第20話 怪しき影
中間テスト前日、優気はテスト対策の勉強、というよりかはスサノオに課せられた神力強化に取り組んでおり、現在もチューチューダンベルを熱心に上げていた。
必死にダンベルを持ち上げるその姿をスサノオは落ち着きのないイヤイヤ期の子供が初めてのおもちゃを楽しむように、日の丸の入った扇をひらひらと広げながら大きな声援を送っている。当初は日本舞踊を踊りながら声援を送る予定が、自身で何が正解かどんなスピードで踊ればよいのか分からず、最終的に超スピードで暴れ狂っていた。
「じゅ~うはぁっち!、じゅ~うきゅ」
「自分の歳超えたぞ!!あとちょい、頑張れ!!」
「に~じゅ~うぅ!!」
ダンベルを下ろし終え、その場に倒れこむ。あまりの達成感に大きな声で歓喜を上げた。先程まで広げていた扇をその場に置き、スサノオはそれを共に喜ぶために胴上げを行い、優気は何度も宙を舞った。
「お前ら声がでかい!!デカすぎる!!2階で他の奴も大事な仕事してるから!!」あまりの騒音に二階からジャンジャンが降りてきてクレームを叩き込む。
「いやー申し訳ありません。なにせチューチューダンベル20回を休みなしできたもので。いやー本当にすみません」後に続いて、ごめんごめんとスサノオは謝るが、いつもの如く反省の色はなく、ジャンジャンはため息をついた。
「んじゃあ~前から目標も達成したことだし、明日から3日間テストがあるってことも聞いたからな。今日から3日間休みで、今日は解散にするか」
「えぇ!まだ15分しか経ってないですよ??」
「勉強は学生の本業だからな。オレもそこまで酷じゃねぇーよ」
スサノオの優しさに感動し、涙して感謝の意を述べる。驚くほど感謝の度合いが高く、おもわず「オレってそこまでスパルタ野郎だと思われてたのか…」と声を漏らした。
「だけど、家でできる神力全力解放練習は忘れずちゃんとやるんだぞ」
「はぁいっ!!」とても元気いい返事で帰宅の準備をし始めた。
「じゃあ、今日はこれで。次は3日後ですね」
帰宅準備をし終えた優気は空き教室とこのアジトを繋ぐ窓の前に来て、スサノオとジャンジャンの方向振り返った。
「おう!テスト頑張ってな!」
「成績に響くからな。今日はしっかり最後の詰めとして頑張るんだぞ」
テスト前最後の別れになるだけなのに、二人が何故か受験当日に玄関前で見送る保護者のようなポジションに感じるのは受験生の意識があるからだろうか。
「お2人ともありがとうございます。テスト頑張ります!」
別れの挨拶を交わして優気はこの部屋を出た。近くのソファーにスサノオがふわっと席に座り、ジャンジャンも腰を下ろす。
「くぅ~、これまた暇になるぞ~」と脱力をあらわにしたところで、そういえば、と何かを思い出した様子でジャンジャンが口を開いた。
「5日前くらいから優気の地区の学校に身長の高い外国人が現れるらしい」
「外国人なんてみんな背高いもんだろ。ウォックなんて2メートルくらいあっし、フィルセルもそんなとこだろ」
「確かにそうだな。やっぱり日本は欧米と離れた島国で、自国の民族意識が潜在的にあるだろう。政府の手厚い保障によって外国人移民が増加しているが、まだ珍しい者扱いされるのも納得できる」
話しながらガサゴソとポケットを漁っていたことが気になり、スサノオは上体を起こして話を真面目に聞き始める。ジャンジャンが重要な話をするときは大抵回りくどい話し方から口火が切られるため、ちゃんと聞いておかないと後で怒られるのが面倒という理由があったからだ。
何年もの付き合いとなるが、スサノオの性格的にその話し方は未だに気味が悪く、きっぱりと問題を提起する話し方に変えてほしいと未だに思っている。ジャンジャンが取り出した物は縦に細長いカッターのような機械で、ボタンを押すと左右上下に大きくなり、タブレット端末に変化した。中央の画面に、先程話していた身長の高い外国人の写真が映し出されていた。
「だが、この写真を見るとただの外国人じゃなさそうだ」
映し出された男は白と金色の狭間のような色と対照な黒色が混ざり合った髪色だった。確かに一目置かれる存在ではあるが二人が注目するのはそこではなかった。
「画面越しでも伝わってくる神力。ってか、変わった感じだからこそ分かる神力だな」
「私も最初はわからなかったよ。だけど、アダムから『よく近辺の小中学校、並びに高校と大学の監視をしてほしい』とのことだったからな。また何らかの糸口で情報を掴んだんだろう」
「危険な中よう働くねぇ。すげぇなぁ」
『アダム』という人物に関心と尊敬を示す傍ら、この者の詳細が明かされていなかったため、まだ情報があまり落ちていないと察する。これでは行動の先手を取ることができないため、少し躊躇してしまうところが普通だが、スサノオに普通という言葉はない。
「で、どうしろってんだ。首取っか?」
「いや、それは最終手段だ。基本は戦闘体制で様子見ってとこだな。まず、こいつの目的が解らないだろ?それを知ることが最優先。恐らくだが、狙いは四神の力を奪うことだろうな」
今後の展望と仮説をジャンジャンは建て始め、スサノオは熱心に聞きこむ。
「様々な学校を訪れるということは児童及び学生か教員に用があるということ。それが裏付けだな」
「オレらが漕ぎつけたあの日に神力感じ取ったんだろうな。あの時は神力遮断の結界を張ってなかった」
「可能性はそれしかないな。このままだと総当たりでこいつは優気の高校に来て、何らかの行動を起こす。なんなら、こいつが訪れてないこの地区の学校はあと10校程度。下手したら明日にでもこいつは優気の元へやってくる」
「そこで、オレが迎撃ね。りょーかい、りょーか~い」
鋭い考察能力と、情報収集能力、そして具体的な対策の展開をほんの五分ほどで片付ける。これでもとても早い判断だが、戦いの場では時間など気にしていられない。それを経験している二人だからこそ体現できるやり取りだった。
「というか、お前の奥さんはいつになったら調査から戻ってくるんだ。私の似非結界じゃ近づいたらすぐバレるだろうし、迎撃となれば結界の維持時間も短くなってしまうからな」
「こないだ一瞬こっち来たけど尻尾掴みに調査に戻ったから、あと2、3か月くらいだろうな。だからもうちょっとだけ踏ん張ってくれ」
「ったく。こっちだって大半適当にこなせるからといって専門外のことはキツイのは変わりないんだ。本業をさせろ、本業を」
スサノオは「本当にわりぃ~」と苦笑交じりで謝罪のジェスチャーをした。
何でもこなせるオールマイティーな者にだって限界がある。実際にジャンジャンが激務に追われていることは事実だ。そのことにスサノオは心苦しくなるとともに、そろそろ散り散りに離れたメンバーを呼び戻し、さらなる人手が欲しいと心の中で求めていた。
「まぁそんなとこで。そんなじゃ、オレは刀でも振ってくるわ」
反動を付けて体を起き上がらせると同時に空中で3,4回転ほどしながらその場を立ち上がった。
「私も情報収集作業に戻るか。くれぐれも相手を殺すんじゃないんぞ」
りょーか~い、と気の抜けた返事でいつもの修行部屋に移動し、ジャンジャンは二階に再び戻って仕事の続きを始めた。
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