1-37. 基本動作
魔纏のようなものを扱えるようになってから、俺は一つだけ決めたことがある。
――とにかく、全身に通す。
強くするんじゃない。
増やすんじゃない。
巡らせる。
朝でも、道場でも、家でも。
呼吸に合わせて、魔力の流れを意識する。
最初は、ところどころで引っかかっていた。
肩。
腰。
踏み込みの瞬間。
動きが途切れる場所では、必ず魔力も乱れる。
だから――基本に戻った。
空手の型を、ゆっくりなぞる。
剣道の素振りを、止めずに振り切る。
弓を引き、焦らず、静かに離す。
速さはいらない。
強さもいらない。
ただ、流れを切らない。
すると、不思議なことが起きた。
動作が繋がるほど、魔力も自然に繋がっていく。
まるで最初からそこに道があったみたいに、
淀みなく流れる。
(……ああ)
分かってきた。
魔力は動きに乗る。
逆に、動きが乱れると魔力も濁る。
なら答えは単純だ。
基本動作こそが、最高の制御訓練。
それに気付いてからは、ただ繰り返した。
毎日。
淡々と。
数週間後。
ふと、違和感を覚えた。
魔力溜まりに意識を向けた瞬間――
(……あれ?)
広い。
明らかに、広い。
以前とは比べ物にならないほど、余裕がある。
詰まっていない。
溢れてもいない。
ただ静かに、満ちている。
試しに全身へ流す。
それでも、減った感覚がない。
(ちょっと待て)
さすがに首を傾げる。
俺、こんなに溜められたか?
比較対象がないから分からない。
普通がどれくらいで、多いと何が起きるのかも知らない。
でも、一つだけ確かなことがある。
――基礎しかやっていない。
特別な修行も、無茶もしていない。
ただ、正しく動き続けただけだ。
なのに。
(……俺、今どうなってるんだ?)
少しだけ、不安になる。
同時に。
胸の奥が、わずかに高鳴った。
まだ誰にも気付かれていない。
でも確実に、
前とは違う場所に立っている。
だから今日も、素振りをする。
ゆっくり。
止めずに。
流し続ける。
強さは、たぶん――
こういうところから、
静かに形になる。




