第20話 騎士団長
「どうするんですか? その腕じゃ音ゲーもできないでしょう」
イリスが俺の部屋で頭を抱えながら、言ってくる。取り敢えず、幹部が出たことはあまり周りに知られたくないらしいため、何時もの地下の店ではなく、俺の部屋を選んだ。
「俺としてはラムスって奴を倒して、この腕を治療したい」
その言葉にイリスが驚いたように声をあげる。
「え!? 魔王軍幹部ですよ!? まともに戦えるわけないじゃないですか!」
それに対して、プシケはなんだか少し乗り気のようだ。既に、装備の準備をしているらしい。どうやら俺がそう言うのを待っていたようだ。
「僕としては魔王軍幹部を討伐しに行けるのならば、なんでもいいんだよ」
その言葉には何やら見えない不気味な雰囲気が漂っていた。まるで飲み込まれるかのような。俺もなんだか危険な感じがして、イリスと話す。
「実際のところ、魔王軍幹部っていってもたかが知れてるんじゃないのか? 不意打ちで腕を折られたけど、警戒して戦えばある程度いけるんじゃないか?」
「それでも今まで討伐されてないんですよ! 私たちのようなまだパーティも組み立て、それどころかつい最近masterに挑戦できるようになったばかりなんですよ。危険すぎます!」
俺とイリスがそれぞれ自分の意見を言いあって、なかなか終わらない状態になった時、部屋のドアがノックされた。
「入るわよ」
声の主はテュケーだ。俺はイリスが後ろで何かを言っている中、ドアが開く方向に歩いて行った。
ドアが開くとテュケー、ともう一人背の高い一人の男が立っていた。
「この人は?」
俺がそう尋ねると、その男は手を差し出してきた。俺の腕を見て、おっと、と言うと左手に変えた。
俺としては握手するのはかなり抵抗があったが、テュケーと一緒にいたので信頼できると思い左手を差し出した。
「俺はこの街で騎士団長を務めているものだ。どうぞよろしく」
そう言うと団長は、入っていいかと指でサインしたので、中に入れることにした。
騎士団長は部屋をぐるりと見渡すと、俺の方を向いた。そして真剣な顔持ちで、
「君が、ラムスに出会ったとかいう冒険者か」
そう言って、イリスに出された椅子に座ると、深く深呼吸をした。俺もなんだか緊張してくる。
「率直に言おう。君たち、ラムスを倒そうと考えていないか?」
「ええ。もちろんです」
すると、騎士団長の表情がみるみる変わっていく。
「やめろ。君たちでどうにかできる相手ではない」
冷たく言い放つ。なんだか、その言い方に少し腹が立ってこちらも言い返そうとする。すると、その時イリスが口を挟む。
「どうしてですか? 私達でも何とかなると思うのですが」
え!? てっきり、いや100パーセント騎士団長の意見に賛同すると思っていたイリスが真っ向から反対した。さっきまで明らかに討伐に行かないとか言ってたのに。一体どういう風の吹き回しだと思っていると、イリスが続けた。
「これでも私たちはアクアポイズムを倒しているんですよ! ちょっと甘く身過ぎてませんか?」
ふむ。なるほど。パーティとして周りから言われるのは腹が立ったのか。意外にイリスって感情的だな。
しかしそのイリスの言葉には顔色一つ変えず騎士団長は冷たく言い放つ。
「調子に乗るなよ。舐めているのは貴様らの方だ。そもそもアクアポイズムを討伐したと言ったな。俺なら一人で討伐できる。それでも、ラムスを倒せてないんだぞ」
明らかに苛立ちを見せながら、強く重く言葉を放ってくる。そして、俺たちが沈黙すると、軽く溜息をついて、言葉を続けた。
「二、三日すれば王都の方から応援がやってくる。それまでおとなしくするんだな。」
そう言いながら立ち去ろうとする。しかし、どうしてもラムスを倒したい。あいつを倒さなければならない気がする。いや、それ以上になぜかこの騎士団長をラムスに合わせてはいけない気がする。そもそも、なぜかこの騎士団長、不思議な感じがして何だか信用できない。一言で言うと気持ちが悪い。気がつくと俺は立ち上がっていた。
「それでも俺たちは討伐しに行く。騎士団が止めようが知ったことではない」
そう言うと、騎士団長はそうか、と言ってドアに手をかけながら懐から何か包みを取り出すと、どちらに向かって投げつけてきた。
「その中に、記憶の移動と言うアイテムが入っている。使うと設定した場所までワープできるものだ。かなり高価なものだが、アクアポイズムの討伐に対する臨時報酬ということだ。どうやって使うべきかは考えろ」
そう言うと騎士団長はドアを閉めて、こちらに聞こえるように足音を立てながら去っていった。
窓を見ると、空が徐々に明るくなっていっている。どうやら一晩寝ずに過ごしたようだった。
「まあ。あの人も君たちを思って言っていることだから、あまり気を悪くしないでね」
テュケーはそう言いながら俺たちを慰める。てかテュケーってあの騎士団長と知り合いなのか。意外な人脈があるもんだな。
「いや。気を悪くはしてないさ。それにあの人、このタイミングでこのアイテムを渡してくるなんて、間違いないな」
そのセリフにプシケも頷く。
「あの人、俺の唯の憎悪を晴らすためだけの討伐を暗黙しようとしているんだな」
そう言って記憶の移動を取り出す。見ると使用回数3回と書かれていた。どうやら3回までならワープできるようだった。
「よし。じゃあ今日はもう朝になってしまったけど、今のうちに寝て、夜の間に準備をして明日の朝出発することにするか」
そう言って俺たちは今日のパーティを解散して、それぞれ休むことにした。
明日。仮に倒せなくても、俺の気持ちが収まるくらいまでは戦いたい。音ゲーができなくなる恨みは大きいんだ。そんなことを思いながらベットの上に寝転んでいると、いつの間にか眠ってしまっていた。




