第四十九話 生意気
各小隊が完全に散らばった後、陣形を組みながら走るエルザ隊は、すぐにシャドウと遭遇した。
が、アオイの表情は怪訝そうだった。
「……前方にシャドウが三体、でしょうか? 暗くて、数がよくわかりません……」
「合ってるぜ、朽葉」
不安そうに言うアオイに、レンは正しいと同意する。
現在深夜、そのため光源は雲一つない星空に浮かぶ月光のみ。
よって、常人であれば前に大きな影があるとしか見えないが、アオイとレンはその影のシルエットがシャドウのモノだと視認できていた。
だが、それは辛うじてだった。
「……マジで、完全に夜に紛れてるぜアイツら。草壁教官の言ってた通りみてぇだな……」
―――シャドウはこの時間帯こそ、本来の力が発揮される。
―――黒い体を活かして宵闇に紛れて襲撃し、加えて昼間より数段強くなる。
レンは、深夜訓練開始前のイッキの言葉を思い出す。
そして、こう思った。
「シャドウはシャドウだ……数段強くなろうが、大して変わりやしねぇ―――!!」
黒剣を抜き放ち、勇ましく吠えるレン。
その声は、静かな夜空の下で響き渡った。
「そーだね、雑魚は雑魚っ★ でも、エルちゃんが始末しちゃうねっ★」
が、この小隊のリーダ―で先頭を走るエルザは急加速して、単独で三体のシャドウを倒そうとする。
背中から黒大剣をゆっくりと抜き、≪魔装≫を発動。
黒大剣の紅い光が光源の仲間入りを果たし、その光と月光によって、シルエットだったシャドウの姿がハッキリと映し出された。
人間とは思えないほど隆起した筋肉。
眼は無く、手足には強靭な鉤爪。
大きく裂けた口から覗くのは、白く大きな牙。
それが、シャドウの特徴。
しかし、この三体のシャドウは、今までのシャドウと明らかに異なっていた。
黒い皮膚をはち切れんばかりに筋肉が発達しているが、このシャドウはさらにそれに凄みがかかって血管が浮き上がっていた。
息遣いも獰猛さが増して、そのせいか息苦しそうだった。
「なんか筋肉倍増してるし、呼吸がキショくなって―――じゃなくて、おいっ! テメェ、リーダ―だろーが! なんで陣形乱してんだよ!?」
レンの怒号を背中から浴びると、エルザは眼前の三体のシャドウに肉薄する。
低い姿勢から黒大剣で薙ぎ切ろうとするエルザは、シャドウを見上げて八重歯を覗かせた満面の笑み。
「―――!」
だが、ハッとしたことで、その笑みは消えた。
瞬間、
「「「ガアアアアアアアアアア!!」」」
三体のシャドウは一斉に巨拳を振り上げ、エルザを潰しにかかる。
エルザは三つの巨拳が振り下ろされる前に跳躍し、真ん中のシャドウの振り上げた巨拳に乗る。
そして、それを踏み台にさらに跳躍した。
満月とエルザが重なる。
逆光によって、エルザの姿が影に隠れた。
レン、アオイ、サクラは唖然と、巨拳を上げたまま三体のシャドウも振り返って見ていた。
逆光に隠された少女は、首だけを振り向かせる。
「奥にいっぱいシャドウがいるみたいだから、レンっち、アオイっち、サクラっち、キミたちだけで、そのシャドーぶっ殺しといてっ★ ミライっちはエルちゃんと大量ぶっ殺し―――あれっ?」
空中で、エルザは不思議そうに目を丸くする。
この三体のシャドウの奥に大量のシャドウがいることを感知したエルザは、そのシャドウたちをレンたちに任せて、奥で待ち受けている大量のシャドウを、ミライと共に殲滅しようとした。
……が、エルザの視界にミライの姿がなかった。
一体どこだろうと探すと、視界の端に一瞬、何かが走ったような気がした。
―――一筋の、白い光のようなモノが。
とある予感が脳裏に過るより先に、とある気配を感知し、弾けるようにエルザは再び前を見た。
「―――さきにあそんでるねぇ」
ミライが、いた。
紅光を放つ白刀を左手に持ち、風のように疾走するミライが。
仲間だけではなく、バケモノすらエルザに目を奪われた一瞬。
たったそれだけのうちに、エルザと同じくシャドウの気配を感じ取ったミライは、眼前のシャドウの横を通り抜けていた。
そう、空中でエルザは理解した。
だから着地して口角を上げると、
「―――ミライっちのクセに、生意気っ★」
そんな言葉と共に、着地した瞬間にエルザは即座にミライの後を追いかけた。
そうして、ミライとエルザは奥で待ち受けているシャドウの大群に突っ込んでいく。
敵を殲滅しに向かう二人を見て、
「だから陣形乱すなっつってるし! 指示投げやりすぎんだろ!?」
「颯爽と走っていく姿……ステキです、ミライくん! ……じゃなくて! レンさん、色々と文句を言いたい気持ちはわかりますが、それより今は……!」
「シャドウ倒す、優先」
「あぁ、わかってる」
黒剣を構えて、レンは≪魔装≫を発動する。
続いて、アオイは黒槍を、サクラは黒弓を構えて、≪魔装≫を発動した。
シャドウはこちらへ振り向き、三人の人間と三体のバケモノが対峙した。
「―――さっさとコイツらぶっ倒して、アイツらに文句言いにいくぞッ!!」
「はい!」
「………(こくり)」




