目印が無いと案内や説明が難しい第58話
暫時学校の話で盛り上がっていた3人。
そんな折、スチュワートが色々と抱えて食堂へと戻って来た。
「お待たせしました」
そう言うとスチュワートは3人の座るテーブルの前にドサッと荷物を降ろす。
ヴァンが早速荷物へと手を伸ばし巻かれていた紙を手に取る。
中身を確認したヴァンは他の荷物を退かし、紙をテーブルの上に広げた。
何やら日本語ではない文字が書かれているが、瑞希と大輔には解読できない。
「これがこの周辺の地図だな。……ここが現在地だ。そしてこの辺りが剣のあった場所でここがドリュアスの居た場所だな」
困惑している2人を他所にヴァンが地図の一点を指し示しながら説明を始めた。
ヴァンの指を追いながら聞いていた2人だが、大輔がある事に気が付く。
「周辺地図って本当に周辺過ぎないか?」
そう、ヴァンの示した位置を追うだけで地図の1/4程度の確認が完了してしまったのだ。
雰囲気から察するに残りは広大な森やヴァンの館の近くの墓地、そして瑞希と大輔が謎の駅から歩いてきた平地。森を抜けた位置には山脈が連なっていると簡単に推測出来る。
「それにしても森ばっかりだよね。ここからここまで森でしょ?」
瑞希の言う通り、地図の1/2以上は森が占めている。
「うむ。大輔は周辺過ぎると言うておるが地図の端から端まで踏破するだけで3~4日かかる距離はあるぞ」
ヴァンは瑞希の指摘を軽く肯定し、大輔の意見に反論をした。その時、ヴァンが示した端とは地図の上から下の端までの距離であり、長方形の紙の短辺の距離の事であり、長辺はその2倍~2.5倍の距離がある。
つまり、ヴァンの言う事が事実だと仮定して推測すると地図は縦約100km、横約200~250Kmの目算となる。
日本に置き換えると関東1都5県が収まる程度かそれよりも一回り小さい範囲を示した地図と言う事になる。
大輔は周辺過ぎると言ってはいたが、森が多くヴァンの指した位置も曖昧過ぎたが故にそう感じただけとも言えよう。
「そう言われると広いかもしれないが、もっとこう何て言うか世界地図的な物は無いのか?RPGだって世界地図で旅するんだぞ」
「RPGはRPGで問題だけどね。もっと小さい地図じゃないと。あれって世界地図広げながら近くのコンビニまでの道案内頼むようなものだよ。普通なら絶対にないシチュエーションだよね」
ゲームのイメージに毒されている大輔と見当違いのツッコミを入れる瑞希である。
「その『あーるぴーじー』とやらは知らぬが、世界地図となると広大過ぎてこの世の誰も所持してはおらぬだろう。上や下もあるしな……。ここにあるような地図を複数組み合わせて繋げる他あるまい。大陸全土の地図なら持ち合わせておるが見るか?」
残念な事に大輔の例えも瑞希の渾身のボケ(?)もヴァンには伝わらなかったようだ。
しかし、1つ分かった事がある。それはこの世界に世界地図は存在しないと言う事だけだった。
瑞希と大輔は聞き流してしまっているが、ヴァンの言う上や下が何を指しているのかは不明である。
但し、世界地図の件に関してはヴァンが一方的に話しているだけで、真実かは定かではない。
また、ヴァンの言う広大過ぎると言う発言も本当に広大なのかも同様に不明である。
小学生、中学生、高校生、社会人と交通手段が増える事で見える世界が広がる事もある。
そしてアメリカなどでも自分の住んでいる州から出る事無く一生を終える方も存在する。
ヴァンもその類の可能性があり、ヴァンがこの世界の何処までを理解しているのか不明な以上話半分程度に聞いておくのが賢明な判断だろう。
「そうだな。あるなら一応見せてくれ。後は取り敢えず、この地図だと大きすぎるし折り畳んでも良いから持ち運べるサイズの地図があったらほしいよな。手頃なサイズの無いか?」
ヴァンはスチュワートに大陸地図を持ってくるように目配せをする。
スチュワートはヴァンに一礼をすると食堂を後にした。
「これより小さな地図は持ち合わせておらぬ。あったとしても活版技術も複写技術も魔法の使用も出来ぬ故、転写能力も持ち合わせておらぬ。しかし、謄写用の紙とペンは用意させてある。好きに謄写が良い。分からぬ部分があれば答えるぞ」
そう言うとヴァンはスチュワートが地図と一緒に持ってきた荷物の中から羊皮紙らしき物と羽ペンを探し出すとテーブル中央に置いた。
瑞希と大輔が困惑した面持ちで顔を見合わせる。
地図を謄写しろと言われても困るものがある。
文字が読めないのは今更なのだが、そもそもで書き写す必要性が無いのだ。
地図上部は広大な森が広がっており、森を抜けても山脈があるのみ。
そして地図下部は平地などがあるにはあるが、2人が向かおうとしているオウキーニの居る町とは反対方向にあたる。
これで何を書き写すのか……。
困惑していた2人だが、意を決したように大輔がペンを取る。
「まあ、必要はなさそうだが、念の為に町までの道程と途中目印になるようなものがあれば書き込んでおくか」
「そ、そうだね」
その後はヴァンに町までの道を聞きながら渡された紙に地図を描き始める。
地図を描くと言っても現在地黒い丸を書きヴァンと記し、そこから地図を見てヴァンの説明を受けながら主要な道を描く。終点に再度黒丸を描いて町と記す。
残りは迷わないよう分岐がある場所は分岐路の先を少しだけ記し、道から近いスポットをドリュアス泉や剣などと書いた文字を四角や丸で囲う簡易的な物となっている。