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1-78.スクラップでいいのでください

 魔法少女協会・第三ラボ。

 

「主任!」

 

 その呼び方だけで、嫌な予感がした。

 

 主任は顔を上げない。

 

「……なんだ」

 

「古くてもいいので」

 

「壊れたスクラップでいいので」

 

 一拍。

 

 綾芽は言った。

 

「ヘリと大型バイクが欲しいです」

 

 主任は、ゆっくり瞬きをした。

 

 もう一度する。

 

 現実だった。

 

「……何に使う?」

 

「とりあえず」

 

 軽い声。

 

「構造とか、知ろうかと」

 

 軽すぎる。

 

「あと将来的には」

 

 嫌な前置きだった。

 

「魔法少女さん達の救援用として」

 

 にこっ。

 

「改造して作ってみたいです!」

 

 主任は天井を見た。

 

 現実逃避である。

 

「……スクラップなら、まあ」

 

 絞り出すように言う。

 

「動かない前提でな」

 

「はい!」

 

 即答。

 

 間違いなく理解していない。

 

「じゃあ手配する」

 

「でも条件がある」

 

「はい?」

 

「知識は全部、自分で揃えろ」

 

 その瞬間。

 

 綾芽の目が、きらっと光った。

 

 嫌な光り方だった。

 

「じゃあ!」

 

 息を吸う。

 

 止まらないやつだ。

 

「自衛隊で使ってるようなヘリの操縦マニュアルと!」

 

「整備マニュアルと!」

 

「航空力学の本と!」

 

「ジェットエンジン!」

 

「ロータリーエンジン!」

 

「ディーゼルエンジン!」

 

「レシプロエンジンの本もください!」

 

 息継ぎゼロ。

 

 主任は無言でメモを取る。

 

 止めると長くなるからだ。

 

「以上です!」

 

 深々とお辞儀。

 

「ありがとうございます!」

 

 そして――

 

 ものすごい勢いで去っていった。

 

 嵐のように。

 

 

 残された主任。

 

「……」

 

 隣の研究員が、恐る恐る聞く。

 

「今の……何歳でしたっけ」

 

 主任は静かに答えた。

 

「10歳」

 

 研究員は遠くを見る。

 

「……スクラップでいいって、言ってましたよね」

 

 主任も遠くを見た。

 

「ああ」

 

 小さく呟く。

 

「言ったな……」

 

 

 数日後。

 

 ラボの搬入口に届いたのは、

 

 ・退役済みヘリ(完全非稼働)

 ・大型バイク(エンジン死亡)

 

 綾芽は、目を輝かせた。

 

「うわぁ……!」

 

 宝物を見つけた子供の顔だった。

 

 

 その日のうちに、分解開始。

 

 迷いがない。

 

 躊躇もない。

 

 翌日には、影も形もなくなっていた。

 

 部品は分類され、

 整然と並び、

 壁一面に図面が貼られる。

 

 ラボの空気が変わる。

 

 静かすぎる。

 

 

 三日後。

 

 主任が様子を見に来た。

 

 扉を開ける。

 

 金属の匂い。

 

 紙の匂い。

 

 集中の気配。

 

 床に座り込んでいた綾芽が顔を上げた。

 

「主任」

 

 嫌な入り方だった。

 

「……なんだ」

 

「ヘリって」

 

 一拍。

 

「思ってたより、素直ですね」

 

 主任、無言。

 

 理解したくなかった。

 

「あと」

 

 まだあるのか。

 

「このバイク」

 

 図面を指差す。

 

「魔力と相性いいです」

 

 主任は確信した。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「とりあえず」

 

 綾芽はさらっと言う。

 

「戻しますね」

 

「……何を」

 

「形を」

 

 その瞬間、主任は悟った。

 

(あ、これ)

(スクラップで済まなかったやつだ)

 

 

 ――数日後。協会内・非公式メモ。

 

 綾芽ラボ付近、注意

 

 ・金属音が楽しそうに聞こえる

 ・図面が日々増殖している

 ・主任の胃痛も増えている

 

 子供が静かなときは危険。

 

 そして最後に、手書きで一言。

 

 ※なお、

 「救援用」の定義は

 後日確認すること。

 

 今日も協会は平和だった。

 

 たぶん。

 

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