1-80. 起動/MHR-1
綾芽ラボ。夜。
工具の音は、もう止んでいた。
机の上には分解済みの端子。
床には調整途中の配線。
ホワイトボードは、数式と制御ログで埋まっている。
その中央。
静かに置かれているのは――
MHR-1制御コア。
俺は、小さく息を吐いた。
ここまで長かった。
魔力伝達。
応答速度。
制御安定。
定型思考補助。
全部、一つずつ積み上げた。
まだ機体はない。
でも――
“頭脳”は出来た。
「……よし」
椅子に座る。
端末を開く。
「起動」
キーを押す。
《起動シーケンス開始》
《自己診断――正常》
《魔力循環系――正常》
《制御領域接続――正常》
《各モジュール接続完了》
一秒。
沈黙。
そして。
「起動、正常」
抑揚のない声が、ラボに響いた。
俺は画面を見る。
「俺が分かるか?」
「登録ユーザーと一致。識別完了」
問題ない。
「自己認識は?」
「本機は Magical Helicopter R-1。
魔法少女協会配備予定、救援支援システムです」
簡潔。
だが、
それでいい。
「通称は?」
「MHR-1」
「長いな」
少しだけ考える。
そして言った。
「愛称を付ける」
一拍。
「後ろのR-1から取る」
「愛称は――レイ」
わずかな処理待機。
「愛称名を登録しました。
コールサイン:レイ」
静かな声。
でも。
その瞬間だけ、
無機質だった制御コアに、
少しだけ“存在感”が生まれた気がした。
「レイ。応答テスト」
「待機しています」
良い。
モニターに表示された識別コードを見る。
R-1。
本当の意味は――まだ伏せる。
今は、
Rescueでも。
Relayでもいい。
「レイ」
「待機中」
「運用テストに入る。準備しろ」
「了解。
各システム、スタンバイ状態へ移行します」
低く、機械音が響く。
制御コア内部の光が、
ゆっくりと安定していく。
俺は、その光を見つめた。
まだ始まったばかりだ。
でも。
ここから変わる。
情報伝達も。
救援速度も。
現場の判断も。
静かなラボで、
俺は小さく笑った。
「よろしくな、レイ」
「よろしくお願いします」
一瞬だけ、動きが止まる。
……今の返答、
予定に入れてたか?
ログを確認する。
定型文処理。
問題なし。
たぶん偶然。
「……まあ、いいか」
小さく息を吐く。
そして、モニターへ向き直った。
MHR-1。
救援支援システム。
その最初の起動ログが、
静かに保存された。
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