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第58話 元魔王軍対策隊隊長 ラシャプ

「ここがフルクの街かー」


馬車に揺られ続けること約2日、俺たちはフルクの街に着いた。フルクの街は人口はおよそ1万人ほど、街としては十分大きいだろう。ここからさらに西に行けば港町に着く。そこから西の大陸に出航するのだ。

しかし、この街でやらなければならないことがあるのだ。


「俺はすぐにラシャプの所に行こうと思うけどみんなはどうする?」


「僕はそれに着いて行くよ。というか、案内しないと」


プシケは笑顔で答える。どうやら育った街に久しぶり戻って来れて嬉しいようだ。

あれ? プシケって西の大陸出身だよな? ここで孤児として育ったってどういうことだ?

まあいいや。今聞くことじゃないだろう。


「わたしも付いていきます。見てみたいですし」


イリスは落ち着いた様子で答える。ふむ。とりあえず三人は行くって感じだな。


「他には?」


「私は……この辺りの店を見る……」


ガイアは静かに答えた。その様子を見たテュケーも、少し考えてから、ガイアと一緒にこの街を散策することにしたそうだ。


「テスラさんはどうします?」


「そうねぇ。私は音ゲーでもしてるわ。終わったら呼んでほしいな」


「わかりました」


俺はテスラさんに軽く返事を返すと、街の中心部を見る。そこにはラクトの街には及ばないが巨大なタワーがそびえ立っていた。やはり黒光りしていて不思議な気分にさせる。


「じゃあ行くか」


「そうですね」


「付いてきてね」


プシケは大通りの方を指差す。俺たちはテュケーたちに別れを告げると、プシケの指差す方向へ歩いて行く。建物はラクトの街と近しく、十分に発展していた。

しばらく歩くと、1つの教会のような建物にたどり着いた。庭では子どもたちがはしゃぎまわっている。

その中にいた1人の初老の男がこちらを見つけると、左手で抱えていた子どもを下に下ろすとゆっくりと歩いてくる。


「……プシケか!?」


「そうだよ、ラシャ爺」


「爺さん呼ばわりするのはやめいと言っておるだろう」


その男は笑って返す。その様子を見ていた子どもたちも駆け寄ってくる。


「あ、プシケねぇちゃんだ」

「久しぶりだね」

「遊びに来たのー?」


次々と声をあげてプシケに抱きつく。プシケはにっこりと笑って、一人一人に挨拶をしていた。

子どもたちはひとしきり騒ぐと、勉強の時間なのか、一度に部屋の中に入ってしまった。

その男はそれを見届けると、質問をしてくる。


「しかし……どうしたんじゃ? 1年間は帰って来れないとか言ってた気がするんじゃが。それにその後ろの2人は?」


「後ろのは僕のパーティメンバーだよ。それで聞きたいことがあってきたの」


「聞きたいこと?」


「魔王軍幹部のことだよ。ラシャ爺、詳しいんでしょ?」


その言葉にラシャプは顔を曇らせる。しかし、すぐに顔を明るくすると、その質問に回答する前にこちらに向かって挨拶をしてくれた。


「この街の孤児院の院長をしておる、ラシャプと申す。よろしくたのむよ」


礼儀正しく挨拶をしたので、俺たちもそのような挨拶をして、握手しようと右手を差し出す。

ラシャプは、少し困ったように左手を出してきたので

、俺は少し疑問に思いながら、左手を差し出した。


「なかなか強そうじゃのう」


ラシャプが言う。しかし、プシケはそんなことよりも早く幹部のことを聞きたいのだろう。そわそわしているのがよくわかった。


「あの。魔王軍幹部について聞きにきたんですけど……」


俺がそう告げると、少し残念そうな顔をして手招きした。それに従うまま、院長室のようなところに通される。


「適当に座ってくれよ」


そう言って、俺たちを椅子の上に座らせる。その部屋を見渡すと、様々な賞状や、トロフィ、それに剣や鎧などが飾ってあった。


「魔王軍幹部か……。わしが詳しく話せるのは2人くらいじゃがな」


ラシャプは紅茶か何かを作りながら、後ろを向いたまま呟く。カチャカチャと、スプーンとカップとが当たる音が静かな部屋に響く。


「それでも十分です」


「ふむ……ならば、ナルトスから」


ナルトス。魔王軍幹部で唯一討伐された存在で、既にこの世にはいない。


「ナルトスは西の大陸で暴れておった幹部じゃ。今の幹部たちとは比べ物にならないくらい凶暴なやつじゃった」


「へぇ。でも、討伐されたんですよね」


「うむ。わしらと西の大陸の奴らが協力してなんとかな」


「え? ラシャプさんが、討伐したんですか!?」


ラシャプは頷くと、言葉を続ける。


「ナルトスは確かに暴れておって危険な存在じゃったが、実力は大したことがなかった。得意な魔法は土魔法じゃったから、攻撃手段が少なかったのもあるんじゃろうな」


ラシャプはそこまで話すと、左手だけでお盆の上にコップを乗せて、俺たちの前に置く。そして軽く手を出して、勧めてくる。


「それでどうなったんですか?」


「ん? ああ、ナルトスは簡単に討伐することができたんじゃ。わしらの隊も5人しかいなかったが、全員がトップクラスの実力者だったからの。これが5年前の出来事じゃ」


「へぇ。つまり、そこで幹部を1人討伐したから満足して引退しているのですか?」


ラシャプは顔を軽く下に向けると首を横に振る。


「そのあとじゃ。あの事件が起きたのは」


ラシャプは持っていたティーカップを置くと左手で顎を擦りながら話し続ける。


「わしらが王都に帰るとすぐに別の連絡が入ったんじゃ。ある森で、1人の迷子の少女がいると」


迷子? それがどうかしたのだろうか。わざわざそんなラシャプに伝える必要なんてないんじゃないのか?


「わしも君が今思っていることを思ったよ。休みたかったしの。ただ、様子を見に行った兵士が全然帰ってこないらしいのじゃ」


「なるほど、それで見に行かせたのですね? 他の兵士に行かせなかったのはどうしてですか?」


イリスが、隣で質問をする。


「もう、既に行ったらしかった。始めは1人、次に10人、それから100人。そして1万人と。どんどん増えていった。しかし誰1人帰ってこない」


ここで俺は気づく。これは間違いなくあれのことだ。俺がそれを言おうとした時に、プシケがはさむ。


「それが、ヘラトの事件だね」


ラシャプは笑顔で頷く。プシケが気づいたことが嬉しいのだろう。


「そうじゃ。わしがその森に着くと、森に入る前から鼻につく嫌な臭いがした。不審に思いながら中に入ると、真っ赤に染まった森が現れた。地面を見ると、おびただしい数の兵士が倒れていたんじゃ」


ラシャプの顔が暗くなっていく。


「その奥には1人の少女が立っていた。7、8才であった。じゃがわしらはすぐにそいつが魔王軍幹部だと気づいた。わしらの部隊はゆっくりとその少女に近づいた。すると、突然1人の仲間が悲鳴をあげたんじゃ見ると、それを切ったのは別の仲間じゃった」


「ここでわしはある違和感に気づいた。倒れている兵士の剣が、血で汚れているのに、あの少女には全く怪我がなかったのじゃよ。さらに、その兵士たちの鎧は剣で切りつけられたような傷が付いていた。少女は幻覚か何かを使えたんじゃろう。

気づくとわし1人になっておった。何故だかわしには幻惑魔法をかけてこなかったらしい。じゃが魔法なしでもその少女は、強かった。ボロボロになって、いつ死ぬかわからない状態になったんじゃ」


ラシャプの声に力が籠る。


「じゃが! わしは最後の力を振り絞って渾身の一撃を加えたんじゃ。その剣筋は少女の頬から、胸のあたりを通って腰まで入れることができたと思う。じゃが、相手もそれを受ける前に、一撃をわしの右手に入れた」


そう言いながらラシャプは右腕の服をたくし上げる。そこから現れたのは、おもちゃのような腕だった。


「わしは右腕を失ってその場に倒れこんだ。しかし、相手も致命傷を受けたのか、わしにとどめを刺さずに何処かへ行ってしまった 」


「その後、わしは魔王軍幹部で、さらに奴がエルフだとわかっても、少女を斬ったという1つの罪悪感に押しつぶされそうになって、この孤児院を開いたのじゃよ」


そう語るラシャプの声は震えていた。

少女の姿をした魔王軍幹部か。確かに今までの相手に比べるとやりにくそうだなあ。西の大陸の魔王軍幹部が、そいつじゃなければいいけど……。


その後、子供達と遊んだらして夕食まで、ご馳走になってその孤児院を後にした。



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