表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/23

23話『氷室政明vs夢川ユウカ 決着(前)』

 僕は息を絶えながらも、なんとか速度を保ったまま上り坂を──駆け上がっていた。


 駆け上がる。

 というには、随分遅いかもしれないが……。とにかく、僕はなんとか夢川に追い越されないように走り込んでいたのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ──っ」


 この坂。この上り坂ぎ、この勝負において正念場だろう。ここさえ越えてしまえば、後は緩やかなカーブ数本だけである。


 だから、精一杯を込めて走る。走る。登る。


「っ!」


 後ろから夢川の息遣いが聞こえてきた。真後ろだ。少しでも気を抜けば、一瞬で追い越されるようなほどの近距離──。


 坂を登り切るまで。

 残り、三十メートル。


 行ける!


「ぁは、っぁ!」


 今にも筋肉がはち切れて倒れてしまいそうである。だが僕は、こんなところじゃ止まらない。


 坂を登り切るまで。

 残り、二十メートル。


 僕の髪が坂の頂上から吹く向かい風によって舞い上がった。髪型はオールバックみたいな感じになっているだろう。


 僕は進む。


 残り、十メートル。


 ──このまま行けば、勝てるッ!


 この坂を登ることに関しては、完全に純粋な体力勝負だ。それは紛れもない事実。

 そして最後の最後に、ズル関係なく、ただの真剣勝負を持ってきたのは──それも紛れもない、僕の『計画』通り。


 微笑を浮かべ、息を吸い込む。

 この勝負、勝てる。


「最後の最後で純粋な体力勝負──貴方にしては中々プライドのあることするじゃない?」


 しかし、そんな。

 一筋縄でいけるわけがなかった。


「その勝負、乗らせてもらうわよ──ッ! そして、私が完膚なきまでに貴方に敗北を味合わせるわ」


 僕にとってほぼ最高速であった今のスピードを遥かに上回って、夢川は僕のことを追い越す。

 一瞬の出来事。

 まるで今から本気を出す、みたいな雰囲気だった。


 先ほどまで僕が戦っていた夢川は、此処にはいないみたいだ。


「っ!?」


 風の如く。

 こちらを追い越し、彼女は坂を駆け上がっていく。


 ───まずい。


 そこで、僕はようやく自分が危機に追い込まれたことを理解した。


「っなんでそんな体力が有り余ってんだよッ!!」


「別に、この程度じゃ疲れないわよ」


 圧倒的なスピードで進んでいく彼女に、なんとか僕は食らいついていく。のだが。

 やはり体力の差が大きかったようだ。


 坂を登り切る──つまり、ほぼ勝敗が決まる場所を抜けきった時点で。


 僕と夢川にある空間は、登る直前と比べて大きく開いていたのだ。

『負ける』。

 そんな言葉が、僕の脳裏をよぎる。


 ……くそっ!


「あとはカーブ数本だけ……それで、その先の橋を渡ればフィニッシュ。私の勝ちよ」


 颯爽と走る前方の少女は、そう勝利を宣言した。


 再び広がる並木道。

 日が暮れ始めているため、少し薄暗い。そして残されたコースは、たった少しの直前とコーナー二本のみ。


 勝ち筋は───。


 ない……無理……ではなくて。

 どこかにあるはずだ!



「どうする」



 僕は、とにかく全力で思考した。

 どうすれば、ここから立場を逆転することが出来る? 


 そんな簡単で、単純明快な問いに答えを見つけようとする。


 どうすれば、今から彼女を追い越せる?


 どうすれば、今から僕が勝利できる?


 どうすれば、今から希望を見出せる?


 そこまで考えて、そして放棄した。……やめだ。そんなのは僕の柄じゃなかった。深く考えるのは好きだが、深く考えすぎて迷宮に潜り込むのは大嫌いなのだ。


 だから、氷室政明は最も単純な解を導き出した。


 ──そう。


 ここから、"純粋な走る力"で彼女を追い越せば良いのだと。


「ッッッ!!」


 その瞬間。僕は残された体力の全てを出し切り、持ちうる生命エネルギー全てを使い切る勢いで加速した。

 もう頭脳戦なんて出来やしない。

 策なんてない。

 ただ僕が勝つ方法は、この方法しか残されていないだけだ。


 ……彼女を追い抜く。


 ただそれ一心だけを心に留めて、更に加速していく。


 もっと。いや、もっと───。


「っ!? なによ、中々速いじゃない!」


「褒めなくて結構だ! それよりも、早く負けを認めて減速しやがれ!」


「……ふん。そんな甘いことはしないわよ!」


 ここまで全力疾走するのは、約半年ぶりである。僕が極限までナルシストで問題児だった頃。その頃をふと想起させるような、この尋常じゃない疲れ方。

 多分これは、貝絵先生ぐらいしかしらない……。僕の元々あった、優等生にすら一矢報いることの出来る特技の一端。それこそが、この『脚の速さ』である。



 ──ああ、この感覚を思い出してきた。



 もう半年ほどマトモに走ってないため、体力は前よりも衰えているが、最大火力なら僕は夢川の速さに届くどころか……越すことが可能だろう。


「そのまま、追い抜いてやるよ!」


 夢川の背後を捉えた。

 同時に一つ目のカーブ目を曲がる。現状の速さならば、追い抜けるッ!


「捉えたッ!」


「なっ!?」


 続いてすぐに二つ目のカーブがやってくる。そこで、なんとか僕は夢川の隣まで追いつく事が出来たのだった。

 並走したまま、最後の直線──ゴール地点への橋へと続く道へと突入する。


 この直線は、大体五十メートルあるかないかぐらいだろう。


「───負けないわよッ!」


「こちらこそだッ!!!」


 僕と夢川は互いに全力を出し、持てる全ての力を尽くして地面を蹴り上げていく。


 隣の少女を一瞥してみれば、どうやら微かに僕の後ろにいたようだった。

 勝てる。

 僕のスピードの方が上だ。


 全速力で──そのまま、僕はゴールに向かって一直線に駆ける。


「僕の勝ちだッ!!!」


 しかし。


 ゴール手前、残り十メートル地点。

 今度は僕がそう宣言した、その刹那だった。先ほど彼女が走るのを妨害する時に投げ、逆にやり返されたスライムが──僕の脚へと滑り落ちたのだ。


 その先は言うまでもないだろう。

 スライムが変に脚へと絡まり、大地を踏み込んだつもりが緑色の粘液を踏み込んでしまい……。


 僕はその場で大きく転倒してしまうのだった。


「うあああああっ!?」


【お願い!】


面白い、続きが気になる! と思ったら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけると、モチベーションがとても上がって嬉しいのでよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ