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陰陽師と軍神

 親友が旅立った後も軍神である彼はいつも酒を飲むときは2つの杯を用意して飲んでいた。

 目の前の庭園では、枯れることの無い常世の桜が綺麗に咲いている。この桜はいつでも花を咲かせているのだが、眺めていると、春夏秋冬何かと理由を付けてはいつも花見酒だー、と騒いでいた親友を思い出す。

 春は花見の本番だと言い、夏には緑の中の桜が美しいとうっとりと眺め、秋は月と花と団子だよねと笑い、冬の雪と桜は最高だと満足気に微笑んでいた。

 いつだって楽しそうな彼を思い出していると庭先に気配を感じて顔を上げた。


「こんばんは、軍神殿。今宵も良い月夜ですね」


 そこに立っていたのは天狐の血を継ぐ陰陽師。親友の昔からの知り合いで、その関係で自分も知り合いたまには酒を飲む仲間になっていた。


「ああ、全く良い月夜だな。酒は進むが全く酔えぬ」

「はは、お寂しいのでしょう。彼の方は何かと騒がしいお方でしたからねぇ」


 くすくすと笑う陰陽師の青年はその手に一升瓶を抱えていた。


「これをお持ちしました。権現殿の下に奉納された澄み酒です。少し味見させていただきましたが、大変美味でしたよ」


 戦国の世に生きた自分たちより遙か昔に生きて人としての生を終わらせた後、親友によって天に連れて来られたのだと言う陰陽師の青年は、上機嫌に権現の下から持ってきたー貰ったのか笑顔で強奪してきたのかは分からないがー大変美味だという澄み酒を差し出した。彼からしてみたら自分たちなどまだまだ若造の部類に入るらしく、先輩として少々無茶ぶりをしてくるのはいつものことだ。そんな彼ももっと年齢を重ねた方々から見ればまだまだ若造の類いでしかない。


「今宵はこれで飲み明かしましょう。酒の肴は、天照様から伺ったあの方の異世界でのはしゃぎっぷりでいかがでしょうか?」


 どうやら天照大御神より異世界に行った親友の話しを聞いて、おもしろかったのか話しに来てくれたようだった。


「ほう、それは面白そうな…が、あいつは何をやらかしたんだか」


 話しを聞く前からすでにやらかした前提になっている。もし本人がこの場にいたら「何でやらかした前提なの!?断固、抗議する!」とでも言うのだろうが、生憎と今現在は本人が留守にしているので言いたい放題言われるだけだ。


「それがですね、どうやらあちらで………」


 陰陽師の青年は軍神が座っていた縁側に座り、いつの間にか手に持っていた新たな杯を取り出してお互いに酒を注ぎ合って異世界に派遣されていった親友の話しをネタに笑い合っていた。


「やれやれ、あいつはどこに行っても騒動の源だな。それもまだあちらの世界ではお子様なのだろう?どうして厄介ごとに巻き込まれるんだろうな?」


 1人で飲んでいた時はどれだけ酒を飲もうとも全く酔えなかったが、こうして気心の知れた者と飲んで話していればほどよく酔える。ほろ酔い気分で話しが弾み、酒が進む。


「自ら首を突っ込んでいってることも多いんですが、本人はいつも否定して、自分はひっそりこっそり生きてるんだ、と主張してますね。あれはもう意地でそう言ってるだけですから。心の底ではわかっているんですが、認めたくなーい!ってヤツです」


 ちなみに話題の中心人物は彼らよりもずいぶんと年齢が上のはずだ。こちらは人類の歴史が始まってからの存在なのに対して、あちらは神代の時代から最高神である母にこき使われている。


「長年のこじらせは面倒くさいな。諦めることも忘れてないか?」

「あはは、そうですね。諦めが肝心なんですが、あの方の場合は諦めた瞬間から表舞台に引きずり出されるのがイヤなんでしょう。天照様を始めとした見守り隊は、あの方が「ひっそりこっそり生きてる」と主張されている限り手出しはしないそうですから」


 今でもある意味目立っているのだが、本人曰く「ひっそりこっそり」生きるのを止めた瞬間に女神たちによってこれでもかというほど飾り立てられてそれこそ玉座にでも座らされそうな感じらしい。


「飾りがいはあると思うが、『王』には向かなさそうだな」

「ムリでしょう。あの方は『王』にはなれませんよ。なんと言っても自由過ぎますから。あの方を担ぎ上げたところで気がついたら逃げられているでしょうね。おまけにどこの世界に行っても好きなように生きられるだけの力もお持ちだ」


 ははは、と褒めてるんだか貶しているんだがよくわからない言葉を吐きながら青年は朗らかに笑っている。同意見なのだが、何というか、ヤケクソ感が出ている気がしてならない。


「ふふ、女神様方は飾りたい一方であの方のああいった気質も愛していらっしゃいますからねぇ」

「自由なんだか生真面目なんだかよくわからん性格だが、ま、アレはそういうもんなんだろうさ」


 好き勝手生きているのかと思いきや、神々からの頼まれごとは手を抜かずにきっちりやる。それこそ命がけになろうがずたぼろに傷つこうがやりとげる。


「……どうやったら手助けできるんだろうな…」

「さて、難しいところですね。ですが、もし手助けしてほしい、と言われれば全力でお応えする所存ですよ」


 涼やかな目に強い決意の光を見て、その見た目とは裏腹にこの陰陽師の青年も強固な意志の持ち主だということを思い出した。


「…よく似ているよ、貴方とあいつは…」


 少しうらやましい気持ちも持ちながら、ぐっと酒を仰いだのだった。

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