第二話 三人の友達+赤の他人?
2046年3月下旬、東京都第一区。
その中心にある巨大建造物―――大聖堂の前に、黒い制服を着た少年少女がいた。
「やっと来たぜ、幻滅師になる時が……!」
「はい……いよいよ、ですね」
精悍な顔立ちに、茶色の短髪をした活発そうな少年―――佐伯レン。
夜空を切り取ったような、腰まで届く艶やかな黒髪を持つ大和撫子のような少女―――朽葉アオイ。
そびえ立つ大聖堂を見上げ、二人とも強いやる気と覚悟で満ち溢れていた。
なぜかというと、今日は幻滅師になるために『天影軍』入隊試験を受ける日だからだ。
しかし、レンの顔はワクワクと楽しそうに口角がつり上がっているが、アオイはどうも沈んだ表情に変わった。
「ですが、いざこうして来てみると緊張しますね。……ああっ、本当にワタシなんかが、幻滅師になれるんでしょうか……!」
「―――だいじょうぶじゃなぁい?」
不安になるアオイに、そんな軽い調子の声がかけられた。
その声の主はまさに、純白の無垢。
雲のような真っ白な髪に、澄み切った青空を閉じ込めたような双眸。
その瞳はパッチリと大きく、純粋無垢で一切の濁りが無い。
神秘的で、中性的で、妖しげな魅力を放つその美少年の名は―――星無ミライ。
三人の中で、唯一黒い制服の中にパーカーを着ていた。
「ミライくん……」
「アオイちゃんならヘぇキだよぉ。だってぇ。ぼくたちだからねぇ」
「―――! はい! ワタシたちならきっと、幻滅師になれます!」
一切の不安が消え去ったパーッと明るい笑顔で、アオイは胸の前で拳を握ると、
「―――そーだよっ★ エルちゃんたちの友情パワーなら、幻滅師なるなんて楽勝楽勝っ★」
「あぁ、オレたちなら余裕で――――――って」
聞き覚えのないハッチャけた少女の声に、レンは振り返った。
「誰だよ、お前!?」
赤い制服を着た見知らぬ人物の登場に、レンは思わず叫んで指を差した。
陽光が反射してきらめく金髪を、赤いシュシュで左側頭部にまとめてサイドテール。
猫のようにつり上がった真紅の瞳。
幼さと大人っぽさが入り混じった、西洋人形を彷彿とさせる美しい顔立ち。
突然、まるでマブダチのように入り込んだその少女は、八重歯を覗かせて笑うと、
「誰だって酷いよっ★ 空宮エルザこと、エルちゃんだよっ★」
キャピーン、とかわいらしくも謎ポーズした。
「だから、知らねぇって言ってんだろ!」
レンの怒りは、さらに膨れ上がる。
先ほどよりも、目と歯の鋭さが段違い。
目の前の金髪少女は、百発百中で全員が美少女と答えるほどの美貌。
間違いなく顔面偏差値は他と一線を画している。
が、たとえそんな美少女であっても、ふざけたヤツだと知れば、容赦なく怒りをぶつけることができるのがレンという男の特徴だ。
まあ、エルザと同じく顔面偏差値が高すぎるミライやアオイと常日頃から一緒にいるため、美形慣れしている。
そもそもエルザの顔の良さは通用せず、ツッコまれるのが定めだった。
お察しの通り、レンの特技はツッコミである。
「あははぁ。スゴくおこってるねぇ。レン」
「そ、そうですね……」
頭の後ろに手を組んで呑気に笑っているミライに、アオイは苦笑いを返すことしかできない。
すると、エルザは自分を指差してアオイに質問した。
「ねーねー、キミは知ってるよねっ? エルちゃんのことっ★」
「わ、ワタシですか? お、思い出してみます!」
ギュッと目を瞑って、アオイは懸命に記憶を辿ってエルザのことを思い出す。
しばらくすると、アオイは瞼を開けるが申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「……すみません。エルザさんのこと、思い出せませんでした……。どこで会ったか、場所を教えていただけませんか? そうすれば、思い出せるかもしれません」
「ぼくはちゃんとしってるけどねぇ」
「お前なぁ……こんなヤバいヤツに何合わせてんだよ。今、悪ノリするとこじゃねぇぞ」
ったく、ともう一度レンは呆れて腕組みをする。
それを不思議そうに見て、ミライは小首を傾げた。
「ホントだよぉ?」
「そーだよっ★ だってこん中で会ったことあるの―――ミライっちだけだしっ★」
サラッ、と告げるミライとエルザに、
「「……え?」」
同時に、アオイとレンはパチパチと目を瞬いた。
エルザは腕を組んで、不満そうに頬を膨らませる。
「ってゆーか、エルちゃんのこと『ヤバいヤツ』なんて心外っ★ こんなに、かわいくて、か弱くて、すぐ泣いちゃう悲劇の女の子なのにっ★ もー、プンチョゴチョゴリっ★」
あっ、とそこでエルザは思い出す。
両手を合わせて、舌を少しだけ出してアオイへ謝罪する。
「さっきはエルちゃんのこと思い出そーとしてくれたのに、ごめんねっ? エルちゃんの想定だと、『いや、知らないんですけど』みたいな感じでハッキリ言われると思ってたんだけど、あんな大真面目に考えてくれるなんて思わなかったっ★」
「い、いえ……ワタシが勝手に勘違いしただけですから、謝ることはありませんよ」
微笑みながらアオイは、首と手を横に振って仕草でも謝ることはないと伝えた。
「ありがとっ★ そー言ってくれると、スゴく助かるなっ★ ……でも、ホントに真面目なんだね。真面目も真面目、大真面目だ。けど、キミみたいに大真面目な子は―――」
不意に手を後ろで組んで歩き出し、エルザは大聖堂へ続く大階段を上る。
その時、大きな雲がやってきた。
陽の光は遮られて、四人は照らされることはなくなり―――陰に隠れる。
その陰に潜むように振り返ったエルザが、
「―――真実とか知っちゃったら、壊れちゃいそう」
小首を傾け、妖しく、嗤った。
知らないまま、なぜかアオイはボーッとその顔を見つめ続けていた。
気が遠くなるような、意識が離れていくような、そんな感覚に陥る。
雲が通り過ぎていき、陽の光が再び四人を照らした。
そこには、太陽にすら負けない、光のような笑顔をするエルザがいた。
「んじゃ、もーそろそろ試験始まっちゃうから―――みんなでレッツゴーっ★」
拳を突き上げると、エルザは振り返って大聖堂に向かう。
同じように拳を突き上げ、ミライも「ゴぉ」とエルザの後に続いた。
「おいっ! 待てよ、お前らー!」
急いで、レンも後を追う。
ポツン、とアオイは一人取り残されてしまった。
まだ、エルザのことを考えていたからだ。
(さっきのあの顔は……いえ、きっとワタシの見間違いです。それより今は、試験に集中しましょう! ミライくんの、隣に居続けるためにも―――!)
「待ってくださーい!」
決意を再確認して、アオイも追いかける。
その時にはもう、エルザのあの笑みはキレイに忘れていた。




