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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第1章 少女は開拓士を志す
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第8話 本物の条件

 クオンが来てから修行をつけてもらうこと7日目。

 精霊術の「身体強化」と「身体弱化」を覚え、森の探索後に鬼ごっこをすることが定番になり、私もクオンの追跡から徐々に逃れるようになってきた。

 身体強化を使って全力で逃げて、そこから身体弱化を使用して自然に紛れながら息を潜め、時には移動の痕跡を消したり、時には罠を仕掛けたりして逃げられる時間増えてきた。

 だというのに、


「全然っ勝てない……!」

「はっ、今日はそこそこ頑張ったな」


 残り1分を切ってからのクオンの追跡がかわしきれない。

 いや、考えようによっては初日の10秒で捕まっていた頃を考えれば格段に進歩しているはずなのだが、そこからが果てしなく遠く感じる。

 逃げ切れる日が本当に来るのか疑問だ……。


「おい、そのへなちょこの踏み込みは何だ!?」

「うわっ!」

「もっと勢いよく剣を振り下ろせ! 気合いだ気合い!!」

「うりゃぁぁぁぁあああ!!」

「死ぬ気でかかってこい!」

「死ねえええぇぇぇ──────────!!」

「殺す気でとは言ってねーよ!?」


 剣術の修行は基本的に素振りとかをやらせず、ひたすらクオンとの打ち合いをしている。正確には、私が一方的に剣を振るってクオンが受けるだけだ。

 ナイフや斧は扱ったことはあるが剣はズブの素人の私だ。

 なのに、クオンは懇切丁寧に教えるではなく、剣を持たせてからずっと剣を好きに振るわせ、完全にダメな感じの剣を振るったら容赦なく打ち落としてくる。

 森の探索と鬼ごっこで足と精神がクタクタの状態になった上に、剣の修行で手の平はボロボロとなり、剣の打ち合いで腕が痺れて立ち上がる気力もなくなる。

 満身創痍とはこのことだ。無事なところが一つもない。


「───っし、今日はここまでだ」

「ぜーはーぜーはー、あ、ありがとう、ございました……!」


 息も絶え絶えで立っているのもやっとだが礼は欠かさない。

 お父さんからも「クオン殿に厄介になっているのだから一切の甘えは許さん」と言われているので、無礼な真似はできない。

 ……ところで、お父さんとクオンは一体いつの間に仲良くなったんだ?


「おい、アリカ」

「なーに師匠?」


 ぐったりと地面の上に横たわっている私にクオンが問いかけた。


「薄々わかってんだろうが、俺がお前の面倒を見られる日は残り少ない」

「……うん。そんな気はしてた」


 村の周囲の森や山は広大だ。

 とはいえ、これだけの日数があればめぼしいの範囲の探索はできる。

 終わりが近いのは気づいていた。


「ねぇ、師匠。開拓士について教えて!」

「開拓士についてか?」

「うん。修行のことばっかでちゃんと聞いたことなかったから」

「そうだったか?」

「そうだよ!」

「まぁ、別にいいぞ」


 ドサっと腰を落としてクオンは空を見上げた。

 さて何から話したものやと呟いた後に語り始める。


「最初は開拓士のなり方からだな」


 私が知らなかった開拓士について一から教えてもらった。

 開拓士というのは、どうやら大きな都にある本部とやらで開拓士になるための学校に入って、試験に合格したらなれるものだそうだ。

 学校というものに行ったことがない私は、そこがどういう場所なのかうまく想像できなかった。近い年代の子供が大勢いることだけはわかった。

 そこで、私と同じように精霊術の使い方を学んだり、それ以外にも野外で活動するための方法とか、調査するために必要な勉強とか色々なことを学ぶのだと言う。


「……ねぇ、もしかして師匠が鬼ごっこで私を見つけるのって」

「気づいたか。俺もお前と同じように隠れたり追いかけたりしてたんだよ」


 なるほど。勝てないわけだ。

 クオンは昔に私と同じように修行をしていて、私がやってきたことをすでにためし尽くしているのだから。それでも、負けっぱなしはむかつくのでクオンがいる間に一矢報いたいと思う。


「開拓士になってからは色々な場所に行ったな」


 未開の土地を開拓する者だから開拓士。

 人が足を踏み入ったことのない未開拓領域に行くのが仕事だ。

 新しく人が住めそうな土地を探すこともそうだが、それ以外にも意味はあるのだと言う。人が食べられる希少な野菜や果実の種を手に入れたり、薬になりそうなものを探索したり、新種の獣や虫を見つけることも開拓士の仕事だそうだ。

 話を聞けば聞くほど開拓士というのは幅広い役割を持っている。

 私にはできそうにないなと口からこぼすと。


「確かに開拓士は幅広い役割があるが、一人で全部できるわけじゃない。色んなことができる奴らが集まって、色んなことをやっていくんだ」


 そうなんだと納得した。

 クオンもまた色んなことの一つができる人の一人なのだろう。


「じゃあ、何で師匠はこの村に来たの?」

「あー、今は世界を見て回っている最中でな。この村に来たのは偶然だ。……まさか、こんな長居することになるとは思わんかったがな」

「えー長居したっていいじゃん。もっと私に修行つけてよ」

「はっ、俺はやることあって忙しいんだよ。おめーの世話ばっか見てるわけいかねーんだよ」

「ぶぅー」


 引き留め作戦は失敗に終わった。成功するとも思ってなかったが。

 話を変えるようにクオンには開拓士としてどんなところへ行ったのか聞いた。思い出深いところとか、どんなすっごい場所があったのか興味が惹かれたからだ。


「今まで行った中だと《霊峰エベルマータ》の頂上の景色は思い出深かったな。一面が雲海に囲われて圧倒されたのは今でもよく思い出す」

「うんかいって何?」

「そうか。この辺は海はなかったな。ざっくり言えば、でかい山の頂上まで行くと雲が下に見えるんだ。それであたり一面が雲しかない景色を雲海と言うんだが──悪いな。あの景色を語る言葉をこれ以上知らん」

「へぇ〜」


 改めてクオンがこんな風に語る顔を見たことがなかった。

 口元が少し笑っていて懐かしそうにしている。

 いつもは面倒臭そうにする仏頂面しかみていなかったから新鮮だ。


「開拓士ってすごいんだね」

「お、何だ。少しは興味が出てきたのか?」

「うーん。興味はあるけどさぁ」


 元々、開拓士というよりクオンの強さに惹かれて弟子になった私である。

 ぶっちゃけ開拓士が何なのかわかっていない。

 それでもクオンが楽しそうに語っているところを見ると、興味の一つや二つ出てくる。

 しかし、それはそれだ。


「私はこの村が好きだからさ」

「知ってんよ」

「イリスもまだ小さいし守ってあげたい」

「あぁ」

「うん、開拓士になって村から出ていけないよ!」

「──はっ、お前はそれでいいんだよ」


 私はこの村が好きだ。家族が好きだ。妹が大好きだ。

 外に出て、開拓士になって色んなところに行ってみたいとも思う。

 けど、大事なものがある場所から出て行きたくなんてない。

 それが私の答えだ。


「おい、アリカ。自分(てめー)のやりたいことに体を張れるやつは本物だ」

「うん」

「偽物なんかになんじゃねーぞ?」

「あったり前だい!」


 私は私のやりたいことをやっていると思う。

 怒られることも沢山あるけれど、それだけは間違いないと断言できる。

 クオンが村にいるのは残り少ない日々を大切にしたい。

 素直にそう思った。


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