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1-46.主任だけが理解してしまったもの

 扉が閉まる。

 

 静寂。

 

 足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなってから――

 

 主任は、ようやく椅子に深く背を預けた。

 

「……三年?」

 

 小さく呟く。

 

 もう一度、頭の中で整理する。

 

 ・未変身

 ・男児

 ・訓練歴 三年

 ・波長一致

 ・混色なし

 ・使用者固定武器に同期

 

 指先が机を軽く叩いた。

 

 コツ。

 コツ。

 コツ。

 

 止まる。

 

 「……ありえない」

 

 だが、否定はしない。

 

 否定は、理解できない者のすることだ。

 

 技術者は違う。

 

 理解できてしまう。

 

 だから怖い。

 

 主任は端末を開いた。

 

 過去のデータを呼び出す。

 

 パープル・アイリス――全盛期ログ。

 

 魔力出力曲線。

 同期率。

 制御精度。

 

 どれも規格外。

 

 当時、技術班が出した結論は一つ。

 

 「比較対象なし」

 

 主任は小さく息を吐いた。

 

 「……あの化け物の、直系か」

 

 だが――

 

 眉が寄る。

 

 「違うな」

 

 画面を閉じる。

 

 「方向が違う」

 

 パープル・アイリスは戦闘特化だった。

 

 出力が異常。

 判断が速すぎる。

 迷いがない。

 

 だが息子は違う。

 

 「制御型だ」

 

 即断だった。

 

 「しかも――完成が早すぎる」

 

 椅子から立ち上がる。

 

 窓の外を見る。

 

 技術棟の中庭。

 新人たちが資材を運んでいる。

 

 誰も知らない。

 

 とんでもない芽が、もう出ていることを。

 

 「三年で武器同期……」

 

 首を振る。

 

 「十年級だぞ、それは」

 

 魔法少女ですら届かない領域。

 

 才能ではない。

 

 構造が違う。

 思考の作りが違う。

 

 そこで、ふと止まる。

 

 「あの母親が――隠したがるわけだ」

 

 当然だ。

 

 公表すればどうなるか。

 

 研究対象。

 観察対象。

 最悪――管理対象。

 

 主任は静かに呟いた。

 

 「絶対に表に出すな」

 

 これは命令ではない。

 

 祈りに近い。

 

 その時。

 

 主任の脳裏に、もう一つの可能性が浮かぶ。

 

 もし。

 

 もしも。

 

 あの子が――

 

 武器を“読む側”ではなく、

 

 武器を作る側に回ったら?

 

 沈黙。

 

 数秒後。

 

 主任は、はっきりと言った。

 

 「……時代が動くな」

 

 恐怖ではない。

 

 確信だった。

 

 端末を閉じる。

 

 そして最後に、小さく笑う。

 

 「面白い」

 

 一拍。

 

 「いや……笑ってる場合じゃないな」

 

 視線を扉へ向ける。

 

 もう誰もいない。

 

 だが、確実に思った。

 

 「あの子は、戦場を変える側の人間だ」

 

 静かな部屋に、独り言が落ちる。

 

 「真咲綾芽――」

 

 わずかに間を置いて。

 

 「絶対に、急がせるなよ」

 

 その日。

 

 協会でただ一人だけが理解した。

 

 まだ八歳の少年が――

 

 すでに規格の外に立っていることを。

 

 そして主任は、誰にも言わなかった。

 

 言えば、世界が騒ぐからだ。


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