっていく。
「これが、勇者の力か…」
「いいえ、私たち人類の力です。あなたは人類に負けたんです」
「そうか」
「ただ…」
勇者が俯きがちに口を開く。俺はどうしたんだと思い、そちらに向く。
「…最後まで抗わないんですか?」
「何を言ってるんだ?」
「私が相手をしてきた魔族たちは皆、完全な灰になるまで抗っていました。ですがあなたはまだ完全な灰になっていない」
「…そうだな」
「てっきり、大魔王も最後の最後まで抗い、何かしてくるんじゃないかと思ってました」
確かに、その手もあった。だが──
「もう勝負は確定している。今更抗ったところでなんになる?」
勇者はどこか納得の表情を浮かべていた。
「…そうですか」
「だけど」
俺はそこで言葉を切る。
「…なんですか?」
「……俺も魔術を扱ってみたかったよ」
勇者はこちらを向き、数秒固まったのち、口を開いた。
「…大魔王にも願望はあったんですね」
そう言った勇者の顔は微笑んでいた。そして、こう言った。
「…来世では扱えるといいですね」
「そうだな…」
俺は体の半分が灰になっていて、もうすぐ死ぬんだなと思った。
「勇者よ」
勇者は俺と視線を合わせた。
「お前との戦いは楽しかった。とても良かったよ」
「私も……楽しかったです」
俺は完全な灰になって、消えた。消える瞬間に俺は人間に生まれたかったと、そう、思っていた。
説明パートが多くてまだ本編に入れませんでした…。第2話では本編に入ると思います。楽しんでくれたなら幸いです。




