私のバイト先にお客さんも来た(いづみside)
後日……
「行ってきまーす」
「お仕事がんばってくるのです」
私は妹の貴音ちゃんを車に乗せ、バイト先に向かった。
※※※※※※※
「ヘルシー日替わり定食【ミニ】ですね? ありがとうございまーす」
カフェの方は徐々にではあるが、お客さんの注文が増えてきている。
全体的に料理のボリュームと価格を抑え、見た目……つまり「映え」を重視した盛りつけに変更した。
さらに「ミニ」と名前を付けたことが、本当はガマンしたいけど「ミニ」くらいなら大丈夫だよね……というダイエッターの心の隙を突いたようだ。実際のところはコストカットのために量を減らしただけなのだが……。
さらに独身OLの会員さんへモニターを依頼し「私はこんなヘルシーな料理を食べてダイエット頑張ってまーす」アピールをSNSで発信、それを見た他の会員さんが食べに来ることで評判も上がってきた。
だが、一番の「立役者」は……
「まぁ! あの子カワイイー!」
「ホントだ―! お人形さんみたーい」
「ねぇー、近くで写真撮っていい?」
「あっすみません! こちらはカフェエリアですのでご注文をお願いします」
「えーっ……んー、じゃあ桃スムージー二つ!」
妹をカフェエリアの一番奥にある席に座らせた。ジムエリアに立入ることができない妹はこの場所で、オーナーの娘の志麻ちゃんに勉強を教わったり一緒にゲームをして遊んでいる。
すると妹を見つけた「筋トレ疲れで癒されたい」会員さんが、妹に近寄りたいために料理や飲み物を注文するようになってきたのだ。
和の言う「妹のバイト」とはこの事だった! 要するに妹は「看板娘」……どちらかと言えば「客寄せパンダ」に近い。働いてはいないが、間違いなく妹はカフェの売り上げに貢献している。
女子高生でメガネっ娘の志麻ちゃんもそれなりに可愛いのだが、そこへ女子中学生の妹が加わったことでカフェは会員さんの「癒しの場」と化していた。
これらは全て和のアイデアだ。ちなみにここのオーナーと新メニューの価格交渉をしたのも、オーナーの姪である和だ。コイツ、性欲モンスターじゃなかったら尊敬に値するヤツなんだけどな……。
※※※※※※※
「ごちそうさまなのです! おねえちゃんの作るご飯はおいしいのです♥」
スタッフの勤務終了後、妹は他のスタッフに交じって私が作った「まかない」を食べていた。
「ごちそうさま~! あ~あ、今夜はパスタが食べたかったのにな~」
「嫌なら食うな! とっとと帰れ!」
この日は和も来ていた……文句を言う割にしっかり完食してやがる。
実は妹がここに初めてやって来た日、帰ってから母・茅乃を問いただした。すると茅乃から、とんでもない真相を聞かされたのだ。
妹は私が夕食時にいないことをとても寂しがっていたそうだ。それを見た茅乃は和に相談し、志麻ちゃんの家庭教師のついでに妹の勉強も見てもらうことと……
私の「まかない」を食べさせることを条件に、妹をこちらに送り出したらしい。
つまり「食費を浮かせる」のが目的だったのだ!
いやいや、それじゃジム側にメリットないじゃん! と思っていたところ、和が切り出してきたのが妹の「客寄せパンダ」化の話だった。
まぁ結果的にカフェの売り上げも上がったからウィンウィンといったところだろうか。私と和も、妹と接する時間が増えたのでよかった……のか?
皆でしばらくくつろいでいると、
〝ブゥウウウウン!〟
私のスマホに入っているスケジュール管理アプリが通知してきた。あぁ、そういえば今日だったよな。私が席を立つと
「あれ? おねえちゃん、今日は筋トレ早いのです」
いつもなら勤務終了後、私は三十分ほど筋トレをしてから帰るのだが今日は別の用事がある。
それは……VIO脱毛だ。
この施設にはセルフエステがある。だが追加料金を払えばエステティシャンによる施術も行える。当然セルフの方が安いのだが、初めての体験で不安だから初回だけエステティシャンに施術をお願いすることにした。
バイトの時間中に施術するワケにはいかないので、今回は無理をお願いしてエステティシャンの方に残っていただいたのだ。
「あぁ、貴音ちゃんごめんよ! 今日は別の用で少し遅くなるから……」
「別の用? 何なのですか?」
「貴音ちゃ~ん、それはね~」
「和は余計なこと言うな!」
和は脱毛のことを知っている……ていうか元々コイツが勧めてきたのだ。
「じゃあ貴音ちゃん、みんなのお手伝いしてあげてね!」
「はいなのです」
バイトができないとはいえ妹を遊ばせておくわけにはいかない。妹にはスタッフへお得意のコーヒーを淹れさせたり、志麻ちゃんと一緒にまかないで使った食器を洗うといった「お手伝い」をさせている。
こうして私は人生初のVIO脱毛をした。セックス以外で他人に大事なところを見られるのは正直恥ずかしかったが……。
※※※※※※※
バイトからの帰り……私は妹を助手席に乗せて車を走らせていた。
「貴音ちゃん、今日も楽しかった?」
「楽しかったのです! 今日は和おねえちゃんに英語を教わったのです」
妹は和から数学や国語、そして英語を教わっている。ただ、ヤツのことだから妹にスラング……例えば「F●●K」とか教えないかとても心配だ。
「和から余計なこと教わってないよね?」
「おっ……教わってないのです」
ん? 何か怪しいなぁ……。
「そういえばさぁ……」
私は「あること」を思い出し、妹に聞いてみた。
「最初にジム来たときさぁ……あのとき、何で来たの?」
「おねえちゃんに会いたかったのです」
「イヤそうじゃなくて……交通機関! ここまで歩いて来れないもんね」
「えっ!? そそっそれはタ……」
「タ?」
「たたっ貴音は電車なのです! でっ電車とバスを乗り継いで来たのです!」
明らかに動揺している……怪しいなぁ。
「そっ、それよりもおねえちゃん!」
「ん……何?」
「おねえちゃんは……貴音の言ったことは気にしなくていいのです!」
――はっ?
「おねえちゃんはムリしておまたの脱毛なんてしなくていいのです!」
――えぇええええっ!?
〝キキィィィッ!〟
思わず急ブレーキをかけてしまった……後続車がいなくてよかった。
「おまっ、どうしてそれを……」
「和おねえちゃんから聞いたのです」
――だろうな! 冷静に考えたら他に情報源ないわ!
「おねえちゃんのおまたは自然のままでいいのです! おねえちゃんのおまたがどうだろうと貴音は気にしないのです! おねえちゃんのおまたがボーボーでもつるんつるんでもたっ、貴音は……興味あるのです♥」
おい、興味あるって言っちゃったぞコイツ! いよいよやべーなウチの妹も……つーか和! オマエは妹に勉強だけ教えてろ! ヘンなこと教えんじゃねーっ!
そういえば……脱毛は事前処理としてあらかじめ毛を剃っておく必要がある。なので今の私は「つるんつるん」の状態だ。
こんな状態を見られたら妹から何を言われるかわからない。しばらく妹と一緒にお風呂入るのは止めておこう。
貴音なのです。貴音は「あること」をおねえちゃんに隠しているのです!




