1-38. ツンしかない
最近、木村由衣の様子がおかしい。
いや、正確に言うなら――前からおかしい。
「ちょっとアンタ! それ持ち方違うでしょ!」
昼休み。
理科の教材を持ち上げた瞬間、横から腕を叩かれた。
痛くはない。
ないが。
「……合ってると思うけど」
「合ってない!」
即否定。
「そこ、重心ズレてるから! 落としたらどうすんの!」
そう言いながら、さっと持ち直す。
完璧な位置。
(いや、上手いな)
「ほら。こう」
「……ありがとう?」
「別に!? アンタのためじゃないし!」
はい出ました。
テンプレ反応。
でも最近、気付いたことがある。
こいつ――
俺のこと、めちゃくちゃ見てる。
廊下でも。
授業中でも。
道場の帰りでも。
気付くといる。
目が合うと。
「……なによ」
キレる。
見てたのお前だろ。
放課後。
俺が紅羽と剣道の話をしていると。
ガタン。
後ろの机が鳴った。
振り向く。
由衣。
無言。
だが空気が荒れている。
「……木村?」
「別に」
別にじゃない顔。
紅羽が小声で言う。
「……怒ってる?」
「たぶん」
何にだ。
「アンタ!」
ビシッ。
「ちゃんと水分取ってる!?」
怒られた。
「え?」
「走ったあとでしょ!? 倒れたらどうすんの!」
机にドン。
スポーツドリンク。
未開封。
(用意してたのかよ)
「……くれるの?」
「違うし!」
秒速否定。
「余ってただけ!」
絶対嘘だ。
紅羽が横で笑いを堪えている。
別の日。
消しゴムが落ちた。
拾おうとする。
ガッ。
由衣が先に拾う。
勢いが強い。
「はい!」
「ありがとう」
「……別に」
耳、赤い。
なんでだ。
体育。
準備運動中。
俺が少しバランスを崩した瞬間。
「危ない!」
腕を掴まれる。
距離が、近い。
一瞬、固まる。
由衣も固まる。
バッ!!
手を離す。
「べ、別に心配したわけじゃないし!」
顔、真っ赤。
「反射だから!」
反射ってなんだ。
「……ありがと」
小さく言うと。
由衣の処理能力が限界を迎えた。
「~~~~っ!!」
声にならない。
「もう知らない!!」
走り去る。
嵐か?
帰り道。
向葵がニヤニヤ。
「由衣、分かりやすいよね」
「なにが?」
紅羽も頷く。
「典型的」
花音は小さく言う。
「……かわいい」
俺は首を傾げた。
「そうか?」
三人同時。
「そうだよ」
即答だった。
俺だけが分かっていないらしい。
遠くで。
由衣がこっちを見ていた。
目が合う。
逸らす。
三秒後。
また見る。
逸らす。
忙しいな。
(……まあ)
悪いやつじゃない。
むしろ。
結構、いいやつだ。
一方その頃。
曲がり角の向こう。
由衣は壁に額を押し付けていた。
(なんであんなこと言ったの私ーーー!!)
好きなのを隠したい。
でも気付いてほしい。
近づきたい。
でも傷つきたくない。
結果。
ツンしか出ない。
完全なツンデレ未満。
だが――
クラス全員が思っている。
木村由衣、分かりやすすぎる。
そして本人だけが思う。
(次はもう少し普通に話す…!)
なお。
翌日。
「ちょっとアンタ!! 廊下走らないで!!」
通常運転だった。
ツン100%継続中。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白かった」
「続きが読みたい」
と思っていただけたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると嬉しいです!
ブックマーク・感想も更新の励みになります。
応援いただけるととても嬉しいです。
次話も頑張ります!




