第31話 景品
「ねえ。ガイアの所に行かない?」
音ゲー大会に登録してから次の日、適当なクエストを完了しての帰りのことだった。テュケーが唐突に誘ってきた。
今回受けたクエストはいくつかの薬草を取ってくるだけだったので、俺とテュケーだけで受けていたのだが、思ったより早く終わったのだ。日はまだ高く昇っている。この後もまだまだ時間が使えそうだった。
「まあいいけど。俺がついていく必要があるか?」
「ちょっと説得して欲しいのよ」
「説得? それってどういう意味だ?」
「まあ、それは着いてからでもいいでしょう? 説得って言ってもそんなに大層なものじゃないから」
そう言ってテュケーは歩く足を早める。薬草を取りに来たのもそんなに遠くの森ではないので、すぐに帰ることができる。
特に意味もないような会話を少ししているだけで、街に帰れる距離だ。
街に着くと、俺たちはすぐに、ガイアの元へ向かった。クエスト達成の報告をしてからにしようかと思ったが、どうせなら先にガイアの元へ行き、帰るのとついでに報告することにした。
「おかえり……」
ドアを開けるといつも通りガイアは椅子に座っていた。前回見た時と変わらなく、平然としている。そのエメラルドの瞳からは何か不思議な感覚を醸し出している。
「今日はどうしたんですか……?」
ガイアは軽く首を傾げながら、テュケーに質問をしている。そういえば今まで、ガイアに事前に知らせているような感じだったのに、今回は唐突に決めたって気がするな。一体何が……?
「お願い! 音ゲー大会に出て欲しいの」
「音ゲー……大会? それって再来週にあるとかいう……」
「そう。それ! どう? 出てみない?」
「でません」
即答。ほとんどいや、全くと言っていいほど間隔を開けずに答えた。そのあまりの回答の早さに、テュケーも驚いている。しかし、テュケーもすぐに気を取り直して再び挑戦している。
「お願い! そう言わずに」
「デメリットが……多すぎます」
そう言って、ガイアは煩わしそうに机の上に手を乗せる。頑なに行かないという意思表示をしてくる。するとテュケーが目配せをして来た。ああ、なるほどこれの説得をしてくれってことか。正直俺がやっても意味ないとは思うんだが。
「なあ。なんでそんなに出たくないんだ? 参加費無料だぞ」
「だから……デメリットが多すぎる」
うん。意味がわからない。一体ガイアは何を持ってデメリットと言ってるのかがわからない。だが向こうにもそれだけの意志があるらしく、説得するのは難しいだろう。諦めて、テュケーに声をかけようとしたよか、テュケーが一歩前に出た。
「今回の大会の景品は間隔魔法の強化魔法。もしかしたらあれの可能性があるわ」
アレ? アレって一体なんのことだ? 俺にはまったく意味がわからなかったが、その言葉を聞いたガイアが体をビクッと震わせた。
「……様子を見て、決めます」
そう言ってガイアは黙り込んでしまった。一体なんのことやらさっぱりわからなかったし、正直俺がくる必要があったのかまったくわからなかったが、一歩前に進んだように見えた。
だが、俺の中に二つの疑問が生まれた。一つ目はガイアがあれほどまでにいうデメリットとは何か。そしてもう一つはテュケーが言ったアレという言葉。アレが何を指すのかは見当もつかない。
「帰るわよ」
「え!? ガイアを誘うんじゃなかったのか? まだ微妙な返事だぞ」
するとテュケーは落ち着いた顔で答える。
「多分ガイアは来るわよ。だから心配はいらないわ」
一体どこからそんな自信が出ているのかがわからなかったが、実際ガイアの気持ちが一番わかるのはテュケーだろうから、俺はテュケーに従いガイアの元を後にした。
俺たちが、クエスト完了を示すためにタワーの地下に降りると、朝見た時よりクエストの数が増えていた。大抵は、昼頃になるとほとんどのクエストは取られていて、なかなか簡単なクエストは残っていなかったりするのだが、何故だか簡単なクエストすら何件も残っていた。
「どういうことだ?」
俺がテュケーに尋ねると、テュケーは少し考えてから口に出す。
「多分だけど、みんな音ゲーをやってるんじゃないかしら? 二週間後に音ゲー大会があるのなら、二週間くらいクエストに行かずに、練習した方がいいでしょう」
ふーん。なるほどな。まあ確かに二週間くらいならどうにでもなるくらいのお金は持ってるだろうな。大会出るんだったら勝ちたいもんな。
「でも、そんなに必死になることがあるのか?」
「そりゃあ。将来が決まるかもしれないもの。ここで優勝なんかすれば、現在のランクが低くても騎士団に声がかかるかもしれない。もっと言えば王都の騎士団にも選ばれる可能性があるのよ」
ああ、なるほどな。将来が決まるんだったらそりゃ必死だわな。
そんなことを思いながらいつもより人もいないその酒場で、少し早めに夕食をとって音ゲーをしに行った。
音ゲーの場はなるほど確かにいつもよりも人がかなり多く感じられた。特に、筒音マスターは凄い人気だ。幸いにも俺たちはプレイする筐体を見つけることができたが、少し遅れてきた人は筒音マスターをプレイすることが出来ないでいた。この世界では、譲り合いなどはしないようだ。というのも元々ある音ゲーの数が尋常じゃないので、そんなことをしなくてもいいのだが。
それに大体は諦めて帰るみたいだ。
大会で課題曲なんかがどうなるかわからないので、今回はランクを上げるのではなく、しっかりとマイナーな曲まで練習していきたいと思う。幸い100チューンくらいは残っているので、しっかりとプレイ出来るだろう。
そしてやはり日が回るまでプレイしたのだった。




