表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/89

1-50.優先順位、揺れる

 魔法少女協会・受付。

 午後。

 

 珍しく、雫は少しだけ手が空いていた。

 

 端末を閉じ、湯のみを持ち上げる。

 

 そのとき。

 

 奥のカウンターから、小さな笑い声が聞こえた。

 

「もう、綾芽くんったら上手なんだから」

 

 声の主は――柊梓。

 

 雫の手が、止まる。

 

(……上手?)

 

「今日も可愛いですね、だって」

 

 くすくす笑う梓。

 

 隣では神代翠も肩を揺らしている。

 

「言われた言われた。自然に言うよね」

「営業じゃないのが怖い」

「破壊力ある」

 

 雫は、そっと湯のみを置いた。

 音を立てないように。

 

(……そういう子、よね)

 

 分かっている。

 計算なんてしない。

 まっすぐなだけ。

 

 それでも。

 

 端末の画面が、少し遠い。

 

 

 自動ドアが開いた。

 

「こんにちは!」

 

 聞き慣れた声。

 

 反射的に顔を上げる。

 

 綾芽。

 

 雫は微笑もうとして――

 ほんの一瞬だけ遅れた。

 

 自分だけが気づく、わずかな間。

 

「こんにちは、綾芽くん」

 

 声は、いつも通り。

 

 綾芽はぺこりと頭を下げる。

 

「雫さん、こんにちは!」

 

 そして。

 

「今日も優しそうですね!」

 

 ――優しそう。

 

 今日は“可愛い”じゃない。

 

 なぜか、少しだけ肩の力が抜けた。

 

「梓さんと翠さんにも会いました!」

 

 追撃。

 

「二人とも、すごく綺麗ですね!」

 

 雫の思考が、一瞬止まる。

 

「……そう」

 

 穏やかに返す。

 

「綾芽くん」

「はい?」

 

「あなた、誰にでも言ってるのね」

 

 綾芽はきょとんとした。

 

「思ったことしか言ってませんよ?」

 

 即答。

 迷いなし。

 

 雫は小さく息を吐く。

 

(敵わないわね)

 

 

 引き出しを開ける。

 

「これ」

 

「またゼリーですか?」

 

「今日は違うわ」

 

 小さなボトルを差し出す。

 

「喉、乾いてるでしょ」

 

 綾芽が目を丸くする。

 

「……なんで分かったんですか?」

 

「声」

 

「少し掠れてる」

 

 綾芽は笑った。

 

「雫さん、やっぱりすごいですね」

 

 ――やっぱり。

 

 その一言が、静かに落ちる。

 

 

 綾芽が去ったあと。

 

 翠が顔を出した。

 

「……雫」

「なに?」

 

「それ、特別対応だよね」

 

「違うわよ」

 

 即答。

 

 梓もにやっとする。

 

「梓にはゼリーくれなかったのに?」

 

「あなたは自己管理できるでしょ」

 

「差がある」

 

 雫は数秒黙る。

 

「あの子は」

 

 言葉を選ぶ。

 

「ちゃんと前を見て歩く子だから」

 

「つまずく前に支えるのが、後方支援よ」

 

 翠がくすっと笑う。

 

「それを特別って言うんだよ」

 

 雫は、否定しなかった。

 

 

 湯のみを持ち上げる。

 

 もう、冷めている。

 

(誰にでも言う)

 

 分かっている。

 

 分かっているのに。

 

 

 次に自動ドアが開いたとき。

 

 ほんの少しだけ――

 

 自分のカウンターに来てほしいと思った。

 

 

 その感情に気づき、

 雫は目を閉じる。

 

(ただの支援)

(ただの業務)

 

 

 ……そう。

 

 

 なのに。

 

 

 気づけば、また入口を見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ