第24話 魔王軍幹部 ラムス 3
……あれ? なんでラムスはここまで追ってこないんだ? ラムスは湖の前でこちらをただ眺めているばかり。さらに攻撃を加えようとする様子もない。
俺はゆっくりと上体を起こす。テュケーとプシケはもう少しで岸に上がるところで、ラムスに気づき立ち止まる。ラムスとテュケーが向かいあう。
俺は急いでそちらへ向かう。しかし、岸のギリギリにいるテュケーやプシケに攻撃する様子が見られない。
……もしかして、こいつ。
俺はラムスから少し離れたところに上陸する。すると、ラムスもこちらに気づいたのか、首を鳴らした様子でこちらに向かって走り出した。俺は冷静にその攻撃をかわすと、1つ魔法を唱えた。
『ピュアクアメモリーズ』
そんなに難易度の高くない曲。威力もほとんどないような、単純な水魔法。普通ならこんな魔法どうってことないのだが。
しかしラムスは無理に体勢を変えながら、その攻撃をかわした。それはあまりにも無駄な行動だった。
やっぱりか。奴は水に弱いようだな。それが分かると俺は大急ぎでテュケーの元へ向かう。ラムスはかわした時に軽くこけて、体勢を整えるのに時間がかかっている。今のうちだ。
テュケーとプシケの元に着くと俺は二人を再び湖の中につれて入った。
「水に弱い? ああ。そうね。確かにあれだけ炎魔法に耐性があるんだったら水魔法はかなり苦手かもね」
テュケーに話すとそんなことを言ってくる。
「ああ。そういえばプシケの炎魔法を難なく受け止めてたな」
「ほんとびっくりだよ。まさかあのまま攻撃されるとは思わなかったからね」
軽く服が焦げて落ちてしまっているプシケが言う。焼け落ち切らなかったのは、直ぐに水の中に落ちたからだろう。
「むしろ、吸収くらいまでしてたわね。まあ、そうなってくると苦手な属性はとことん苦手だと思うわ」
「ってことは水魔法中心で攻めていけばいいのか。どっちか強力なの使えるか?」
すると二人は黙って顔を見合わせると、同時に首を横に振った。
「え?誰も使えないのか?」
「水魔法は汎用性が低いからね。あんまり無理にフルコン狙いにいくような曲じゃないんだよ」
まじか……。俺もあいつを倒すくらいの水魔法は流石にないな……。
「でも確かイリスなら水魔法が使えるはずだね。虹色の魔曲の一曲だったか気がする」
「ほう。ってことはイリスを起こしてくればいいってことだな」
解決策が全くなくなったわけではなかった。イリスの魔法ならば威力は申し分ないし、打ち込めば仕留めれる、少なくとも弱らせることはできるだろう。ただ問題はーー
「イリスでもその魔曲の一発分しか打てないんでしょう?」
テュケーがため息交じりで、言ってくる。そうなのだ。イリスは虹色の魔曲以外の魔法はほとんど使えない。打てるのは間違いなく一発だろう。その一発にかけなければならない。そのために確実に打ち込める状況を作ってやらなければならない。
「あの速さのやつをか……」
気が遠くなる。そんなことができれば正直他の方法のほうが楽な気もする。だかそんな方法も思いつかず、
この方法でいくしかない。まずはイリスを起こすところからだ。
「誰かがイリスを起こしにいく。その間にラムスを足止めしなければならない。どうする?」
「普通に考えると1番早いテュケーがいくのが得策だよね。僕は間違いなくこっちでラムスの足止めをするけど、どっちがいくの?」
「俺はテュケーとプシケでラムスを止めてもらえばありがたいと思う。どうせここにいても俺ができることはないし、プシケで守って、いざという時にテュケーがど、どうにかしてもらえれば……」
「どうにかって……。まあいいわ。それでいきましょう。ちゃんと起こしてくるのよ」
俺は無言で、テュケーにうなずくと、三人でゆっくりと岸に向かって上がる。
「ちっ。やっと来たか。どうせもう一発使っちまったんだ。もう出し惜しみする必要はねぇ。全員まとめて丸焦げだぁぁぁ!!」
ラムスが叫ぶとラムスの周りに数十個の火の玉が現れる。先ほどの三倍以上の火の玉がラムスの周りを漂い始める。
「はぁぁぁぁ!!」
そのいくらかをこちらに向かって飛ばしてくる。するとテュケーが飛び出したかと思うと、剣を抜き、そのまま火の玉を切り裂いた。火の玉は急に形を崩し消えて無くなる。
「早く行って!」
「お、おう!」
俺は急いでイリスの元へ向かった。後ろから何かがぶつかり合う音が聞こえる。プシケが盾で守ってくれているのだろう。……あれ? そう言えばあの防御を上げる魔法ってどれくらい続くのだろう? 急いで戻らないとまずいかもしれない。
イリスは変わらず木の根元で気絶している。俺はゆっくりとイリスの体を揺らした。しかし、起きる気配がない。
くそ。どうやって起こす……。魔法か? 何かいい魔法は……。ここ最近プレイした曲を思い出す。
あ、そう言えばあんまり気にせずにあの曲をプレイしたな。威力もないしちょうどいいだろう。
俺はイリスの肩に手を当てると、
『せいでんき☆ぱにっく』
そう呟いた。微量の電気がイリスに流れる。イリスは体を一瞬ビクつかせると、ゆっくりと目を開けた。
「え……? カヅキさん?」
イリスは目をこすりながら腰を上げる。
「ラムスを倒すにはイリスの力が必要だ! 事情は戻りながら話す! ついて来てくれ」
「え? え? は、はい」
イリスは戸惑いながらも立ち上がると、俺の後についてくる。俺はその途中でイリスに事情を話した。
「なるほど。わかりました。では急いで戻りましょう」
俺たちは走りながらテュケーたちの戻る。幸い、未だに何かがぶつかり合うような音がする。まだしっかりとプシケとテュケーが粘ってくれている様子だった。
「テュケー! プシケ!」
俺が二人の名前を叫ぶと、こちらに気づいてチラッと見る。ラムスの周りを漂う火の玉は数を減らし、既に両手の指だけで数えられるほどになっていた。
ラムスとぶつかっているテュケーは1つ、自身の体に電気を纏わせる魔法を使って相手を怯ませると、こちらに駆け寄った。見ると二人ともある程度傷ついているようだった。
「よし。揃ったな。絶対ここで仕留めるぞ!」
そう言って俺たちは、ラムスとにらみつけるよつに対峙した。




