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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
探索編
99/133

第99話 速報:今年のドラフト会議の目玉である佐藤健勇、ここに来て事務作業

 放課後、健勇(けんゆう)はいつも通り部活へ向かう。明日は秋季大会の日でもあり、いつもより意気込んでいる。自身が出場するわけではなかったが、後輩が野球というスポーツで切磋琢磨しあう姿が楽しみで仕方がなかったのだ。


現に誰よりも早くグラウンドへ向かっていることが何よりの証拠だった。バトミントンの羽の入った買い物かごを塔のように重ね運んでは、倉庫へ戻り、運んでは倉庫へと一人練習準備に徹する。そんな姿を野球部の監督は眺めていた。


 「気を付け、礼」


お願いします。ミーティングが終わり、それぞれ課せられた練習メニューをこなしにグラウンドへ移動する。健勇は春の新入生歓迎会で集めた大人数の部員を指導するため、共に移動しようとした瞬間、監督に名を呼ばれた。


「はい!」


お手本のようなはっきりとした声で返答するも、監督の表情は対極に位置していた。


「佐藤。お前は今日、もう帰れ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇ!!!!!!!!!?」


学校中に轟くと外に居た者たち全員から注目を浴びた。健勇はいつも大きな声を上げているが、今日ばかりはこれまでの比にはならないほど自身の驚きが衝撃を走らせた。


「何でですか!?」

「まぁそんな驚くな」

老いた監督は常に冷静に対応する。しかし、目の前に爆音を前にしていることから老人の耳は既に壊れているのかもしれない。


「明日に控えるとするなら、下級生の面倒とか雑用とかなんでもやりますよ!?」


「それがいかんのじゃ」


「え?」理解し難い返答に口が半開きとなる。

「何でも真剣に取り組むおぬしに皆慣れてきてしまったのだ。準備から片づけ、練習に取り組む姿勢など。最初こそはおぬしを参考に真似しとった」


監督は言葉を止めると健勇の巨体の隙間を縫うように指を指す。


「ここから練習風景を見てみぃ」

背後を振り向くと練習熱心なチームメイトによるいつも通りの練習風景が広がっていた。


「な、何が言いたいんですか?」

「阿呆!選球眼は良いのに何を見とるんじゃ!」

「す、すぃやせん!!」

「いいか?3年の教育係以外のバッティングネット前に立つ選手の顔をよう見ぃ」


指示された通りによく目を凝らしてみてみると身体の動きよりも口や表情が活発に動いていた。話すにしても笑顔を浮かべている者が多いことから練習と関係のないことを話しているとすぐに判断できる。


「これは…」


自身の想像していた光景と遥かに乖離していた現状に理解が及ばなかった。やはり本人の予想だにしていない出来事だったため、監督はため息をつく。


「気づいていなかったようじゃが、これが本来のいつも通りなんじゃよ。今日以外は佐藤を中心に練習に励んでいるが、このチームはあくまで『船堀(ふなぼり)高校野球部』。おぬしが去って行ったチームはどうなるか、もうわかるじゃろ」


答えに詰まる健勇は口を開くことを躊躇する。目線を落とすも、数秒が数分に感じる空気感に堪え切れない。認めたくは無いが、恐る恐る口を開いた。


「わかりました。今日()帰ります」

「いや、最低1週間。部活に顔を出すな」

「えぇ!?流石にそれは…」

「佐藤。一度の練習で164キロを放り、4打席連続ホームランが打てると思うか?」


自身の残した成績を引き合いに出され、何も言い返すことができなかった。今まで数え切れないほどの努力と鍛錬を積み、現れた結果だ。悔しいが意思を飲みこむ他はないようだった。


「…はい。1週間は休みます」


「許せ。今の若者たちには悔しさと有難みを知る経験が必要なんじゃ。これも成長の一環ということをわかっておくれ」


当たり前が当たり前ではない。そのことに気が付かなければ感謝を忘れ、人間は失敗の道を踏む恐れがある。両者は理解があるため、正しい選択を取るのだ。荷物を集め、監督に一礼をする。向かう先は帰路ではなく、空き教室へ向かっていく。


___________________________________


 「んちはぁーす」

挨拶をするも、返ってくる答えは修行部屋からの発泡音のみ。防音仕様になっているものの、これほど静かであれば聞こえてくるのも無理はなかった。


異様な空間に戸惑いながら奥へ向かう。鋼鉄の扉に備え付けられた窓を覗くと、見慣れたメンツと見慣れないフローリングと壁紙に困惑する。


それもその筈、健勇が最後にアジトに寄った日は夏休み前であり、甲子園の切符を掴むために奮闘していた夏休みには、優気(ゆうき)とスサノオの激しい修行によって床は大きく凹み、天井は穴が開いた。一騒動により、すべてにおいて頑丈になった修行部屋を見たことが無かったのだ。


しかし、スサノオなどの神の使者が一名もいないことが不思議だったが、発泡音が止んだため、扉を開いてみる。


「んちはぁーす」

「あれ?珍しい来客だな」


士純(しじゅん)の作り上げた『デジタルハンニョン試作3号機』を操作していたフィルセルは、訝る表情で健勇を見つめた。大きく礼をすると、銃をしまいながら怜真(れいま)璃久瑛(りくあ)が近づいて来る。


「随分早かったな」

「あぁ。ミーティングだけだったからな」

「どうしたんだ?部活クビになったか?」

「そんなところだ!」

「ふぁあぁあっ!?なんで!?」


驚きが大きく、語尾が自然に上がってしまう。奥で神器の習得に勤しむ優気と美奈(みな)は遅れながらこちらに気付き、四神(ししん)化を解いて向かってきた。


「健勇じゃん!部活はどうしたん?」

「クビになったんだってよ」

「ふぁあぁあっ!?なんで!?」

「リプレイかよ」

「絶対冗談でしょ…」

本辺(もとべ)の言う通りだ!落ち着け!語弊がある!」

「じゃあとりあえず全員休憩にするか」


___________________________________


 リビングのソファーにて、事の経緯を話すと一同は納得を示す。淡々と話す健勇は先程の落ち込みなど、場外ホームランさながら、遥か彼方へ飛んでいた。怜真は所属する和道部も活動が活発なことから長い休暇に興味を持っていた。


「じゃあこれから1週間は暇なのか?」

「そう!」小さく頷くと同時に笑みを浮かべる。

「いいなぁ。俺もそんな休暇が欲しいもんだ。来月の引退が待ち遠しいわ」

「あと少し頑張れよ!」


健勇はエールを送るつもりで怜真の肩を大きく二度叩くと「痛い」と二度返答する。餅つきのタイミングを縫うかのようなリズムも相まって場が和んだ。


「と、こ、ろ、で。甲子園史上最速投手であり、超大型野手でもある佐藤健勇選手はプロ球団のスカウトの方々からお話を伺っていると思われるのですが、ずばり、何球団くらいからお声を頂いているのでしょうか?」


「気持ち悪い聞き方ね」


「そこ!静かにしろ」


美奈の現実を突きつける言葉に指を指す。「そうだなぁ」と指を折りながら考える健勇を横に離れた席に座る優気と美奈は火花を散らすように睨み合った。


「ざっと9球団かな」


「『『9球団!?』』」


「おぉ!流石だな!!」


怜真、璃久瑛、美奈は驚嘆するも優気は尊敬の拍手で対応する。一人、異様な行動に目が付いてしまう優気は「いやいや」と手のひらを横へ向け否定した。


「だってさぁ、投げては最速164キロ。打っては甲子園大会打率7割越えの大物スラッガー。こんな漫画やらゲームの世界の成績残すやついたら取りたくなるだろ」


常にプロ野球を熟知している男からなる正論は説得力が違った。幅広い知識の中で判断された相対的の評価には納得せざるを得なかったのだ。


「だけど、俺の狙いは12球団からの指名だからな!」


「流石に大卒、社会人の即戦力欲しい球団もあるし、どうかなぁ…」


「それっていつ頃にわかるようなもんなの?」


「今月の下旬、確か『攻め下手の宿老』の放送日と一緒だったから、21日だよ」


「ふーん。私見よっかなー」


興味のない本意が駄々洩れ、優気は露骨に不機嫌な顔を浮かべた。ここまでくると隠す気が無いのではないかとも思えてしまう。


和野(わの)さんと三沢(みさわ)さんは見るって言ってたけどね」

「本当!?なら見ようっと!」

「お前ワザとやってんだろ」

「まるで、『小龍(こりゅう)の背に定員オーバー』だな」

「アンタ、ミーハーって言いたいんでしょ?」

「よくわかったな!少しは本辺とノリが合うらしいな」

「合わないわよっ!」


 五人の高校生のやり取りを離れて見ていたフィルセルはあることを思考していた。最初こそ、健勇のアンタッチャブルレコードや卓越した身体能力に驚きを感じていたものの、考えていたことはもっと現実的なことだった。


 「おーい交代だよ~。って、なんだか賑やかだね~」


二階から士純が降りてくると想像以上の人口密度と盛り上がりを前にした。誰か一人多い。察知し、周りを見渡すと日焼けした丸坊主頭の健勇が目に付いた。


「おぉ~久しぶりだね~」

「うっす!」

「甲子園見てたよ~すごいね!準優勝」

「いや、ベスト8です」

「あ、そっか~ところで、キムチ食べる?」


士純はポケットから小袋に入ったキムチを見せた。あまりにも流れるような手際の良さだったため、言葉に詰まる。


「いや、大丈夫です」

「本当?美味しいのにな~」


小袋を開けるや否や一口で丸吞みした。ポテトチップスを口に運ぶように、何の躊躇いもなくだ。これにはフィルセルを除いた一同は仰天してしまう。


「今日は部活休みなの?」

「そうです。これから1週間は絶対休まなきゃならないんですよ」

「えぇ!?そうなんだ~」


目を見開くも語感に力がなく、驚いている様子だと断言できない。士純の周りは驚くばかりであるというのに。


「フィルセル~猫の手ならぬプロスペクトの手も借りたいところだよ~」


「あぁ。それをずっと考えていた」


優気たちから遠く離れた席から健勇に向かって近づく。明らかに何か大切なことを伝えるような雰囲気となり、健勇は若干身構える。


「健勇。休みの1週間のうち、3日間。俺らの仕事手伝ってくれないか?」

「はいっ!よろしくお願いしやぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああっす!!」

「早いな!」


士純によるキムチ丸吞み芸の流れのように、受託までのやり取りがスムーズを極め、周りは混乱に包まれる。


「ちなみに仕事って何やるんですか?」


怜真が手伝うかのようにもっともらしい質問をするも、既にこの状況がおかしいことに誰も懸念を抱いていない。


「世界各地に現れて、害を及ぼしている改革派の創り出したモンスターの出所を探す作業だ。優気が1ヶ月前に襲われたり、お前たちの学校に現れたあのモンスターだ。もうわかっていると思うが、今維持派の神の使者は皆、モンスター退治に行っている」


健勇は周りを見渡し、神の使者が居ない事を改めて確認した。先ほどの修行部屋で確認できなかった理由が判明し、思わず息を吐くような反応が声になって漏れた。


「だが、ランダムに出没する奴らの出所が全く分からない。俺らも出没位置の情報整理と特定に加え、結界維持や武器製造なんかも取り組んでるものだから、中々根本的な問題が解決しないんだ。だから頼む!時間と力を貸してくれないか?」


健勇にとって、考える時間すら必要のないことだった。元より考え方は変わらない、変わるはずが無かったのだ。


「こちらこそ僕も協力させてください!お願いしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあっす!!」


「うっし!ありがとう!本当に助かるよ」


フィルセルはガッツポーズで喜びを表現し、士純はホッと肩の力が抜け、「よかった~」と胸に手を当て一言呟いた。


約一か月間。稀に姿を現す外国人四人衆は誰も彼も生気の無い顔つきをしていたこともあり、優気たちはその辛さが解放される喜びを間接的に喜んでいた。


また、維持派にとっても大きな影響になることに違いなく、改革派による野望の阻止に強く繋がることだろう。


「ここでの健勇は正直に力強いな!」


「りっくんの言う通り!お世辞とかでもなく、これは大分デカいな」


「不本意な人生なんて、絶対に嫌だろ?本人も、その家族も」


「…あぁ、そうだな」

唐突に発せられた良い言葉によって優気は思わずしんみりしてしまう。申し訳ないが、健勇のキャラクター性からは考えられず、ギャップに驚かされたと言った表現が正しかった。


「で、改革派って何だっけ?」

野球のことで常に脳内の八割は埋まっていることから、健勇がもちろん覚えているはずがなかった。


「と、とりあえずそれも後で教えるから2階に来てくれ。話はそれからだ」

「あっと、今学校から来ているんで、玄関から入らないと」

「そっか、じゃあこの後俺が案内するよ」

「恩に着るぞ優気!」


荷物を持った二人は窓から空き教室の出入口に出る。


 他の三人は士純が指導を担当する狙撃練習が始まるも、自身が制作した『デジタルハンニョン試作第3号』が傷付く姿に我慢できず、この日は狙撃という狙撃が出来なかったのだった。


続きが気になる方は是非評価や感想等、よろしくお願いいたします!m(__)m

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