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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第1章 少女は開拓士を志す
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第13話 絶望の炎

 約束通り開拓士クオンさんは姉を助け出してくれた。

 幸いにも姉は軽い怪我こそしていたものの、大きな怪我はどこにもなく、姉もクオンさんも無事に帰ってくるという約束を守ってくれた。

 二人の姿を見かけた時、私は嬉しくてたくさん泣いてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 その夜は姉と一緒のお布団で寝て、二人で今日あったことについてお喋りしていた。私は怖かったのに、姉はむしろ「クオンがすごくってね!」と灰色猪を倒したことについて詳しく教えてくれた。

 私はその場にいなかったので凄さがよくわからなかったけど、目の当たりにした姉は興奮していてクオンさんに弟子入りを頼んだほどだった。お父さんに怒られたけれど、多分姉はきっと諦めない。一度決めたことは何としてもやろうとするのは妹の私が一番知っている。

 案の定、姉は次の日弟子入りを頼みこみ弟子になった。

 弟子入りになること自体は不思議ではなかったが、お父さんが反対するのではないかと思っていたら全然反対することがなかったのが不思議だった。姉に厳しいお父さんに関しては珍しいことであった。

 でも、弟子入りして嬉しい姉の姿を見れて私も嬉しかった。


 ……ごめんなさい。本当は嘘です。


 姉はクオンさんと一緒に森の調査に出かけるようになり、私は一人お留守番をすることになった。

 お父さんは社でお勤めがあるし、お母さんは家にいるけれど家事で色々と忙しくしている。姉と一緒でないと森へ入ってはいけないと言われているし、今は森の様子がおかしいので絶対に入ってはいけないと村中の人に通達された。

 いつも一緒にいた姉がいなくて寂しいというのが本音だ。

 それでも、お昼まではお家の手伝いをがんばり、村の中でなら遊んでもいいと言われたので、近所の子供達と午後は遊ぶことにした。

 姉は男の子に混じって遊ぶけれど、私は同い年ぐらいの女の子と遊ぶことが多い。

 小さな村なので新しく来たクオンさんについてみんな興味津々で、いっぱい質問された。

「どんな人なの?」「怖くない?」「なんか格好いいね!」「アリカは何してるの?」とか本当に沢山質問された。口下手な私はあわあわ言いながら答えたが、結局どれもよくわかんないというものだったので、途中からみんな飽きて遊ぶ方に切り替えたので内心ほっとした。


 日が落ちる前に姉とクオンさんは帰ってきた。

 姉はクオンさんに修行をつけてもらってかなりお疲れのようだった。今日あったことをお喋りしたかったけど我慢しないと。代わりに姉はどんな修行をしていたか教えてくれて、何でも「せーれーじゅつ」というのを使うためにがんばっているのだと言う。

 やる気があるのはいいけど、灰色猪であんな危険な目に遭ったのに、姉はそんなことを忘れたかのように目をキラキラさせていた。危ないことをしてほしくないので私はダメだと言ったけど全然聞いてもらえなかった……。


 それから数日間、私の日々は変わり映えがなかった。

 お手伝いをして、友達と遊んで、姉を待つ。

 ただ徐々に姉と会えない時間が増えたことで寂しさが募った。

 御飯時には一緒にいるけれど、いつも一緒にいたのにいないことで、ふとした時に「おねえちゃん」と口に出してしまい、それが余計に辛かった。

 我慢しないといけないのはわかっているけれど、わがままを言いたくなった。

 朝練をしている姉に遊んでほしいと言うと、姉は笑って約束してくれた。

 どうやらクオンさんとの修行ももうすぐ終わりらしい。

 難しい話は私にはわからないけれど、また姉と遊べるのが嬉しくてその日が待ち遠しくなった。


 そして──悲劇が村を襲った。


 子供たちの遊び場になっている村の広場に向かう途中のことだった。

 大人たちの悲鳴が聞こえて嫌な予感がした。

 まるで灰色猪に襲われた時のような不安が胸によぎり、恐る恐る遠目から周囲を窺った。

 ありえない光景に目が奪われた。

 森の奥にしかいないような肉食の獣たちが村を襲っていた。

 獣たちは飢えているのか腹の底から威嚇するように鳴き、肉などが置いてある食料庫に群がる。何頭どころの話じゃない。何十頭もの獣たちが群れをなして襲ってくる様子は、この世の最後かとも思うぐらい絶望的に見えた。


「なに、これ……?」


 逃げないと死ぬ。本能的にそう悟った。

 灰色猪に襲われたおかげか、あの時のように頭が真っ白にならずに済んだ。

 あまりにも現実離れした光景であっても、頭のどこかは冷静になれた。


「にげないと……!」


 姉と約束したのだ。全部終わったら遊ぶと。

 だから、逃げないとダメだ。

 村に災害があった時はお父さんは社に行くよう言われている。

 でも、この場所からだとお社に行くためには獣たちのいる場所を通らなければならない。であれば、家に戻った方が安全──のはずだ。

 息を押し殺しながら元来た道を戻る。

 心臓がバクバクしすぎて、鼓動の音が聞こえるんじゃないかとさえ思う。

 額に汗をかいているのに手先が冷え切って寒い。

 いつもすぐに着くはずの家路が遥か遠くに感じる。

 家に帰ればきっと安全だ。

 家に帰れば姉が帰ってきてくれる。

 絶対に大丈夫。

 そう思っていたはずなのに。



 ──絶望がそこに()た。



 ゆらゆらと揺れる炎のようなナニカ(、、、)がいた。

 人なのか。獣なのか。悪魔なのか。

 そのどれでもあり、そのどれとも似つかない形をしている。

 美しいのか、醜いのかすらもわからない。

 わからなくて──瞳から勝手に涙が溢れた。

 村を襲った獣の群れなんかより、その何か一体だけの方が恐ろしかった。

 恐怖のあまりぺたんと腰が抜けて座った。

 ……あ、私はここで死ぬんだ。

 本能で死を悟ってしまった。 

 ごめんなさい。おねえちゃん。

 心の中で謝った。

 遊ぶ約束をしたのに果たせずに死ぬことを。

 そして、何かは私に向かって手と思われるものを振り下ろした。

 瞬間、



「私の妹に何してんだああああぁぁぁぁ────────!!!!」



 私の赤い太陽が颯爽と現れた。

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