ろくわ。
「こいつは話したのだろう? 当時、自分がしてしまったことを」
まだ陽が昇っていない時間。アザを見たネコさんの声には、哀しみが含まれていた。
「うん。家を壊した、って。魔物達からも、怖がられてた、って」
消えたいと思った、って。
カミュさんの胸に抱かれ、ネコさんは悲し気に目を伏せる。
あそこでネコさんとブランちゃんが現れなかったら、今ここにカミュさんはいなかったかも知れない。
心臓が、嫌な跳ね方をした。
カミュさんに触れてなきゃいけないと思って動かそうとした右手は、いつからかしっかり握られていた。そうして眠る姿は、やっぱりどこから見ても普通の女の子で。炎の中で縮こまって泣いていた少女の一体何が、周囲をそこまで恐怖させたのか分からない。
「母国の者達も、こいつの力を肌で、本能で感じ取っていた。こいつもそれが分かっていた。たった三歳だったんだ、そんなこと、理解できなくてよかった。ほんの一歩、半歩でも踏み込めば、こいつが怖くなどないことは、誰でも分かっただろうに。力の暴走も、あれきり起こっていないしな」
穏やかに眠るカミュさんの頬を、小さな手が撫でる。くすぐったそうに、安心したように、カミュさんは頬を緩める。
「いつからだったか、寝ぼけてちょっかいを出してくる様になってな。角をかじられたり、耳をはまれていたり、見事に身包みを剥がされていたこともあった」
「じゃあ、このあざも?」
「こいつは、一切覚えていないがな」
呆れを隠さないネコさんの瞳は、純粋な慈愛の光に満ちている。
「同族から疎外され、他種族から恐れられ、母から拒絶され。愛を求め飢えるには、十分に過ぎる。くっついてくることが増えたのも、その頃からだ。向けた親愛が拒否されることを、恐れているのだろう」
昔を見つめながらネコさんは、カミュさんの鼻先をつつく。
そこにいるのは、ネコさんとブランちゃんとカミュさん。私がいないのは当然なのに、どうしようも無く悲しい。
「だが、それでもな、今まで私にしか向けなかったものを、お前にはこんなにも早く表した……、嬉しいよ、心から」
「……え、ブラ――」
一瞬だけ白に染まった世界。口元に指を立てて佇む、白い少女がいた。悲しみと寂しさを、必死に堪えている様だった。
「ハクノ? どうかしたか?」
「ぁ、ううん」
言っちゃダメ、なんだね……。
「ん、んぅ」
「と、まあ、こうも話していれば起きるか」
うっすら目を開いて、少しぼんやりしていたけど、
「ぁ、はくちゃんだぁ、えへへ、はくちゃ~ん」
極上の幸せとばかりにほほ笑む彼女に、心の臓がドキムネって大変なことに。
「私も慣れんよ、こればかりは」
そうだろうけど、せめて心の準備ができる程度には言って欲しかった。
「はくちゃん、はくちゃ~ん」
陽が昇るまでの十数分、猫よろしく甘えられて、味わったことのない疲労感に襲われた。
「胸元、隠せてないよね?」
制服でどうにかしようにも、良い具合に見える位置にあってどうにもできそうにない。
「正面からだと気付かれるな」
「だよね」
「それ、誰にやられたの? キスマークみたいで、なんかヤ」
いっぱいあるし、とふくれっ面で付け足して、カミュさんはチョコトーストをかじる。
確認した限りだと、首に一つ、胸元に一つ、背中にも一つあるらしい。一応服を直されてた辺り、寝相が良いと言える気もする。そう言えば、口付けって場所で意味があるんだよね。後で調べてみよう。それはさておき。
「ヤ、ですか?」
覚えてないとは言え、寝ぼけてる自分がしたことに機嫌を悪くしちゃう彼女。頬を少し膨らませて、ちらちら視線をよこして、合えばそらされる。でもまた視線が。ふむ。
「嫉妬?」
「んぐっ」
一瞬詰まりそうになったみたいだけど、なんとか飲み込んでカミュさんは、やっぱりむくれたまま頷いた。
その様子を、ネコさんは優しく見つめていて。ふわり笑って、オムレツを一口。もう少し小分けにして出すことにしよう。
「ハクちゃん、ヤじゃないの? そんなの、付けられて」
「愛情表現ですから、全然ですね」
これを見て騒ぐかも知れない人は、約一名いるけど。
「寧ろ、どんと来いって感じです」
もっと、幾らでもどれだけでも。
「むぅ~……! なら、わたしも付けたい! 好きの印!」
「はい、どうぞ」
子供っぽい反抗心が可愛いこともあって、ノータイムで頷いた。
「ふぇっ!?」
向き合った眼前、身を乗り出したまま見事に染まった頬に、一命を取り留めたチョコの一部を発見。
「ちょっと、じっとしててくださいね?」
「へ? え、ちょ、ななな、なに」
「ん……」
できるだけそっと舐めたけど、くすぐったかった様で。なにやら、何かがそそられる吐息を感じた。
「これくらいでも、ちゃんと甘いんですね」
お米よりちょっと大きいくらいなのに。一カップ辺り、砂糖はどれくらい入ってるんだろ……、知らない方が幸せかな?
「カミュさん? どうしたんですか、呆けちゃって」
「なな、ななぁんで、なめ、なめっ――」
「はあ、指でも結局舐めとりますし、同じことですよ?」
それに、みぃちゃんとも、おばあちゃんのお孫ちゃんとも、普通にすることだ。おばあちゃん、相変わらず我流拳法とか教えてるんだろうなぁ。
「と言うか、カミュさんもしてくれたじゃないですか。指を省いただけです」
「あの時はっ、その、だって、まだ、その」
口の中でもごもご言われると、今の聴覚でも聞き取れない。
首を傾げる私の後ろでは、ネコさんが堪えながらもしっかり笑ってる。
「よく分かりませんけど……、印、付けてくれないんですか?」
「ふへぁっ!?」
胸襟をずらすと、顔を真っ赤にしてそんな声を上げられた。堪えられなくなったらしく、ネコさんの笑い声も聞こえる。
「いいんですよ? どこでも」
近づいた分だけ、カミュさんは下がる。でもその視線は、しっかり胸元に感じる。
「は、くちゃん」
「今あるこの印、カミュさんの印で、好きで、上書きしてください」
当たった手と手、逃げられる前に絡め取る。
無意識の内に現れた彼女からじゃない。ちゃんと、意思を持ってる時の彼女から貰いたい。受け止めたい。カミュア・アトワイトが存在していることを、確かな物として感じたい。
大きく生唾を飲む音がして。
「カミュさん、きてください」
あうあう赤く慌てながらなお引き下がる彼女に迫る。視線を合わせ続けて、何分くらい経ったのか。
「ふひゅ~……」
声ともつかない声を漏らし気絶してしまった。なぜ?
私達の後ろでは、やっぱりネコさんが笑い転げていた。
積もる話しは夏休みに。
と言う訳で、寝かせたカミュさんはネコさんに任せてやってきました、五日振りの学校。明後日から長期休暇だからか、大層賑々しい。
廊下から聞こえるのも、プールやらハイキングやら海水浴やらキャンプやらの話ばかり。海水浴とかは遠出が前提だけど、その道中も大層楽しむんでしょうねぇ。このっ、リア充共めっ。
「で、三日の無断欠席ばかましたシロちゃん、言い訳ある?」
目の前で足を組む茶髪が鮮やかな美乳さん。我らが二年三組の担任を務める、城峰香穂子先生、二十三歳独身。生徒職員共にフレンドリィなことで、かほちゃんの愛称で慕われておられる。一部では、時折見せる冷たい眼差しが堪らない、とのことでも有名だとか。色んな人がいるんですね。
はい、今現在、私は職員室にいるのです。理由はかほちゃん先生が言った通り、無断欠席について。
正直に答えるしかないのは分かってるけど、来た時から既に握られてるハリセンが怖い。長さ四十センチくらい、幅十二センチくらい。絶対、痛い。なんで靴を履き替えたタイミングジャストで放送できたんだろう?
「正直に言ったら手加減するよ?」
「寝てました」
直後、高森学園高等部校舎に、それはそれは気持ちの良い音が響き渡った。
手加減ってなんだろう?
煙を噴くハリセンを見て、しゅうしゅうと鳴る頭でそんなことを思った。
「はい、無断欠席のペナルティ終了。で、それはなんね?」
それ?
「失礼しま~す……」
やけに黒く暗い雰囲気を纏って彼女、みぃちゃんが現れたのは、聞き返そうとした時だった。
「あ、みぃ、シロ来とるよ?」
「ぇ? あ、ほんとやぁ」
目の下に濃い隈、艶のあった黒髪は乱れ、いつもの快活なみぃちゃんとは正反対。黒い瞳も、なんだか少し濁ってる様に見える。
余りに異様なその姿に、付近の教職員は即座に退避、教頭先生の机がある最奥部の人口密度が一気に上がった。教頭先生、お経を唱えても意味ないと思います。その数珠どこから出したんですか?
「はくの~、はくの……白、の……へ?」
「やっほ」
段々と生気が戻ってきた顔は、驚きに染まっていき。
「白乃っ!? ほ、ホントに白乃!?」
「うん、ホントに白乃。五日振りだね、みぃちゃん」
みぃちゃんは体を震わせながら、頭のてっぺんから足の爪先まで、何度も視線を上下させ、
「……はく、の、よかった、よかったぁ~……!」
へたり込んで、わんわんと泣き出してしまった。
「こんな、に、しんぱいさせ、んでよおっ! もお、あえんとか、おもわせんで、よおっ、ばかぁ……!」
溢れる涙を拭おうとすることなく伸ばされた手に手を重ね、指を絡める。膝を着いて、額を合わせる。泣き声は、より大きくなる。
初めてこうしたのは、七年前。おばあちゃんと町を散歩してる時に通った公園で、蹲って泣いてるみぃちゃんを見つけた時。
――手と手ばこがんふうにして、おでことおでこを合わすっと。
八十歳にして健康体その物のおばあちゃんが教えてくれた、好呂家のおまじない。親しい誰かや、愛しい誰かが泣いた時、何かでぶつかり合った時、大事なことに挑む時は、こうして存在を確かめ合って、気持ちを流し込むんだよ、と。
彼女の涙は止まらない。頬を伝って、絡めた手に落ちる。その熱が、そのまま私に向けられる想いの温度に感じられて。
どうかそうであって欲しい。
いつか離れ離れになっても、せめて種火は残って欲しい。
そんな我侭と、謝罪と、感謝を込めて。繋いだ手に力を込めて。目を閉じて。
頬に、唇を寄せた。
鋭く息を飲む音がして、みぃちゃんの鼓動が大きく跳ねた。
「なっ、ななっ、なぁっ――!?」
あ、でじゃびゅ。言いにくい。
「朝っぱらから見せつけてくれんねぇ、お二方。で、シロ、胸元んアザは誰に付けられたと?」
「はぁっ!? ほんと――なんこれ!? 誰!? 誰にやられたとね!?」
肩をがっちり掴まれ、がっくんがっくん揺らされる。泣いたり元気になったり、朝からそれじゃ保たないよ?
「これ!? これのこと!? 首にもあるやん!?」
「おぉう……う、うん」
印を撫でると、なんだかそこだけ、別の温もりがある気がした。
「寂しがり屋で、甘えん坊な娘からの、好きの印」
好意を臆面もなく見せるのに、いざ向けられたら真っ赤になっちゃう、愛しい女の子からの。
「す、すき!? は、白乃もそん人のこと好きなん!?」
「え?」
好き、カミュさんのことが? どうなのかな? 間違っても嫌いじゃないことは分かるけど……カミュさんが言ってた通り、私はまだ、なにも知らない。神様の直系、勇者、可愛い、寂しがり屋、甘えん坊、恥ずかしがり屋、ネコさんLOVE。こういう、ほんの表面的なことしか知らない。好きなこと、嫌いなこと、嬉しいこと、嫌なことを知らない。
あの時は、すんなり答えられたのに……、カミュさんへの気持ちが、変わってきてる……?
「好き、なんだけど」
「けど、なん?」
ん~? なんか、なんか……。
「よく、分かんない」
「分からん……? シロにしちゃ、なんやめずらしかね?」
私も、そう思います。
声が出たのか分からない。
好き嫌いがはっきりしてることは、みぃちゃん達もとっくに知ってる。
だから、なんか、胸がもやもやして。ん~……。
「やっぱり分かんないっ……!」
「ひょあっ!?」
抱き付いたみぃちゃんからは、懐かしい温もりを感じた。
「そんで、昨日までなんしよったと? 家行ったけど、誰も出てこんかったし……、おばちゃんが帰って来た訳でもなかっちゃろ?」
お昼休みの教室で、机を挟んでお弁当タイム。窓からの涼風がきもちい。
昨日までの三日間、朝の調子で過ごしていたらしいみぃちゃんが普段の調子に戻ったことで、周囲はおおいに安心した様子だった。数人の生徒と先生からサムズアップされ、私もサムを上げ上げして答えたら意外そうな顔された。なして?
「うん、お孫ちゃんのとこに行ったきり。元気なのは、確認するまでもないし」
手紙とかが来ないのは、おばあちゃんも同じこと思ってるからだろうし。
「やっぱ、我流拳法とか教えとるん?」
「と思う。強か娘に育てあぐっけん、楽しみにしとき! って笑顔きらっきらさせてたから」
記憶にあるおばあちゃんの笑顔で、トップ3に入る笑顔だった。どうしてか私には教えなくて、他にできそうな子もいなかったらかも知れない。
「お孫ちゃんのこと知らんけど、なんや、頑張ってなって思う」
二時間でダウンした経験者の言葉に、ハムタマサンドをかじりながら頷く。見てたけど、二時間耐えたみぃちゃんは間違いなく誇っていい。
あ、卵、あと二個だったな……、結局お買い物行けなかったし、帰ったら一緒にスーパー行こう、ていうか行きたい。はしゃぐカミュさん見たい。よし決定。
「で、なんしよったと?」
「ん、ねへた」
「三日間ずっと?」
「ん~……、うん、たぶんそう」
時間のズレがあるにしても、一時間ちょっと向こうにいてこっちで三日っていうのはちょっと、って思う。行ってたのがちゃんと一時間ちょいで、残りは寝てた。この方が、私としては納得できる。
「……なんかあったん?」
「私にしてはね、珍しくイベント続きだった。今度、ゆっくり話すね」
「ん、そんアザのこともね」
「うん。はい、あ~ん」
「あ~ん」
差し出したハムタマさんを食べて、みぃちゃんは見てるだけで嬉しくなる笑顔になる。周りもなんだかほんわかしてる気がする。春の陽気ならぬ夏の陽気だね。
「合宿、もう日程は決まったの?」
一息ついたところで聞いてみて、私も一口。うん、おいし。
高森学園は、文化部が圧倒的に多い分、陸上部はグラウンド、テニス部は四面コート、剣道部は道場、ハンドボール部は体育館を、それぞれフルに使って活動できる。野球部は、近くのスーパーのそのまた近くにある野球場を独り占め。この付近では、中学校と高校がうちだけだからこそできる、らしい。快音はいつも響いております。賑やかな青少年の掛け声も。
「うん。毎年恒例の合宿所ば借りて、明後日から月末まで。今年の陸上部、今までで一番気合い入っとるらしかけん、先生めっちゃ張り切っとおと」
めっちゃ張り切ってるんだ。黒豹と名高いあの上野先生が。
「……みぃちゃん、なんで赤くなってるの?」
「ふへっ!? いや、なんでもなかよ! 気にせんで!」
「そう? えと、今年も差し入れしようと思うんだけど、なにがいい?」
「お肉っ!」
若干の赤みは残しつつも、笑顔で拳を突き上げたみぃちゃん。元気カワイイ。略して元かわ……、なしかなぁ。
「分かった」
なぜか教室中のみんなが勢いよくこっちを見た。分かったのって? もちろん分かりますとも。みぃちゃんのことならほぼほぼ分かるし知ってますとも。明確に分からないことと言えば。
「意中の人とは最近どうなの? 進展あった?」
そう、みぃちゃんこと佐藤三咲ちゃん、七年前から同じ人を想い続ける純情っ娘なのです。小学校に転入してきたその誰か、ハッキリ言いましょう。羨ましすぎです爆発してください速やかに。
なんて若干物騒な思考をする眼前、みぃちゃんはポーズをそのままに固まり、教室中のみんなが以下同文。え、なんでこんな微妙な空気に?
「うん、まあ、なんやろねぇ……、しょっちゅうお泊まりしとるし、好きなお菓子作っていくし、時間空いたら一緒におるし。けどたい、鈍感中の鈍感でたい。一向に気づかんくせして、なんか、好き好きオーラがめっちゃ出とるのは分かるけん、うん、なんかね、うん」
鈍感はともかく、好き好きオーラなら負けない。絶対。ほんと爆発してくれないかなぁ、その人。
「白乃はたい」
「ん?」
「好きんなった人に気持ち伝える時、どがんす?」
「どうするもなにも……」
身を乗り出して、俯き気味な彼女の耳元に口を近づけて、
「へぁ? ちょ、ハク」
「好き」
「みゃっ――!?」
囁きに返ってきたのは、かわいい鳴き声。
顔を真っ赤に、目をまん丸にして耳を抑えるみぃちゃんは、いつもの数倍かわいく見える。周りのみんなもそうなのか、視線はこっちに集中してる。
「って言うよ?」
黒い瞳の中の私は、凄く幸せそうに笑ってる。
そう言えば、みぃちゃんの前で笑った記憶って、二回しかないや。やっぱり感情薄いのかな? 脳内は結構賑やかなんだけど。
あまり喋らない人は根暗、とか思わないで下さいねみなさん。必要以上に考えて口が動かないか、口下手か、嬉しさの余り言葉を失ってるか、の大体どれかですからねみなさん。根気よく接してあげてくださいねみなさん。
ほら、賑やか。
「シンプルイズベスト、いい言葉だよねぇ」
好きなら好き。嫌いなら嫌い。分からないなら分からない。
なんにしても、その時々の気持ちをまっすぐぶつければ、程度の差はあっても伝わる。
「相手が鈍ちんさんなら、なおさらだよ? 今度お泊まりする時、布団に潜りこんだりすれば、いくら何でも気づくんじゃないかな?」
気づかなかったらもう、脳改造とかした方がいいかも知れない、その人は。または爆発。だって羨ましいから。
「いつも、やっとる」
おぉ、流石みぃちゃん。相変わらず、いけいけガンガンな。家でもいつもぎゅ、てしてくれてあったかい。
他にどんなアプローチをしてるのか。
出て来たのは、一緒にお風呂、ご飯の食べさせ合いっこ、ほっぺにキス。
真っ赤になりながら言っていたみぃちゃんが可愛いのは、もう自然の摂理として。これだけやられて気付かないお相手は、真剣に病院に行った方が良いと思う。または爆砕。
いよいよ本気で考えていると、やや上擦った声で呼ばれた。
みぃちゃんが繰り出す、赤い顔を少し俯かせて上目遣いと言う、たった二発の超コンボに、私の萌えゲージは限界突破。今なら世界も越えられそう。
「明後日まで、泊まってよか? 相談とか、したいし」
「うん、もちろん」
承諾した瞬間、眩しい笑顔が咲き、リミットをブレイクされたのは言うまでもない。
「あ」
「ん? なん?」
「うん。今、家、同居人がいるけど、だいじょうぶ?」
なぜだろう、空気に亀裂が入った気がする。みぃちゃん固まっちゃっ――あ、他にもいる。
「みぃ~ちゃ~ん? お~い……?」
目の前で手を振っても。ほっぺたをむにょむにょしても。おでこにちゅうしても
「ふひゃあっ!?」
あ、戻った。